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詐欺を許さない!社会の強い声が3590万円の返還をもたらした!カジノに使っていなかった?別の理由も?

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

田口容疑者の口座に誤送金された4630万円のうち、3590万円が決済代行会社から返還されました。

本来、詐欺行為でとられたお金はほぼ戻りません。

しかし、今回のケースを見て「こうして戻ってくることもあるのか」と驚くとともに、ここには、詐欺行為を許さないという、ネットにおけるコメントやSNS上における一人一人の声が、この事件を大きく突き動かした結果だと考えています。

本当にカジノで全額を使ったのか?違うのか?

昨日の段階では、返還された経緯がわかりませんでした。しかし、容疑者から町側の返還請求を認める「認諾」の書面提出の報道があり、少しずつ状況が見えてきています。

4630万円誤給付、容疑者が返還請求認める「認諾」提出…決済代行の1社が3590万円を返還(読売新聞オンライン)

筆者としては、容疑者は実際にはカジノに使っておらず、口座にお金を残していたから、3590万円ものお金が決済代行会社から返還された可能性を感じますが、決済代行会社が、オンラインカジノで容疑者が使い切ったお金を肩代わりしたことも考えられます。

いずれにしても、こうした返還の状況に追い込んだのは、一人一人のこの事件への関心であると考えます。

本当に、カジノで全額を使ったのか、そうでないのかの真相は、今後わかってくると思いますが、あまりにも、メディアの多くが「カジノに全額使った」という情報をベースにした発信ばかりをして、どうにも詐欺容疑で逮捕された容疑者の思惑通りに進んでいる気がしていました。

それで筆者は、マネーロンダリングや資産隠しの可能性という、全く違う意見を訴えてきました。

怪しい出金状況、プロならわかるはず

特にその思いを抱いたのは、出金状況が報道で明らかにされた時でした。

それを目にして、あまりにも規則的な出金が、決済会社などを通じてなされており「どう見ても、これはギャンブルに興じて使っていたように思えない」という印象でした。カジノにのめり込んだ人ならわかると思いますが、もっと出金状況は荒くなります。計画性を疑わざるをえない状況でした。

このままメディアなどで「全額をカジノで使ったので、戻らない」ということを前提にした話ばかりが進み、真反対の可能性を強く指摘をする人がいなかった時、出金先となった決済代行会社、オンラインカジノとしても、本当に容疑者がお金を使い切った場合「返金しない」と言い出し、このまま4630万円すべての血税を失って終わりの結果にも、なりかねないことを危惧しました。

というのも、多くの場合、オンラインカジノでも本人確認をしますし、決済代行会社側も入金していた人物が、報道されていた24歳の若い男性とわかれば、その人物が毎回、1万ドル単位の出金をしている状況に対して「不正資金の疑いあり」との思いを持つのが、当然だからです。

さらにいえば、決済代行会社の口座を持つ銀行も、送金させてしまった銀行も、この不審さに気づけない。マネーロンダリングなどが実に簡単にできてしまう国であることを思います。

「筆者がこの出金状況を見て、計画性や不審さを感じたように、10日ほどで多額の入金がなされる状況を見て、プロである決済代行会社がそれに気づかないはずはない。しかし、マネーロンダリングなどの可能性をわかりながら、もし入金を許していたとすれば、これは大変な問題である」との指摘を次にするつもりでしたが、その矢先、昨日の返還劇でした。

正直な気持ちとして、「えっ、もう返されたの?」です。

詐欺事件では異例の早さの逮捕の裏にあるものは?

一般に、詐欺事件への警察の腰は重く、被害届自体をなかなか受けてもらえないものです。

ところが今回は、4月8日に誤送金があり、その日のうちに、田口容疑者は約67万円を出金し始めましたが、それから1か月ほどで、山口県警は、電子計算機使用の詐欺容疑で逮捕しています。この時も思いました

「えっ!もう逮捕したの?」

今回の返還劇とともに、詐欺事件を見続けてきた筆者が2度も驚かされる事態でした。

「なぜだろうか?」を考えました。

時間が経てば経つほど、お金は闇に消えてきますので、そこには、すばやい警察の捜査が必要です。

今回は、警察の動きも、素晴らしいと思っていますが、その警察を動かした力こそが、社会の関心だと考えます。

ネット記事へのコメントやSNSなどを通じて、多くの人が意見を書き込み、詐欺行為への許さない声が大きなうねりとなって、今回の3590万円の返還への後押しになったことは間違いないと思います。

一人一人の不正出金を許さない思いが、警察、決済代行会社、容疑者の心を動かし、ついには、返還につながっていく。ネットにおける人々の声の大きさを感じた瞬間でもありました。

そこには、法律の専門家らの詐欺行為にあたるなどの意見も大きかったと思います。本当に多くの人の声との連携があってこそ、こうした返金への道筋が生まれていくことを改めて考えさせられる事件でした。

まだ全額の回収には至っていませんが、さらなる返金が進むことを切に望んでいます。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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