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「吐いた物は飲み込みました」「親は家にいつもいません」旧統一教会の祝福2世として育った実態

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:アフロ)

「両親が統一教会に多額の献金をするので、いつも家には食べ物がありませんでした。信者からわけてもらってきたくず米(一般には販売できないお米)を食べていました。幼い頃、父と母は教団の活動で忙しく家にいないので、お腹が減ると、炊飯器を漁って、しっかりと研がれていないために虫や小石が混じっているようなご飯に鰹節をかけたり、お味噌をつけて食べました」

特に、1990年代の韓国の清平に統一教会の神殿をつくるための献金ノルマが激しかった時は、特にひどかったと、現在30代の祝福2世の女性(仮名・高田さん)は辛そうな言葉で当時を振り返ります。

「ご飯を食べると『じゃり』という音がしますが、お腹がすいているので、飲み込みます。しかし、しばらくすると、気持ちが悪くなるのです。そして吐いてしまいます。しかし家には食べる物がないので、口の中に出てきた嘔吐物は、もう一度、飲み込むようにしました。吐いては再び飲む込む。私のなかで、それが当たり前になっていきました」

嘔吐は悪霊が抜けた証拠と教えられる

彼女がよく嘔吐してしまうような体になっていることを親は知っていたのでしょうか?その点を尋ねると「はい。もちろん、知っています」と答えます。

「親は、具合が悪くなって吐いたり、下痢をしたりすると『体の中から、悪霊(サタン)が抜けた証拠だから、良いことなんだよ』と教えられ、病院には連れて行ってはくれませんでした」

彼女は吐いた物を食べる生活を続けてきたために、大人になっても、しばらく胃の調子がよくない日が続きます。

20代になって親しい友人に相談すると「体が拒否反応して出している物を、再び戻すことは体の中に入った悪い物をまた取り込むことになるので、嘔吐物を飲み込むのはやめた方が良い」と言われて、ようやく自分自身のおかしさに気づきます。今は治っているそうですが、子供の頃の生活で身についた行為はなかなか消えないものなのです。

祝福2世としての小学校時代

高田さんの両親は統一教会に献身(出家)して、1980年代の合同結婚式(祝福)を受けています。彼女は、原罪のない祝福2世として育てられます。両親とも教団組織の責任者として活動していたので、いつも家では一人きりでした。

「放置された状態で、今にして思えば完全にネグレクトですね。小学校にあがって、ようやく給食が出されたので、少しはまともにご飯が食べられるようになりましたが。祝福2世の多くは、こうした生活を余儀なくされていると思います」

彼女はどちらかといえば勝気な性格だったので、学校の中でイジメこそなかったものの、本当に周りの人たちとのかかわりあいには苦労したと話します。

「大変なことがありすぎて、どこから話せばいいかわかりませんが……。当時、学校では家庭調査の記入があり、そこに親は『統一教会』と書くのです。それを提出すると、担任の先生も、私を腫物に触るような感じで接するようになりました」

当時、すでに霊感商法の問題や合同結婚式などで統一教会が有名になっていますので、こうしたことを書けば、子供がどのような辛い立場に置かれるかはわかるはずです。子供への配慮は感じられません。

「さらに父親は担任の先生も伝道しようとしていました。私にも『お前は祝福2世の神の子として、クラスの子を全員復帰(伝道)しないといけない』とも言われていました」

そうしたなかで、友達に教団信者の子供であることを知られてしまい、その親から「(高田さんとの)付き合いをやめなさい」といわれたそうです。彼女は友達や先生と、ぎくしゃくした関係をしたまま育ちます。

信仰心が生まれなかった理由

幼いころから、両親から教団の教えを学び、信仰を強要されています。高校生になるまで、その生活は続きます。

しかし彼女は「親からの信仰指導には表向き従いましたが、統一教会の教義を信じる気持ちは、小さいころからありませんでした」ときっぱりと話します。その理由について、次のように言います。

「両親がいたところは『天地正教』といわれるところでした」

ここは統一教会の別組織になります。キリスト教の教えでは誘いにくい、比較的年齢の高い人たちには、仏教を通じて伝道します。

「ここでは、聖書でいうところのメシヤが弥勒仏で、これが再臨のメシヤとしての文鮮明教祖として位置づけられています」

子供の頃は、天地正教が居場所になっていました。しかしここでの光景があまりも衝撃的だったため、信仰をしなかったと話します。

「天地正教では、信者らの戸籍を取り寄せて家系図をつくり、あなたには色情因縁があるので、地獄にいくという話をして、壺や弥勒菩薩像を売っていました。そうした中で、精神疾患のあるような方が次々にやってきていました。奇声を発して叫び出す人がたくさんいて、徘徊したり、ノイローゼのような方が多かったです。中には床にひっくりかえって錯乱状態になる人もいて、とても怖かったです。こうした光景を見ていたので、とても教義を信じる気持ちにはなれず、心にシャッターを下ろしました。もちろん、家のなかでは統一教会マター(教義を中心とした信仰生活)でしたが、親の前では信仰に従うフリだけして心を閉じていました」

