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相次ぐ巨額の給付金不正受給事件 詐欺大国ニッポンに性善説はもう通用しない!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

6月に入ってから、持続化給付金の巨額不正受給事件が次々と明らかになってきています。家族を中心にしたグループから、暗号資産の投資をセットにして誘う集団まで、様々な形の不正受給グループが警察の摘発を受けています。

その額も億単位です。不正受給が行われた背景には、給付金の制度設計に甘さや穴があったと考えています。

穴の空いたバケツからどんどん水が漏れ出していく……。国民の血税が不正受給者たちに流れ出ていく様子を、そんな面持ちでずっと見続けていました。

緻密な計画で不正受給を可能にさせたのは「絆」

先月末、家族ぐるみで不正受給を指南していたグループが逮捕されました。

一家4人で960回不正申請、9.6億円受給関与か コロナ給付金(朝日新聞)

この家族グループは、全国で勧誘を行い「国の制度に不備があって、誰もがお金を手にできる」などと、セミナーで不正受給の方法を指南して、申請数も1700件を超えているといいますので、不正受給額は10億円をはるかに超えることでしょう。しかも主犯格とみられる父親は、20年の後半には詐欺の発覚の恐れが出てくると、海外に逃げており、現在、指名手配中です。

今月、200人に不正受給の方法を指南していたとして、コンサルティングの社長らが警視庁に逮捕されています。その額は2億円に上るということです。

給付金詐取容疑、コンサル社長逮捕 200人に指南、2億円被害か―警視庁(時事通信社)

さらに、現役の国税職員が逮捕された報道により、より悪質な不正受給の指南グループの存在も明らかになってきています。

国税職員ら20代男女7人、給付金詐欺…受給2億円の大半を暗号資産に投資か(読売新聞)

この組織は、LINEで仲間同士のグループを作って常に情報共有をしており、先ほどの父親を中心にした家族で不正受給を指南していたグループと同じように、強い「絆」でつながっていたと考えられます。

これまで様々な詐欺グループを見てきてわかるのは、仲間同士の強い絆は、詐欺行為を効率的にこなす、阿吽の呼吸の役割分担にもつながってくることです。そして、裏の情報が外に漏れにくくなります。そこには必ず、核となる中心人物がいて、その周りには一体となってサポートする人たちが存在します。いわゆる、幹部らのスクラムが堅固になることで、緻密な詐欺が可能になるというわけです。

すでに、証券会社の元社員の男が不正受給の立案をして、現役の国税職員が確定申告の申請役を担い、若者に声をかける勧誘役の存在も、明らかになっています。

詐欺グループでは、お金を握っている者が実質的な中心人物になります。このグループの投資金の8割を現在、海外に出国している30代の男が預かっていたとのことですので、この人物が組織を束ねていたとみてよいでしょう。

知識のあるものが、知識のないものを騙すのが、不正受給の構図

この投資グループには、元・現役の国税職員などがいました。彼らはお金のプロです。すでに証券会社の元社員から「審査がきちんとされず偽造書類でも簡単に金が出る」との供述があるように、国の制度の穴をついての犯行であることがよくわかります。

こうした点から、持続化給付金詐欺が起こる背景には「知識のあるものが、知識のない人たちを騙す」構図があると考えます。

そしてここには、不正受給者の名義を貸した者たちは、国を騙してお金を手にしたつもりで、実は話を持ち掛けた詐欺グループに逆に騙し取られる罠にはまっていた点があることも忘れてはなりません。

騙した者は、自らもダマされる

「騙した者は、自らもダマされる」この言葉を肝に銘じておいてほしいーー。

若者らを中心に、自らを個人事業主だと偽り、国から持続化給付金を騙し取る不正受給の実態が明らかになってきたのが20年の夏です。その頃、詐欺グループの指示で名義を貸した不正受給者たちは受け取った100万円のうち3割~7割を手数料として取られていること自体が、すでに給付金を指南グループに騙し取られていることにつながっている。目先のお金に釣られて「絶対に、不正受給に手を貸してはならない!」ことを記事やコメントなど訴えてきました。

騙した者はダマされる。持続化給付金詐欺に仕掛けられた二重の罠。真の狙いとは!?

