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閑古鳥が鳴く平昌五輪、THAAD制裁の余波続く

高口康太ジャーナリスト、翻訳家
写真は11日、フィギュア団体が開催された江陵アイスアリーナ。筆者撮影。

「めちゃくちゃ空いてる!人がいない!」

韓国・平昌五輪の江陵オリンピックパークを訪問して、一番の感想は人の少なさだった。

仁川空港から平昌市に向かう高速鉄道はがらがら。現地の入場ゲートもパビリオンもフィギュアスケート会場も並ぶことなくすいすい入場できるし、あちらこちらに空席が目立った。韓国滞在中、一番混雑していたのは帰国直前の仁川空港だった。といっても五輪景気ではない。旧正月休みに海外旅行に出かける韓国人旅行客でにぎわっていたのだった。

11日、江陵オリンピックパークの入場ゲート。筆者撮影。
11日、江陵オリンピックパークの入場ゲート。筆者撮影。
11日、江陵アイスアリーナ。フィギュア団体の試合が行われていたが、人影が見えない。筆者撮影。
11日、江陵アイスアリーナ。フィギュア団体の試合が行われていたが、人影が見えない。筆者撮影。

たまたま私が訪問した時が空いていた……というわけではないようだ。新浪網の報道によると、羽生結弦が金メダルを獲得した17日午前のフィギュアスケート男子フリーでもほぼ半分の入りだったという。組織委員会はチケットの92.8%が販売済み(17日時点)と発表しているが、企業や自治体など団体の購入が多く、チケットを買っても観戦に訪れない、あるいは遅刻するという人が多いようだ。

また、中国人観光客の少なさも気になった。今では世界中の観光地で主力となっている中国人だが、オリンピックパークを歩いていてもほとんど中国語が聞こえてこない。

江陵オリンピックパークのコリアハウスとジャパンハウス。筆者撮影。
江陵オリンピックパークのコリアハウスとジャパンハウス。筆者撮影。

2月初頭、中国国家旅遊局の研究機関である中国旅游研究院は、中国オンライン旅行サイト最大手Ctripと共同で、報告書『2018年旧正月海外旅行トレンド予測報告』を発表している。旅行目的地のトップはバンコク。以下、日本、シンガポール、ベトナム、インドネシア、米国、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、カンボジアと続く。韓国は前年の3位から圏外に姿を消している。

これはTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)問題の影響が大きい。韓国のTHAAD配備を受け、中国では韓流タレントの公演キャンセルやツアー旅行販売中止などの動きが広がった。昨年12月に文在寅大統領が北京を訪問し習近平総書記との首脳会談を実現させたが、いまだに元の状態には回復していない。例えばCtripの旅行ページを見ると、人気旅行先の一覧から韓国は外されたままになっている。

江陵市の食堂にて。メニューは英語、日本語、中国語の訳文がついていた。政府の支援によるものだという。ホスピタリティーは抜群だっただけに人がいないのが残念。筆者撮影。
江陵市の食堂にて。メニューは英語、日本語、中国語の訳文がついていた。政府の支援によるものだという。ホスピタリティーは抜群だっただけに人がいないのが残念。筆者撮影。

韓国政府は五輪チケットを持つ中国人のビザなし訪問を許可するなど誘致策を打ち出しているが効果は限定的だ。五輪開催を起爆剤として中国人スキー観光客を取り込む。韓国のインバウンド戦略は果たして成就するのだろうか。

ジャーナリスト、翻訳家

ジャーナリスト、翻訳家。 1976年生まれ。二度の中国留学を経て、中国を専門とするジャーナリストに。中国の経済、企業、社会、そして在日中国人社会など幅広く取材し、『ニューズウィーク日本版』『週刊東洋経済』『Wedge』など各誌に寄稿している。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)、『現代中国経営者列伝』(星海社新書)。

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