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偽パイロット詐欺で2000万円被害「自殺未遂をしました。元の生活には戻れない」女性の涙の訴え(後編)

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
イラスト提供:榎本よしたか

40代女性(仮名・恩田さん)は元同級生の男性(亀井裕貴被告)から詐欺行為を受けました。その後、亀井被告はお金を返さずに行方をくらまします。

そこでテレビ番組を通じて男を探してもらい、ようやく発見して話し合いの場を持ちましたが、再び姿を消します。しかし2022年の8月1日、男はJALの副操縦士、会社経営をしていると数々の嘘をつき、500万円をだまし取った詐欺容疑で逮捕されました。

実際には、亀井被告は恩田さんから500万円の後にも、1500万円をだまし取っており、約2000万円の被害になっています。19年に恩田さんは亀井被告を相手に民事裁判を起こし、勝訴判決をえました。

今回の刑事裁判でも、この点について裁判長から質問がありました。

「民事裁判の判決での金額は、幾らでしょうか?」

「2000万円ほどです」

「強制執行もできなかったのですか?」

「はい、そうです」

いまだお金は、彼女のもとに一銭も戻ってきていません。

1500万円をだまし取った悪質な手口とは

恩田さんが投資金として500万円を渡した後に、亀井裕貴被告から、合計約30万円の配当を受け取りましたが、その後の入金はありません。彼女は「次の振り込みはいつなのか?」と数ヶ月にわたり催促し続けました。

男は「会社の口座が凍結されて、お金を引き出せないから」と、振り込めない言い訳をします。さらに「女性A(マルチ商法を紹介してきた知人女性)から、投資話を持ち掛けられて数百万円を渡したものの、彼女が韓国にお金を持って行方をくらましてしまった。それがもとで法人口座が凍結されている」などといいます。

これは本当なのでしょうか?

裁判のなかで亀井被告からは、韓国の車のリース会社に投資するため、女性Aに数百万円を出資したという話が出ていました。しかしその後、女性Aとは音信不通になったといいます。

仮にお金を持ち逃げされたのが本当であったとしても、裁判では「(自分の)会社は実在するのか」の質問に「実在しない」と被告は答えていますので、会社自体が存在しませんから、「口座凍結」の話は嘘ということです。

どうやら、参加していたマルチ商法への支払いの滞納分や、女性Aに渡したお金を工面するために、方々からお金も借りていたようで、その借金返済にあてるために、恩田さんから500万円をだまし取っていたとみられています。

さらに亀井被告は、だました事実をバレないようにするためにか、女性Aを捜索するという名目で、すべてのお金を自分持ちで、恩田さんを4泊5日で韓国に連れて行っています。

こうして「お金の持ち逃げによる口座凍結が事実である」ように装った後に、亀井被告は、恩田さんに「200万円の利益を出すには、500万円では足りなくなった」と言い、彼女から250万円を出させています。

嘘の新会社設立を持ちかける

亀井被告のお金の無心は止まりません。

「やはり銀行口座が凍結されて、お金を引き出せないから、新しい会社を一緒に作らないか。自分の会社からも1000万円を出す。君からも同じ額を出してもらって、2000万にして会社を作り、心機一転して頑張ろう。一年後に全額返金できる」と恩田さんに共同経営の話を持ち掛けます。

「すでに750万円ほどを渡していましたので、とにかくお金を返してほしかったので、必死でお金を工面しました。1000万円位になった時には、亀井に借用書を書かせました」(恩田さん)

彼女が多額のお金を出してしまい、後には引けない状況であったことがわかります。

FX取引の経験はなかったという事実が発覚

裁判では、弁護士から「FXの経験はあったのか」の質問に対して「なかった」と答えていますので、亀井被告は何の知識もないままに、FXや投資会社の話を持ち出しています。多額の投資をする前には、必ず金融知識に詳しい人に相談をしてみることは必要です。

男は彼女から貯金を奪うだけでなく、借金までさせていきます。

「亀井は『仕事で使うために、大きい車を用意した方がいいから、会社で買おうよ。自分はロールスロイスなどの車を複数持っている。『君の名義で買えば、資産になる』といわれて、600万円のベンツを契約させられました。支払いは亀井が行うというので、安心して契約しましたが、一切代金は払ってくれませんでした」(恩田さん)

当然、車は彼女名義での契約ですので、請求は彼女のもとに来ます。仕方なく、一回も乗っていないベンツを売却しましたが、300万円ほどにしかならず、大きな借金を背負うことになりました。

