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マッチングアプリの同じ顔写真の男に7度アタックしてみたら!ん…詐欺?詐欺師は面倒な人を嫌います。

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(提供:TKM/イメージマート)

マッチングアプリで出会った「シーナン」という台湾人男性に恋をしていた50代女性がいます。

相手の年齢は40代で年下。しかし後にわかったことですが、相手は偽の投資サイトに誘導して詐欺をもくろむ輩でした。当然ながら、その恋は成就することなく……。

彼女はこの男を含めて、同じ顔写真の男に7回もアタックしています。

このケースから、詐欺に気づくポイントと、被害がマッチングアプリを通じて起きてしまう理由の一端がみえてきます。

初代シーナンとの出会い

「最初の男性は、ご自身からアプローチされたのですか?」

「いいえ、相手からきた交際の申し込みに、間違って『いいね』のボタンを押して、カップル成立になったのが、始まりですね」

彼女は特に外国人との出会いは求めていませんでしたが、相手はルックスの良い男でしたので、そのままメッセージのやりとりをしてしまったようです。

その後、LINEでの英語のやりとりは3カ月間ほど続いたといいます。

「その間に当然、結婚をにおわせるような会話もあったわけですよね」

「はい。もう初めからそのような感じでしたね」

彼女のもとには「私の愛を疑わないでください。あなたをとても愛しています」「私は日本に定住したい」「二人で住むための家を買いたい」とのメッセージが次々に送られてきたといいます。

「その後、どのぐらいで投資の話が出てきましたか?」

「1カ月位してからですね。最初はFXで儲ける形の『MT*』の投資アプリをダウンロードするようにいわれました。それに『興味がない』と断ると、次に、ビットコインで投資する『IG*』のアプリを紹介してきました」

「金銭的被害はあったのですか?」

「ありませんでした」

URLになんと「sex」の文字が。

「最初の段階で怪しいと気づかれたのですね。どこでおかしいと、思われたのでしょうか?」

「紹介してきたサイトのURLが変だったからです」

「どのように?」

「末尾に『***sex』とありました。金融関係のサイトの末尾に、そのような文字を使うわけがないと思ったのです」

どのような意図で、詐欺師らがこのドメインにしたのかはわかりませんが、被害に遭わないためには、URLを見ることが、いかに大事なのかがよくわかります。

「それに金融関連のサイトであれば、当然、プライバシーポリシー、利用規約、クッキーについてのコンテンツがあるはずです。それがなかったのも、怪しんだ点ですね」

正規の金融サイトであればあるはずのものがない。こうした点も大事な見極めポイントになるでしょう。

彼女は「詐欺かもしれない」との疑惑を持っていましたが、相手の人物が「なりすましである」とまでは、気がつきませんでした。

投資の誘いは断りながらも、彼に恋心を抱きつつメッセージのやりとりを続けます。

「多田さんの『ご飯たべた?』『何食べた?』は、美男美女になすました詐欺師のサイン!背後にうごめく犯罪組織は?の記事を読んで思ったのですが、7代目とのやりとりは確かに、その通りでしたが、初代の人は「おはよう」から始まりました。初代の人は、台湾の方ではないかと思います」

「どうして、そう思われるのですか?」

「台湾の方は『おはよう』を『早安』と書くそうですが、まさに初代の方が送ってきた挨拶がそうでした。大陸の方は、『早上好』を使うようです」

ということは、初代の顔写真を使ったのは、台湾人を集めての詐欺組織の可能性もあります。

7代目の人物と、初代の人物では、挨拶のパターンが違うということは、同じ顔写真を使っていても、詐欺組織が違う可能性があります。それはこの後のやりとりでも見えてきます。

「初代の男とは、昨年の暮れから、今年の3月までメッセージのやりとりをしましたが、やはり怪しいサイトを紹介してくるような男性とは交際は続けられないと思い、私の方から、別れを切り出しました」

彼女は未練を残しつつも、スパッと関係を絶った。これにより詐欺に深入りさせられることなく、金銭的被害がありませんでした。

2代目は「ミスターリー」

彼女が再び、同じマッチングアプリを見ていると、なんとほぼ同じ顔写真の男性が出てきました。

名前は「ミスターリー」です。

彼女は“シーナンが名前を変えて、登録している”と思ったそうです。

「彼とは別れたけれど、やはり未練も残っていたので、もう一度メッセージを送りました。『あなたは、シーナンですよね?』と」

しかし男は「知りません」と答えます。

「嘘をつかれていると思い『あなたは、シーナンですよね』と、しつこく聞き続けました」

しかし男は「そんな人は知らない」というばかり。そのうちに、この男性とは連絡がとれなくなりました。

三度、同じマッチングアプリを閲覧していると、また彼の顔写真が出てきました。

今度は「木村拓*」です。

「まだ、私はなりすましとは思っていないので、『シーナンなんでしょう』と尋ねたら、『いや、違う』と答えます。“また嘘をついている”と思いましたが、まずは彼が逃げないようにするため、LINEでつながりました」