これまで特殊詐欺を見てきて、被害者宅にお金を取りに行く「受け子」といった、詐欺の手足となる人物は、ほぼ逮捕されています。同じように、今回の不正受給の名義貸しを行った者たちも“捨て駒”の存在として悪事は暴かれて、全額の返金はもちろんのこと、延滞金、加算金なども払うことになる可能性もあるからです。

つまり、指南グループに数十万円の手数料を取られている段階で、名義を貸した者たちは一時的にお金が手にできて喜んでいたとしても、結局はそれを手放さなければならず、不正行為をさせられただけの結果で終わります。ここには指南した詐欺グループが上がりを受け取り、儲かるだけの構図があるからです。

手元にお金がない人が多く存在

経済産業省のHPでは【22.5.26時点】持続化給付金の返還申出件数:21,814件に対し、返還済み件数:15,427件で、6,000件以上が返還されていません。その後、【2022.6.2時点】持続化給付金の返還申出件数:21,949件で、返還済み件数:15,440件になっています。

今回、一連の事件が報道されたこともあるのでしょう。返還申出の件数が 135 件増えています。 しかしながら、返還済は13件しか増えていません。つまり、手元にもうお金がないため、返せない人が多いとみています。

たいがいの不正受給を行う詐欺グループでは手数料が取られるものの、ある程度のお金は手元に残ります。自主返還する際には、名義を貸した本人がその分も埋め合わせて、返還することになります。

ところが、この投資グループの場合、不正受給した名義人らは暗号資産への投資名目で大半のお金をこのグループに渡していて、手元にまったくお金がない人が多くいると思われます。となれば、すぐの返還は難しいかと思われます。

確かに、名義を貸した人物は、警察により逮捕・起訴される可能性はあまりないかもしれません。

しかし、不正受給の形で、国民の血税を騙し取る行為をしたのですから「お金がないから返せない」ではありません。絶対に返還する必要があります。それこそが、自分の犯した罪と向き合うことにつながります。

今、「騙した者は、自らもダマされる」の言葉が、不正受給者たちの肩に、大きくのしかかってきています。

詐欺大国ニッポンには、もう性善説は通用しない

なぜ、持続化給付金の不正受給がこんなにも、次々に起こったのでしょうか。

一言でいえば、制度設計を行う側に、詐欺大国ニッポンの視点が欠けていたからだと考えています。それゆえに、不正への対策が疎かになってしまったといえます。

もちろん新型コロナの急速な蔓延で、経済活動がストップして、お金に困った人たちが出てきました。それゆえ、給付金の支給を急ぐ必要はありました。しかし一方で、不正対策も同時並行で行うべきでした。性善説ではもはや立ち行かない国になっていることへの認識が甘かったのではないでしょうか。

10数年以上、筆者は振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺の事件を見続けてきて、すでに日本は性善説が通用しない、詐欺大国ニッポンであることを実感しています。

例をあげれば、電話をかける人、お金を回収する人など役割分担をして行う組織的詐欺は、日本発祥です。これが世界に広がっていき、アジアでも似たような振り込め詐欺が発生しました。

そして今、海外の犯罪組織は、国際ロマンス・フレンド詐欺などの手口を使い、日本人を詐欺の罠にはめようとしてきています。つまり、国内で生まれた組織的詐欺の手口が海外に出ていき、今度は逆輸入された形で、20代~70代まで幅広い年齢の日本人が詐欺に遭っているともいえるわけです。

犯罪首謀者とのマッチング率の高さが、詐欺大国ニッポンを支えている

詐欺組織に加担する人の多くは「お金に困っている人たち」です。悪意を持って詐欺の組織を立ち上げる人は止めようがないうえに、こうした人たちの誘いに「お金がほしいから」の軽い気持ちで、のってしまう日本人があまりにもたくさんいることをずっと、筆者は見てきました。詐欺を首謀する側と、その誘いに応じてしまう者とのマッチング率の高さが、詐欺大国ニッポンを支えているといえます。

はからずも、それが今回の持続化給付金の巨額詐欺事件の続発で明らかになりました。もはや、性善説をもとにしての制度設計はできない国なのです。

それにもかかわらず、給付金支給を急ぐあまり、制度に穴が開いたままの形でスタートしました。その穴は知識のある者たちには、制度開始前にはわかります。20年5月の給付開始とともに、その穴を狙って多くの不正受給が行われました。

不正対策のひと手間こそが、必要だった

本来、詐欺を行わせないためには、ひと手間かけた対策を取り「難しい」と諦めさせることが大事です。

振り込め詐欺でもそうですが、詐欺の電話をかけても、騙せそうもない相手とみると詐欺をする側は諦めて、自ら電話を切ります。それと同じように「この給付金支給の仕組みでは、お金を取るのはちょっと難しい。手間だ」と不正受給を画策するグループに思わせることが大事になります。

簡易審査や「不正受給は犯罪」との大々的な告知などを通じて、「手間だ」と思わせる方法は様々にあったと思いますが、その対策がほとんどなされないまま、時が過ぎます。

その間に、続々と首謀者と不正受給を行う実行犯とのマッチングが進みます。そして数多くの不正受給の詐欺グループが生まれて、給付金に群がって行きました。

給付金制度というバケツに穴が空いていて、どんどん血税が漏れていく……。次々に犯罪者らに給付金が詐取されていく状況を苦々しい思いで見ていました。

制度に穴があったら、ふさぐ。その応急処置を、すぐにでもすべきだったと思います。こうした対策の遅れがあったことは否めないと考えています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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