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「最後に残ったのは、プライドなんですよ」飯星景子さんの脱会に悩む信者、家族に向けての重要なメッセージ

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:Fujifotos/アフロ)

飯星景子さんが18日に放送された「報道の日2022」(TBS)の番組で、これからの被害救済につながるとても大事な話をして下さいました。今、旧統一教会と闘っている人にとっても、大きな希望の光になったと思います。

語られる言葉一つ一つにとても大事なメッセージがこめられています。

飯星景子さんは、1992年当時、タレント・キャスターとしても活躍していましたが、統一教会に入信してすべての仕事を降板します。教団のなかでは、自分のもっとも愛するものを捨てる行為は、重要な信仰の一つで「イサク献祭」と呼ばれます。しかしその後、彼女はジャーナリストである父親やカウンセラーとの話を受けて脱会しています。

その経緯について、元信者・飯星景子さんが銃撃事件後初証言 「統一教会は宗教だと思っていません」【報道の日2022】(TBS)にて、お話をして下さいました。

同じ1世信者の立場からみて、私が一番、大事だと思ったのは、次の言葉です。

「最後の最後まで残ったのが本当ちょっとお恥ずかしい話しなんですけど、プライドなんですよ。旧統一教会が社会的な問題のある団体と分かった瞬間、『えっ!こんなアホなことしてたの私』みたいな。それを認めるのが1番辛かったです。色んな人に迷惑もかけ大騒ぎして、父もあんな顔になり家族にも迷惑をかけ、友人も散々心配させて、私ってこんなに馬鹿だったんだってことを何かこう認めるのが辛かったです」

これを話せること自体、いかに彼女がしっかりと自分自身と向き合うなかで、教団をやめていたのかがわかります。

「最後まで残ったのが、プライドなんですよ」は重要な言葉

今、教団の様々な裏事情が報道されて、信者をやめようかどうしようか。悩む人もいると思います。何より家族も信者である本人を強くやめさせたい思いをもって、焦っている人もいるかもしれません。しかし「最後の最後まで残ったのが、プライドなんですよ」は、そうした人たちに向けての重要なメッセージになります。

この気持ちは、信者らが頭の中では教団での活動や教義のおかしさに気づきながらも、最後まで脱会しようかどうしようか、悩むところだからです。

脱会にあたって、迷惑をかけてきた家族への体面や、これまで社会的に非常識なことをしてきた自分自身と向き合うことになります。しかし、それに目を向けたくない思いや、自分を否定するのが嫌で教団に戻る人はいます。私はここが、教団をやめるうえで大きなポイントの一つだと思っています。

実際に、私自身も教団をやめるかどうかを考えるにあたって、似たような気持ちを通過しました。もちろん、家族には10年近く信者を続けてきたプライドから、そんなことは口が裂けてもいえません。

ですが、自分の家族は信者が脱会にあたってどのような苦しい気持ちを抱えて、やめる過程を通過するのかをわかっていたのでしょう。

決して「さっさと、教団をやめろ」などという押しつける言葉は一切、ありませんでした。それどころか、教団との関係を考えるという、何か月もの長い時間を与えてくれました。

後からわかったのは、自分の場合、家族だけでなく、親族、従兄弟みんな同じ思いを共有してくれていたことです。それが自分自身の「プライド」をとかすことのできる、大切な時間だったと思います。

もっといえば「マインドコントロールされている自分を認めたくない」気持ちから、離れるための時間だったともいえるかもしれません。

教団との関係に悩む信者と向き合う時に、その家族が見つめてほしいところは、この部分です。

ですが、脱会する人と、そうでない人の違いが、なぜ出てくるのかといえば、それはその心に自分自身がどう向き合ったのかにかかわってきます。残念なことに、家族がどんなに頑張っても、信者自身がそれから逃避してしまえば、教団に戻ってしまうことになるのは、悲しい限りです。

この信者の持つプライドは、自分自身としっかりと向き合ってやめた人ではないとわからない思いかもしれません。

1世信者だからわかるマインドコントロールの世界

マインドコントロールされた状況について、一般の人にもわかりやすく、飯星さんは、お風呂に入った状況で話をされました。

「スポイトで一滴ずつ赤い染料を落とします。今日一滴入れただけでは色は変わりません。では1か月後はどうですか?少しピンクかもしれない。でも毎日入っているうちにピンクが普通だと思うようになるんですよ。それがいつの間にか真っ赤なお風呂になっていて、でも本人はもうそれがお風呂の色だと思うようになってしまっている、そういう感じです」

おっしゃる通りだと思います。

今回、被害者救済法が成立しましたが、その時、マインドコントロールについての定義が難しいという話が出て、現在の法律では、救える人が限られてしまっています。

この点、すでに「成立した時点で沈みかけている被害者救済法。1世当事者の声を聞かない新法の実効性は、ほぼ皆無とみる理由」の記事にて、国会では当事者である1世信者の話をほとんど聞かず、この点、しっかりとした議論もしていない現状に苦言を呈しました。

今回の彼女の話を聞いて改めて「なぜ、人はマインドコントロールをされるのか」を知るためにも、1世信者らの声をしっかりと聞き、議論して法律に反映させていくことが、本当の救いにつなげるためには大事なことであると感じました。ある意味、1世信者は、被害を防ぐための重要な宝をもっています。

飯星さん、TBSに感謝の思い

最後に、タレントという立場を越えて、旧統一教会の信者であったことを赤裸々に話してくれた飯星景子さん。そして今、教団がスラップ訴訟などを起こして、報道機関を委縮させようとしているなか、教団のこれまで行ってきた裏事情や実態、旧統一教会の2世信者であった小川さゆりさん(活動名)などの状況をしっかりと報道してくれたTBSに、本当に感謝しています。

この内容は多くの悩む信者やその家族たちに大きな希望とメッセージを与えてくれたと思います。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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