彼女に借金を繰り返しさせて、金をだまし取る

また「会社の社員たちの、新幹線の回数券が必要だ」といわれて、持っている複数のクレジットカードを使われされたこともあるといいます。こうして、借金が日に日に増えていき、支払いが滞っていくようになります。ついに恩田さんのもとに、督促状が次々に届き始めます。

親と同居していたので、多額の借金をしていることがバレてしまいます。それと同時に、亀井被告が彼女に数々の嘘をついていたこともわかり、被告の親と彼女の親ともに、話し合いを持ちました。

「その場では、亀井は『必ず返すから』といい、彼の父も返済に協力するような素振りをみせたので、一旦話し合いを終えました。私も親も、相手が元同級生ということもあり、それを信じていました」(恩田さん)

しかし、亀井被告は金を払わずに行方をくらましてしまいます。

テレビ番組にて、偽パイロット男の捜索をしてもらうも…

「2年半に渡り連絡が取れなくなりました。そこでフジテレビの番組に連絡をして、亀井の居場所を探してもらい、居場所を突き止めました。弁護士立ち会いのもと話し合いを行いました。この時、亀井は『他に貸している債権を回収して返す』と話し、判決の出た2000万に慰謝料300万を乗せた形の2300万の返済を約束しました。しかし2ヶ月間ほどで、またもや音信不通となりました」

そこで弁護士と相談して告訴状を出すことにしました。証明が難しい被害事実を削るなどして、警察に相談をはじめてから約2年後、ようやく正式に告訴状が受理されて、22年8月に亀井被告が警察に逮捕されます。

お金を「返す」「返す」と言いながら逃げ回る。逮捕されるまでに実に6年近くの歳月がかかっています。その間の彼女の心痛はどれほどのものでしょうか。

恩田さんは今の心境を「なぐりつけて、殺したいくらいの気持ち」と吐露します。

他にも、詐欺行為を受けた被害者がいる可能性

「実は、他にもマッチングアプリを通じてだまされた方が多数いるようなのです。一部の被害者の方々と連絡を取りましたが『もう思い出したくない』という方もいました」

裁判のなかでも、弁護士から「女性たちには、なんと名乗っていたのか」の質問に「会社経営者や学者、パイロットを名乗っていた」と嘘をついていたことを告白します。

さらに「体調や病気について、何か伝えていたか」に対しては「体調が悪い、ガンだ、心臓の病気があると言っていた」と答えます。さらに「ガンになったことはあるのか?」については、「ない」と答えています。彼女を含めた女性たちに数々の嘘をついていたことがみえてきています。

ごまかしばかりで、反省が全くなく、許せない気持ち

恩田さんは、亀井被告の傍聴を続けながら、次のように話します。

「私への返済はまったくなく、誠意ある謝罪もありません。裁判での受け答えを聞いていても、ごまかしばかりで、反省が全くなく、許せない気持ちです。ここを出ても同じようなことを繰り返す恐れがあると思います。次の被害者が出ないためにも、厳しい実刑を望みますが、正直『一生刑務所に入ってろ』と思っています」

10代の頃から必死で貯めたお金をだまし取られ、そして多額の借金を抱えこむ。

苦労をかけた親に孝行をしたいという思いに付け込まれて、借金の返済をしてしまい、親に肩代わりしてもらい、逆に迷惑をかけてしまう結果になっています。

彼女の後悔は想像を絶するものがあります。自責の念からでしょう。自殺行為もしています。現在、彼女はうつ病と診断されて、精神まで破綻させられています。

彼女が奪われたものは、人生そのもの

最後に恩田さんは「失ったものは、お金だけではありません。彼からの返金を求めて、民事・刑事裁判で訴えるために、長く時間も奪われました。何より、思い出したくないことを無理やり心の中からひっぱり出さなければならず、体調や心への影響は大きかったです。詐欺の対応をすればするほど、寝込み、倒れ、慢性的な頭痛に悩まされました。本当に辛い6年間でした」と胸の内を話します。

恩田さんは苦しい思いを胸の内に抱えながら、必死に前を向いて歩こうとしています。亀井被告によって奪われたものは、彼女の人生そのものです。

しかし彼女の泣き寝入りしなかった行動は、彼のさらなる他の人への詐欺行為を止めることになり、これから先、すでに金銭的被害を受けた人たちが声をあげる勇気へとつながってくるはずです。

検察側の求刑は懲役3年です。今週末の裁判にて判決が下されます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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