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何事もなかったかのように、社会が扱ってきた宗教虐待の問題、同じ轍を踏まないために早急な法整備が必要

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

3月29日、宗教虐待に関する法整備を求める会見が行われました。

末冨芳教授(日本大学文理学部)より「児童虐待防止法、第三者虐待防止法、児童福祉法等の法整備・運用による宗教虐待の禁止及び相談支援体制整備」の要望書を国会議員や厚生労働省、こども家庭庁(令和5年4月1日発足)に提出したとの報告がありました。

宗教虐待の問題は、いかに実効性をもって被害を防ぐかという次のステップに入ってきています。

宗教2世の話を聞きながら、これまで社会がこの問題を放置して、何事もなかったかのようにして扱ってきた実態を知り、法整備に向けて真剣に取り組まなければならないことを強く感じさせられます。

5つの要望

要望書は5つの項目からなっています。

(1)児童虐待防止法改正、第三者虐待防止法の立法等による宗教虐待の禁止および組織的な宗教虐待への調査・改善勧告に関する国・自治体の権限明確化

(2)児童福祉法等関連法制の運用・整備による継続的な相談支援体制の確立

(3)子ども自身への宗教虐待や相談支援体制に関する啓発活動について

(4)宗教2世も緊急避難・保護可能な子どもシェルター、若者の自立援助ホームの全国的整備及び拡充

(5)教員・保育士・指導員・支援員等、子どもにかかわる職の大人が、所属長を経由せず、宗教虐待を直接児童相談所に相談・通報できる指針の整備

「なぜ法改正及び、立法が必要なのか」について、阿部克臣弁護士から説明がありました。

「昨年12月に厚生労働省から出されたQ&A(宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A)の内容には感謝しています。しかし宗教団体という観点からみた時に、これで対処できるのかといえば、難しいところがあります。現在の児童虐待防止法は、保護者(親)から子どもへの虐待になっており、(宗教虐待の場合)親の上に組織があるわけです。教義に基づいて(教団が)指示して親が子供に対して虐待をする形になっています。現在の児童虐待防止法では、そうした事態が想定されていませんので、対応できないことになります」

そこで、児童虐待防止法改正や第三者虐待防止法の立法の必要性が出てくるわけです。

同弁護士は「現在の児童虐待防止法では、地方自治体が対応する、たてつけになっています。しかしエホバの証人や統一教会は全国的組織であり、各地方自治体が対応するのは現実的に難しい。国が対応するための権限をしっかりと明記すべき」とも話します。

要望書にて「組織的な宗教虐待を行う宗教団体、組織への調査・改善勧告に関する国・自治体の権限明確化」を求めています。

ムチ打ちなどの虐待を受けながら、助けを求める先もなく、苦しんできた

(2)~(4)における「継続的な相談支援体制の確立」「宗教虐待の啓発」「シェルターなどの全国的整備及び拡充」について、宗教2世から求める声が強く上がりました。

夏野ななさん(仮名・エホバの証人3世)は「祖父母の代まで皆エホバの証人だったため、幼い頃から苛烈な(ムチをされるなどの)虐待を受けながら、助けを求める先もなく、ずっと苦しんできた」と話します。

彼女自身、自力で教団を脱出しましたが、その時は未成年でした。

「生きていくのに様々な障害がありました。もしあの時にシェルターなどに入ることができたらと強く思います。虐待を受けた子どもたちが安心して社会に出られるようなシステムの構築を要望します」

大人になってからも多くの人が虐待の後遺症に苦しんでいることに触れて、夏野さんは「私もその一人です。自死を選んでしまった人も少なくありません。たとえ親元から出られて、宗教をやめることができても、傷は消えません。私たちにとっては一生終わらない問題です」と虐待を許さない社会に向けて皆で力を合わせることの必要性を訴えます。

エホバの証人の元2世信者の道子さん(仮名)は、子どもへのムチの問題は「1950年代・60年代からすでに行われていた」といいます。彼女はかなり前にエホバの証人を離れていますが、当時は「大きな(信者の)大会になると、女性トイレの前には、ムチ(を行うため)の列と、普通にトイレを使う人たちの列が2つできました」と証言します。「組織全体による“ムチ文化”が、伝統として継続している」「子どもの人権を守るためには、外部からの働きかけがないと難しい」と法整備の必要性を訴えます。

