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ホークス育成18歳は「千賀の再来」か。4軍首脳陣も絶賛の新人・藤原大翔とは何者だ?

田尻耕太郎スポーツライター
ソフトバンク・藤原

 ソフトバンク育成に、あのメジャーリーガーの千賀滉大投手(ニューヨーク・メッツ)の1年目当時を彷彿とさせる18歳右腕がいる。 

 育成ドラフト6位ルーキー、藤原大翔投手の評判がものすごく高い。

 1月の新人合同自主トレや2月の筑後スプリングトレーニングは基礎体力強化に重点を置き、3月になってやっとブルペンでのピッチングを始めたのだが、投げ始めてわずか数週間のうちに自己最速を更新して151キロをマークしてみせたのだ。平均球速でも147、8キロを常時計測している。

 福岡県出身。飯塚高校に入学するまでは内野手で、投手歴は高校の3年間しかない。

「もともと肩には自信があって、高校の練習会へ行ったときに投手コーチからブルペンへ入ってみろと言われて、投げたときに135キロ出ていて、そこから投手を始めました」

 高校時代に最速149キロを出したことはあるものの「出たのは1球だけ。大体は140キロ前半でした」と明かす。

昨年12月の入団発表の様子
昨年12月の入団発表の様子

 プロ生活スタートから3か月足らず。劇的に変化したのは若き肉体だ。

 ドラフト指名時のプロフィールでは身長177cmに対して体重68kgと、それでも細身だったが、今年1月に球団寮に入った時点ではさらに64kgまで減っていたという。

「もともと体重が減りやすい方なんです」

コーチ「素直だし、教えがいがある」

 それが現在は70kgまで増えた。トレーニングによって筋量が増加したのはもちろんだが、練習だけで体は大きくならない。やはり食事面を見直したのが大きかった。

「食事の回数を増やしています。朝食と昼食のあと、トレーニングのあとにはバナナなどを摂って、夕食のあとにも寝る前に白米を食べています。夕食のときの茶碗も大きくしてたくさん食べるようにしました」

 奥村政稔4軍ファーム投手コーチ補佐も「最初の頃、小っちゃい茶碗に少しご飯をよそって食べてたから『もっと食え』」と活を入れたそうだが、「吸収しようとしてるのがすごく伝わる。素直だし、教えがいがある。最初は人見知りな感じがあったけど、まずはあいさつと返事を大きい声でするように言った。シュンとして練習するより元気に前向きにやる方が絶対にいい。だいぶできるようになってきたし、すごいスピードで成長している。見ていて楽しい選手です」と顔をほころばせた。

 また、藤原によればその奥村コーチから左脚を上げた際に上半身が反り返り過ぎているのを指摘され、腹圧を意識して修正したことで元々悪かったコントロールが大幅に改善。「スピードはなぜ速くなったのか分からないですけど、体の力を伝えられているような感じがする。それがいいのだと思います」と頷く。

千賀のルーキー時代伝説

 驚異の成長曲線を描くルーキーを見て思い出すのは、かつての千賀の姿だ。

 背番号128の育成選手でプロ生活をスタートさせた千賀は、ひょろっとした体形で、高校時代の最速が144キロだった。また、まったく無名の存在で千賀本人の言葉を借りれば「どんケツで、ビリもビリ」という立ち位置だった。

2012年、プロ2年目の頃の千賀
2012年、プロ2年目の頃の千賀

 1年目キャンプ前の新人合同トレーニングでは大きなショックを受けたのは今も語り草だ。同期入団のドラフト2位は柳田悠岐。ある日、「遊び」だと言ってブルペンでピッチングを始め、その球速を測るとなんと146キロをマークしたからだ。

 後から思えば「ギータさんは普通じゃないから」と笑い飛ばせたが、当時は同じドラフトで入ったルーキー同士で、しかも相手は外野手とあって冗談では済まされない出来事だった。

 ともかく一番下を自認していた男がホークスのエース候補へと成り上がったのは猛練習のおかげだった。当時三軍を担当していた倉野信次コーチの指導のもと、1年目の夏場まではほとんどボールを触らせてもらえず、ひたすら体幹強化のメニューを繰り返した。特に力が注がれたのが腹筋。一日のノルマは1000回だった。毎日の鬼トレ。ただ、数か月が過ぎた頃にキャッチボールをすると「衝撃を受けた」と言った。

「ただのキャッチボールなのに、自分で分かるほど球が速くなっていました。ブルペンで球速を測ったら151キロ。思わずニヤけちゃいました(笑)」

 それが大投手・千賀の原点だった。藤原に千賀の昔話をすると「そうなんですね!」と目を輝かせていた。

 藤原の憧れは、その千賀である。

「同じ育成から世界で活躍しているのと、160キロを超える真っすぐにフォークという決め球もあるので、自分もそういう投手になりたいと思います」

 ソフトバンクの高卒新人は、ドラフト本指名の1位・前田悠伍(大阪桐蔭)をはじめ、まずは土台作りに専念しており実戦登板デビューの「Xデー」はまだ具体的に決まっていない。

「早く投げたい気持ちはあります。だけど、怪我をしないためにしっかり体を作っていきたい」

 千賀のような野球人生を歩むかもしれないという夢を見せてくれる右腕。その第一歩となる初登板のマウンドは、目に焼き付けておいた方がよさそうだ。

(※写真はすべて筆者撮影)

藤原大翔(ふじわら・はると)
背番号142。福岡県出身。行橋市立今川小学校(野菊ベースボールクラブ)~行橋市立中京中学校(京築ボーイズ)~飯塚高校。右投右打。
性格は負けず嫌いでポジティブ。強みはストレートで打者を追い込み、コーナーに鋭く落ちるスライダーで三振を狙うところ。さらに走者を背負いピンチになったときも強い気持ちを前面に出し、腕を振りきれるところ。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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