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輸血拒否・ムチ打ち・忌避問題 エホバの証人の被害実態はいまだブラックボックス 一刻も早い解明が急務

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
筆者撮影・修正

2月28日、エホバの証人問題支援弁護団設立の記者会見に続き、立憲民主党を中心とする国対ヒアリングも行われて、輸血拒否やムチ打ちなど問題について深刻な実情報告がありました。

かなりの数の被害がある恐れ

ご自身もエホバの証人2世として過ごした経験のある、田中広太郎弁護士は「心配しているのは、1ヶ月間行った調査だけで100件を超える相談が寄せられており、かなりの数の被害が眠っている恐れがあります」と話します。

厚生労働省は、昨年12月末に「宗教の信仰等に関する児童虐待等への対応に関するQ&A」のなかで「医師が必要と判断した治療行為(輸血等)を行わせない」「ムチで打つ」行為はネグレクトにあたるとした通知を出しました。

「Q&Aにて、希望の光をみせてくれました。子供の輸血を拒否するように言われたという、小さなお子さんからの相談もきています。(エホバの証人の)幹部のなかにも、人の道に反していると、公益通報をして下さった方もいます。信者が読む機関紙のなかでも、親が自分の子供に行う輸血拒否は『虐待にはあたらない』と公表もしています。国が考えている指針とは、真向から反することを言っており、撤回することもありません」(田中弁護士)

また「児童虐待防止法の制度は、家庭内で起きることが前提で組み立てられており、全国一律に、組織的に児童虐待が行われている実態が想定されての法律になっていない」とも指摘します。

表に被害状況が出てきていない理由

「かつてのように今も同じように、ムチ打ちなどが行われているかは不明」と田中弁護士は話しますが、ここは重要なポイントです。

親の保護下にある子供が、幼い頃から教え込まれてきた宗教教義に基づいての被害を口にしづらく、実行している現役信者がそうやすやすと、内部の情報を出しません。被害が続いているであろうとは思われますが、その実態が見えにくい状況になっています。

さらに情報が表に出てこない理由に、エホバの証人の特有の忌避の問題もあるといいます。

先立って行われた記者会見でも「エホバの証人の人たち2世の人たちがTwitterなどで声をあげるも、本名を出さない人がほとんどです。それは忌避があるからです。正式な脱退をしたら、兄弟、親とも話ができなくなる。透明人間のように扱われる」と話されており、真実を外に向けて発信できない信者らの実情があります。

ムチ打ちの苛烈な体験と、誰にも話せない苦悩

元エホバの証人3世の夏野ななさん(30代・仮名)は「輸血拒否カードにサインして、首にかけて持ち歩いていた」と話します。ムチ打ちについても、小さい頃は平手でしたが、その後は父親の皮ベルトで打たれています。

「下着を取られて、お尻を出した状態で叩かれますので、皮膚も裂けて、ミミズ腫れになるので、座ることやお風呂に入るのが地獄だった」と以前のヒアリングでもその実情を話しています。それが長年続き、どれほどの苦痛が続いていたかと思うと、本当に心が痛くなります。

「私は、悪い影響を受けるからと、保育園、幼稚園に行かせてもらえず、周りとの関係をもってはいけないともいわれました。家族の絆を壊すことになるので、被害を受けた子供が、それを口に出せず、問題が表沙汰になりづらい。子供たちはどこに言えば良いかわからない。この点を一緒に考えて頂きたい」と強い口調で話されました。

10年~30年間にかけての全国の医療機関の調査を要望

元エホバの証人2世だった団作さん(20代・仮名)は「輸血拒否を小さな子供にも徹底させています。厚労省にお願いしたいのは、過去に輸血拒否によってどのような被害が起きていたのか。子供が亡くなったケースだけでなく、重大な危険にさらされた件の調査など、10年~30年間にかけての全国の医療機関の調査をしてほしい」と訴えます。

宗教的輸血拒否に関する医療界のガイドラインでは、親権者の双方が拒否する場合「医療側は親権者の理解を得られるように努力し、なるべく無輸血治療を行うが、最終的に輸血が必要になれば、輸血を行う。親権者の同意が全く得られず、むしろ治療行為が阻害されるような状況においては、児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護の上、児童相談所から親権喪失を申し立て、あわせて親権者の職務停止の処分を受け、親権代行者の同意により輸血を行う」としています。

また、親権停止が間に合わない緊急の必要がある場合「児童福祉法において親権者等の意に反しても、監護措置をとることができると明記されている。このような緊急の必要がある場合には、上記の手順にかかわらず、児童の利益を最優先に考え、親権者等の意に反しても適切な措置をとることが重要である」との通知も出されています。

団作さんは「法的に最速の対応でも、数時間かかってしまう。その間に児童は亡くなってしまう恐れがあります。それにガイドラインでは強制力はありません。医師が信者家族からの訴訟リスクを恐れずに治療ができるような法整備をしてほしい。子供の交通事故は本当に多くあります。今日、起きるかもしれません」と話します。エホバの証人の子供たちは、輸血拒否による命の危険にさらされているといえます。

「15歳から、自分の意思で輸血拒否ができるとしてますが、子供の言葉通りに受け取っていいものか疑問です。家族のなかでは、自由に自分の意思をいえる環境がないからです。もし輸血をすれば、親と一生、口を聞けなくなる。その環境で『輸血しない。わかっているよね』と親に言われてしまう。また、洗礼(エホバの証人の信者となる)を受けて『輸血拒否カードをもらってきなさい』と言われて、よくわからないまま署名をさせられて持たされることもある。15~18歳の間も考えてほしい」と団作さんは訴えます。

輸血を含めた人命救助で、罪に問われない仕組み作りの必要性

厚労省の羽野室長は「Q&Aにて、輸血拒否カードを強制させる行為や、ムチによる虐待も明記しました。法律では親を指導することができますが、組織的な児童虐待があった場合に、何ができるのかを今後考えていきたい」と述べました。

立憲民主党の柚木道義議員からも深刻な状況に対して「輸血を含めた人命救助で(医師が)罪に問われない観点と整理」を厚労省に求めます。

団作さんは「SNSで『妻が信者で、妊娠時に輸血拒否をすることになった』という事例も聞いています。エホバの証人では、例外なく輸血を拒否するので、妊婦であっても輸血を拒否するのが基本です。こうなると、妊婦が死亡するだけでなく、お腹にいるお子さんも亡くなる可能性もある。生まれる前であっても、子供の生きる権利、人権もあるはず。子供の権利が大事だと思う。ぜひ議論してほしい」と続けます。

質問権の行使はできないのか?

同党の鎌田さゆり議員からは「違法性がある時には、質問権の行使はしないのか?」を問いました。

文化庁は、一般論として「著しく公共の福祉に反しているという内容があれば、質問権の行使もありえる」としていますが、旧統一教会のケースのように「違法性」「組織性」「継続性」を勘案して、要件に合致する形であれば、質問権の行使もありえるが、現段階ではその情報が充分ではないとの答えでした。

田中弁護士は、現状のエホバの証人の被害は「ブラックボックスである」と指摘して「実態解明の追及と議論を進めてほしい」と話します。

旧統一教会の問題では、多くの高額献金などの被害が寄せられることで、国が動きました。同じように、いかに多くのエホバの証人における被害事例を集め、その実態を明らかにするかが、この問題を解決するための重要なカギになります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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