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無残な大敗の中に感じた、「千賀は先発!」

田尻耕太郎スポーツライター

球界トップレベルのストレートと変化球

ひどい試合だった。4対11の最終スコアはまだしも、序盤2回表の時点で0対10では…。僕のすぐ傍では、小さな女の子連れのお父さんが怒りの声を上げながらビールを呷(あお)りまくっていた。楽しみにしていた家族3人の週末の野球観戦を台無しにされた怒りは理解できる。この日チケットを買ったファンは本当に気の毒すぎた。

そんな中あえて収穫を挙げるとすれば、千賀のピッチングだ。5回から3番手で登板し、3イニングを投げて被安打2、無四球の無失点。三振は5つ奪った。

昨年51試合に投げて大出世を遂げた若き右腕だが、今季は期待に応えているとは言い難い。今年は1月の自主トレ合宿にやってきた時から、何かしっくり来ていない感じだった。調整不足はチーム首脳陣にもあっさり見抜かれ、春季キャンプではわずか3日でA組からB組に陥落した。

しかし持っている能力の高さは間違いない。ストレート、スライダー、カーブ、フォークのどれもが球界トップレベルだ。現在は昨年のピーク時とまではいかないまでも、状態は随分戻ってきたように見える。

「走者を出せない」リリーフより「試合を作る」先発

さて、本題。一人のライターとしての見解を述べさせてもらうと、千賀という投手をより活かすのであれば、先発ではないだろうか。「1点もやれない」リリーフより「試合を作る」先発がいい。

千賀は「ここ一番」になると力む傾向がしばしば見られる。すると上半身に力が入り、球が抜けて浮いてしまう。昨年はまだ怖いもの知らずで何とかなったが、今季は違う。5月9日の西武戦(北九州)では同点の9回に登板して2失点して負け投手になった。内容は決して悪くなく不運な当たりもあったが、負けは負けだ。

5月23日の阪神戦(ヤフオクドーム)では今季1勝目(プロ2勝目)をマークしたが、試合後に笑顔はなかった。2点ビハインドの場面で登板した1イニング目は見事3者凡退の好投。その裏に味方が4点を奪って逆転すると、今度はリードした場面でのピッチングだ。すると先頭から連続四球。1死後には死球を与えて、1死満塁のピンチを作って降板してしまった。後続の五十嵐がしのいで何とか手にした白星だった。

素晴らしい素質を持った右腕だが、まだ経験の浅さは否めない。自分の心のコントロールはまだ出来ていないように思える。特に阪神戦では気になるシーンもあった。2イニング目の先頭に四球を与えると、ベンチから郭コーチが慌てて飛び出してきた。まるで「1つ四球も許さない」といった雰囲気だ。たしかに無駄な四球は良くないが、かえって投手は委縮してしまうのではないか。その後崩れたのはマウンドにいた千賀の責任であるのは間違いない。それでも、それがチームの方針であるならば、なおさら「走者を出しても点を返さない」「味方の得点よりも失点を少なくする」気持ちで臨める先発の方が、力を発揮できるのではないだろうか。

また、千賀はパワー系の投手に映るが、彼が目指すのは「脱力投球」だ。150キロ超に満足するのではなく、140キロ台でも質のいいボールを投げることを求めている。長いイニングを投げるのは十分可能だ。

シーズン途中で構想を変えるのはベンチとしても勇気がいる。しかし、今季のソフトバンクリリーフ陣はサファテ、岡島、五十嵐、森福らがきっちり仕事をしている。さらにルーキーの森が良い投球を見せており飽和状態だ。今後も使いどころにもちょっと困るのでは。ならば、不安定な先発陣に新しい風を吹き込ませてみるのもアイデアだと思うのだが。

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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