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宗教2世が訴える 元エホバの証人2世の死を思い「信仰をしない権利がおろそかにされていった」言葉の重み

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

3月20日、立憲民主党を中心にした国対ヒアリングが行われました。旧統一教会やエホバの証人の宗教2世たちの問題が、いかにこの社会から置き去りにされてきたか。その深刻さを考えさせられました。

信徒会ではなく、旧統一教会本部自らが、誠実に交渉に臨むことを求める

最初に、旧統一教会へ約16億円の返金を求めている集団交渉の進展について、木村壮弁護士から話がありました。

「(教団は)『各地の信徒会関係者より、担当弁護士に連絡する』ということでしたが、それに対して全国統一教会被害対策弁護団は、通知書(2)を出しました。私どもとしては、統一教会という宗教法人の不法行為の結果と考えていますので、信徒会を名乗るところと交渉する考えはありません」

2022年10月20日の旧統一教会の記者会見で「基本的には献金台帳というものをつけているので」と教団側は話し「献金等について記録されたものがあることを公に明らかにしている」(同弁護士)とのことです。弁護団は通知書にて「献金等の記録の詳細を開示して、信徒会ではなく、旧統一教会本部自らが、誠実に交渉に臨むこと」を求めています。

また3月18日に全国霊感商法対策弁護士連絡会が出した「政治家の皆様へ統一教会との関係断絶を求める声明」について、木村弁護士は「政治家と統一教会の癒着が取り沙汰されるなかで、4月からは統一地方選挙も始まります。統一教会との関係断絶をお願いします」と述べました。

無理心中未遂に遭ったことを告白

元エホバの証人の宗教2世の阿部真広さん(仮名・40代)は、幼い頃からムチを打たれ身体的虐待を受けて育ちます。12歳の頃にエホバの証人の活動を辞めることを母に伝えると「どうせ宗教をやめたら神様に滅ぼされるのだから、一緒に死のう」といわれて、スピードを出した車で電柱にぶつけようとするといった無理心中未遂に遭った経験を告白します。この壮絶な体験を2019年に山口広弁護士を通じて、文化庁宗務課にも伝えています。

忌避問題の深刻さを訴えかける

エホバの証人の宗教2世であったiidabii(イーダビー)さんは被害の実情を詩人として訴えています。ご自身も15年間、母親から望まない信仰を押し付けられたと話します。

「エホバの証人の教えを破って、組織から除名・破門というような扱いを受けることを『排斥』といいます。エホバの証人は排斥者に対して忌避をはかります。端的にいうと村八分、完全に無視すること、一切の接触を禁止することです。信者はもちろん家族であってもその措置は変わりません」

iidabiiさんは、忌避問題により精神的に思い詰められて、亡くなってしまった女性の心に思いをはせて、詩にして思いを伝えます。

国対ヒアリングでは「2020年12月27日暗い部屋のなか一人あなたは死んだ」の言葉で始まる「地獄」と題された動画が流されました。

「統合失調症で生活保護を受けていたあなた 長年の苦労がたたり身体も悪くして入退院を繰り返し その後に連絡途切れ 最後に独りで死んでいった 家族は宗教の教え通りあなたを死ぬまで無視し続けた あなたは何故死ななくてはならなかったのでしょうか」(「地獄」より)

動画のなかで彼は「『信教の自由を保証しなければならない』確かにそうだ。しかしその絶対的な文言のせいで『信仰をしない権利』がおろそかにされていった」と語っていますが、この言葉は、とても重いものです。

これまで社会は宗教2世、3世が親からの信仰を押し付けられてきた状況に気づかず、その声を聞いても見て見ぬふりをしてきたところがあります。

今も苦しむ宗教2世たちへのメッセージ

「しかし今はその状況は変わりつつあります」として、iidabiiさんは、今も苦しむ宗教2世たちに切実なメッセージを送ります。

「大勢の大人たちがあなたを救おうと動いています。あなたが本当の意味で笑える世界を作ろうとしています。だからその日まで、どうか闘って、生きて下さい。死ななないでください。生きてください」

こうした宗教2世からの声を受けて、立憲民主党の山井和則議員は、厚生労働省に対して「忌避をされたことはネグレクト、児童虐待にあたるのではないか。未成年者が家族に口を聞いてももらえない。今後、どう対応するのか」を問いました。

厚労省の担当者は「一点目については『虐待にあたる』という認識です。二点目については、今後、法律上のなかで何ができるのかを考える」と答えました。

宗教だけにとらわれずに幅広い網をかけることの必要性

ジャーナリストである鈴木エイトさんからは「宗教団体による児童虐待だけでなく、偏った思想を持った団体、組織により、通常の医療を受けさせてもらえなかったなどの児童虐待は過去にもあります。(宗教2世の問題は)一世代分放置されてきた。ここには政治家の責任もある」と指摘して、宗教団体に限らず、他のカルト的思想をもった団体が行う児童虐待についても網をかけられるような法整備の必要性を訴えました。

女性目線の支援団体も動き出す

元エホバの証人3世の夏野ななさん(仮名)から、宗教2世を対象にした支援団体「スノードロップ」が設立する運びになったことの話がありました。

同団体の強みとして同代表でもある夏野さんは「女性目線での支援ができること」をあげています。

「私自身、実際に教団内で性被害に遭い、他の被害体験も多く見てきました。しかし、これは表に出てこない問題なので、女性が主体となって取り組むことで被害に遭われた方が安心して相談できる環境作りを目指したい」

同団体には、先に体験を話してくれた阿部真広さんや、もるすこちゃん(旧統一教会2世) 川崎凛さんもチームメンバーとして加わり、監事として山口広弁護士も参加しています。

児童の権利に関する条約14条2項について

最後に、同団体にサポートとして加わっている木村壮弁護士は「『信仰しない自由』の問題が出てきていますが、児童の権利に関する条約14条2項では、親が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で行使すべきとなっており、(信仰を)押し付けて良いとはなっていない」と話します。

文部科学省及び外務省のHPでは、同条約は1990年(平成2年)に条約に署名し、1994年(平成6年)に批准を行い、我が国については1994年5月22日に効力が生じているとしています。

14条1項では「締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する」となっており、2項では「締約国は、児童が1の権利を行使するに当たり、父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重する」となっています。

iidabiiさんの言葉を借りれば「誰にも理解されない苦しみを抱いて 心の中ではずっと助けてって叫んでた 『宗教』の2文字を口にするだけで 途端に皆その場からいなくなった」(「地獄」)というように、以前は「信教の自由」の言葉を振りかざせば、何もかもが許される時代でした。

しかしそれは終わりに近づいています。

宗教2世たちが、教団そして信者である親たちにより押し付けられた信仰強制や、忌避による苦しみを、この時代で終わらせなければなりません。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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