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アマゾン中国にEC事業撤退との中国報道

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
アマゾンの荷物を運ぶ配送員。(写真:ロイター/アフロ)

中国のニュースポータルサイト・騰訊網に「アマゾンが中国から撤退との噂、従業員はすでに次の仕事探しに」との記事が掲載された。自媒体(SNS上で発信するメディア)「媒体訓練営」が消息筋の発言として伝えたものを転載したもので、電子書籍と越境EC(海外製品を輸入する電子商取引)以外の業務を閉鎖するという内容だ。

なんとも怪しげな内容だが、アマゾン中国の現状を考えるとありえない話ではない。アマゾン中国の前身は、レノボとキングソフトが出資した卓越網というECサイト。2004年にアマゾンが買収した。当時の中国EC市場はまだまだ戦国時代だったが、米eBayとの死闘を制したアリババが覇権を築く。さらに探しやすさとスピード配送で都市部中産層を中心に人気を集めるJDドットコムの台頭、激安セールで地方都市や郊外で勢力を伸ばすピンドゥオドゥオの躍進もあり、アマゾン中国の存在感は下がる一方だ。

調査会社eMarketerが2018年7月に発表したレポートによると、中国EC市場のシェア(金額ベース)はアリババが58.2%でトップ。以下、JDドットコムの16.3%、ピンドゥオドゥオ5.2%という並び。アマゾン中国は7位でシェア0.7%という惨状だ。中国EC市場は取引額、EC化率(小売総額に占めるECの比率)で世界一だ。ネット生配信を活用したECなど(詳しくは拙稿「日本からネット生配信、中国が買う――広がる「網紅」たちの経済)、中国市場にマッチしたサービスが数多く登場しており、巨人アマゾンといえども立ち入る隙はないようだ。

もっとも、中国においてアマゾンが絶好調なビジネスもある。それが「アマゾン全球開店」。中国企業による世界各国のアマゾンへの出品をサポートするサービスだ。アマゾンジャパンにも中国企業の商品が大量に出品されているのでご存知の方も多いのではないか。中国では企業向けに「アマゾンを使って世界で稼ぐセミナー」が盛んに開催されている。「中国で売る」には失敗したアマゾンだが、中国企業の海外進出支援では唯一無二のプラットフォームとしての地位を築いている。

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

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