信仰を持つ親とは本音では話せない生活が続く中で、反動もあったといいます。

「今思えば、子供の頃の私はやばい人間でしたね。心が闇過ぎて。トンボや蝶々を捕まえては、その羽根や目玉をむしりとって遊んでいました。何かを傷つけなければ、自分を保てない心境だったように思います」と自分自身を振り返ります。

本心を親に打ち明けられずに、過ごす。どれだけ苦しい生活でしょうか。そうした中で、心を病んでいく2世の子供たちも多いと思います。

「とりあえず、親の信仰指導には従っているけれども『1秒たりとも信じたことがない』という私のような人も、結構いるようですよ」と高田さんは話します。

彼氏の存在がバレて、苦行を強いられる

彼女は家庭の中で本音をいえず、精神的にまいっていたので、誰かにすがらなくてはならない気持ちでした。そこで、こっそりと中学時代から彼氏をつくっていたと告白します。

しかし教団では、自由恋愛はサタンのなすことで、禁止行為です。

「それが母親にバレたこともあります。断食を強要させられ、2000回以上敬礼(文鮮明夫妻の写真を前に、正座をして地面に両手と頭を付けてのお辞儀)をさせられました」

その後、彼女はアルバイトを始めて、親元から離れることができました。

「奨学金を使って大学に通い、経済的に自立することで、親は何もいわなくなりました。それどころか、親は献金ばかりして家賃が払えないので、私が代わりに払っていました。家の食費も出しました」

宗教2世の家庭において、子供が親を扶養するという、とんでもない実態がみえています。

フラッシュバックは今も起こり続ける

高田さんは現在、一般の男性と結婚して子供もいます。ですが、父親に居場所を知られると危険なので、戸籍に閲覧制限をかけて、調べられないようにしています。

一見すると、気丈に振舞う彼女ですが「統一教会の話を聞くと、息が苦しくなることがある」とも言います。

「特に山上容疑者の起こした事件の時でした。安倍元首相が銃撃・殺害されて、テレビからと教団の名前が流れてくるだけで、動悸がひどくなりました。そして普通の呼吸ができなくなり、苦しくなります。いわゆる、フラッシュバックというものですね」

何年たっても、幼い頃の過去に気持ちが戻ってしまう。

「こうした気持ちになると、人生が教団の教えにのっとられている気持ちになります。閲覧制限をかけてはいるのですが、いつか教会員である父が追ってくるのではないか、不安な気持ちにもなります」

こうした脅迫観念が、心をよぎることもあると言います。彼女は形だけの信仰だったとはいえ、幼いころに教え込まれたことは少なからず、心に影響を与えていることがわかります。

高田さんは自分自身の過去を振り返り、心を整理しているように思いました。しかしこうした宗教2世ばかりではないはずです。十人十色で事情は違っていて、今も悩み、苦しむ人は多いと思います。

最後に「地方にいる2世たちが声を上げられずに、困っている現状もあります。案外、都会には旧統一教会の問題に関する相談できる場所が整っていますが、地方となると、まだこの問題を理解してくれる弁護士さんも少なく、声をあげられない状況があり、深刻です」とも話します。

この旧統一教会の問題は、高額献金だけを法的にスットプさせたら終わりという単純なものではありません。

先日の日本外国特派員協会で、元統一教会信者で、祝福2世として教団内で育った小川さん(仮名)の記者会見を見てもわかるように、これまでは旧統一教会に入った1世信者を親が信仰をやめさせようとすると、子供である信者が親をサタンとみて刃(やいば)をむいて、その結果、家庭が崩壊することが多かったですが、祝福2世の場合、信仰を離れた子供に、信者である親が非情な言葉で、親子の断絶をさせてくるような形にまで広がってきています。

高田さんも先日の会見を見て「ひどすぎて言葉がない。怒りで体が震えました。おそらく会見を直視できなかった、教団から離れた2世の子もいたと思います」と憤ります。

今後、旧統一教会が宗教法人の解散となっても、信仰を強要されてきた宗教2世や元信者らの心のケアなど、なすべき課題は多く、問題は山積しています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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