宗教虐待を受けて、多くの2世が心を壊していく

小川さゆりさん(仮名・旧統一教会2世)は「私は物心ついた時から、この世はサタンの世界、自分の教会以外は、サタンと教えられてきました」と話します。彼女のような旧統一教会の合同結婚式を受けた信者夫婦から生まれた子どもは、祝福2世と呼ばれて、原罪がない子として育てられます。

「(親からは)罪ない祝福2世だと教えられてきました。純潔を守るために、自由恋愛が罪であるとされて、禁止されてきました。親の行動などに矛盾を感じながらも、教えにそむくことへの罪悪感を抱くという葛藤のなかで、精神を壊していきました」(小川さん)

脱会後も、彼女は「トラウマ、ストレスから精神を壊して、救急車で運ばれたり、体の震えが止まらず、精神科に通わなければなりませんでした」と話します。これは彼女に限ったことではなく、本当に多くの宗教2世が宗教虐待を受けたことで、心を壊し、教団を離れた後も苦しんでいます。

安倍元首相の銃撃事件以降、彼女のもとには信仰の強制などで苦しむ、多くの宗教2世からの声が寄せられたといいます。子どもたちが自分の意思で逃げられなかったことなどについて「宗教2世問題に関する社会の理解の乏しさや、保護することへの法的根拠がないこと。保護した後、子どもの過ごせる場所がないことが影響していたのだと思います。今も罪のないたくさんの子どもたちが被害に遭って苦しんでいる。必ず解決して頂きたい」と、宗教虐待の禁止を法律に明記することや、組織的な宗教虐待への調査、改善への勧告や国や自治体の権限の明確化を求めました。

宗教2世が発する声を、二度とかき消してはならない

これまで社会は「信教の自由には立ち入れない」という理由で、宗教2世の声をかき消してきました。それを再び繰り返してはなりません。

要望書(5)にて「教員・保育士・指導員・支援員等、子どもにかかわる職の大人が、所属長を経由せずに、宗教虐待を直接児童相談所に相談・通報できる指針の整備」としていますが、筆者はこれが重要だと思っています。

末冨教授は「児童虐待が学校や園で発見された時に、所属長(校長・延長・施設庁)に報告し、児童相談所に相談、通報される状況が一般的です。しかし宗教虐待について、校長・園長・施設長の方のなかには理解が追い付いておらず、厚労省のQ&Aについても知識をもたない方が多いのも実態です。これは宗教虐待ではないだろうと児童相談所への相談をためらい、子どもの被害が深刻化する事態を避けなければなりません」と話します。

小川さん自身も19歳の頃、信仰の強制の問題と、献金の経済的問題などの悩みについて市役所、警察、行政機関に相談しています。

「助けを求めましたが、宗教のことを話した途端に『まずは親子間で相談して下さい』『あなたが家を出ていくしかない』と後ろ向きの対応を受けました。勇気を持って相談したにもかかわらず、とてもショックを受けました。当時の私は親からの信仰の強制や経済的搾取から逃げられる場所はなく、結局、家を出るしかありませんでした」

宗教2世が発する言葉は、勇気をもって上げた声です。それが、どこかで止まることがあっては絶対になりません。すでに述べられているように、宗教2世は、この社会はサタンの世界と教えられています。そうしたなかで、自らの窮状を、サタンと教えられている人たちに声をあげているのです。どれほどの勇気と決意が必要かわかるでしょうか。

いち早く子どもの宗教虐待に気づけるのは、保育園や学校のはずです。そこで情報がストップされてしまえば、救える命を救えなくなることもなりかねません。

夏野さんも次のようにも話します。

「この問題は長きにわたって捨て置かれ、その間にも数え切れない被害者を生んできました。残念ながらムチや輸血拒否により、亡くなってしまった子どもも実際に存在します。今こそこの問題に目を向け、正していくべきではないでしょうか」

宗教2世の声をこれまで、社会は聞く耳をもたずに、かき消してきました。

しかし本来は、こうした小さな声こそ、社会の大人たちはしっかりと耳を傾ける必要があったのではないでしょうか。宗教虐待の問題が世に出てくる道を阻んできた、同じ轍を二度と踏んではなりません。今こそ、真剣に法律の改正と新たな立法をする必要があります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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