そして「まったく、シーナン、ミスターリーを名乗るなど、あなたのことが、よく分からないわ!」と、今まで送ってきた写真やメッセージを送り追及します。

男は「いや、違う。君が何をいっているのわからない。僕の写真が勝手に使われているだけだ」と言ってきます。それでも、彼女はとことん追いつめますが、男は「違う」「違う」を繰り返します。

急に、3代目「木村拓*」の顔写真が変わる。

「すると、LINEとマッチングアプリに登録している顔写真が別人になったのです」

「えっ!?写真が別人にですか?」

「はい。私が追いつめたせいですね」

それにしても、まったく別人の顔写真に差し替えても、登録し続けられるアプリはどれだけ緩いのだろうかと思います。

筆者が思うところでは、おそらく母体となる詐欺組織が違うゆえ、木村を名乗る人物は、本当に初代のシーナンを知らなかったのだろうと思います。それにも関わらず、彼女が本人だとい思いこみ、本気で追及してくるのですから、たまらず写真を変えたのでしょう。そもそも詐欺師は、面倒な人を嫌う傾向があります。

もちろん、彼女は追及の手を緩めることなく、メッセージを送り、LINE電話をかけるなど、何度も連絡しました。ついに、彼女は相手からブロックされました。

「すごいですね。普通、詐欺師はお金を取るのが目的なので、ターゲットにした人物を容易にブロックしないものなのですが。きっと、すごい勢いでやられて、参ってしまったのでしょうね」(多田)

4代目は、ついにノーネーム

彼女は同じ顔写真の4代目を見つけます。

「今度は、名前がありませんでした」

もしかすると、面倒なまでの彼女の追及に嫌気がさして、名前を入れずに登録したのかもしれません。

「この男性も、しばらくして強制退会させられたのか、アプリから消えました」

私は逆の考えで、彼女はこの男にもメッセージを送っており、詐欺組織は面倒臭さと、何をされるかわからない恐ろしさから、自ら身を引いたのではないかと思っています。

5度目に彼女が見つけた同じ顔写真の男性は「スデン***」。7月に入り、見つけた6代目の男は「サム」、7代目は「ヘンリー」です。

サムとヘンリー二人とも、シンガポール出身になっていました。彼女は、ほぼ同時期に彼らとメッセージのやりとりをします。

「さすがに、このころになると、これは詐欺だなと確信を持っていて、こいつらの嘘を暴き、逮捕につながる何か証拠をつかみたいという気持ちでいっぱいでした。通話をして、できれば本当の顔を見てみたいという一心でした」

「この辺から潜入が始まるわけですか」

7代目ヘンリーとの電話

6代目、7代目とはLINEでつながり、やりとりをします。

「6代目とは、長くメッセージは続いたのですか?」

「いいえ、短かったです。急に、男が自分の男性器の写真を送ってきたので、気持ち悪いので、ブロックしました」

実は、7代目のヘンリーも同じように男性器を送ってきており、この二人は、同一詐欺組織のなりすましと見てよいでしょう。しかし彼女はヘンリーとは我慢してやりとりをします。

この時、彼女は電話で会話をしていますが「英語がおかしかった」と言います。

「私がNice to meet youといったら、いきなり、How old are youですからね」

「何と返したのですか」

「あなたは(私の年令をすでに)知っているでしょうと、英語で話しました。しかし『huh?huh?』などと言うばかりで、まったく英語は通じませんでした」

「ビデオ通話もあったと」

「そうです。向こうからかかってきたのですが、本当に写真の人物の顔の人だったのです」

「時間は?」

「7秒間くらいです。しかしこちらから声をかけても、それに応じるわけではなくて、一方的に流れてくる」

彼女はヘンリーとのやりとりを、その後、やめています。

その理由を尋ねると「きっかけは、写真ご本人のSNSを見つけたからなのです。実は、先ほどの動画もこのSNS上に載っているものを勝手に送ってきただけでした。ただ、この動画は見ようによっては、こちらに話し掛けているようにも見えますから、これをうまく使って、信じさせようとしたのでしょうね」

動画が写真の顔と同じだからといって、本人がメッセージを送ってきているとは限りません。信じ込まないように気をつける必要があります。

写真を使われた本人は、海外で人気のある方のようで、数千人のフォロワーがいます。

さらに彼女が本人のSNSを見て驚いたことがあると話します。

ご本人が相互フォローしている一人にAさんがいるのですが、3代目の時に顔写真が変わりましたが、まさにその方でした。それ以外にも、本人のフォロワーを見ていくと、数人は、私が利用しているマッチングアプリの顔写真にも使われていました」

投稿している写真が多く、顔立ちの良い人の写真が、新たな詐欺行為に利用されているようです。

今も、マッチチングアプリには、8代目、9代目の詐欺の新メンバー出現中!

今も、詐欺の新メンバーが、続々マッチングアプリに登録されているといいます。

「毎月必ず1回は、彼の顔写真の人が上がってくる。9月に入っても、第8、第9の男が出てきています。アプリの審査はどうなっているのだろうかと、すごく疑問です」

これはあるマッチングアプリの出来事です。

それにしても同じような顔写真を使って、10か月以上も別名でなりすまして、今も登録が行われているのに、それにまったく気づかない。彼女でなくても、多くの人が首を傾げてしまうところでしょう。

「いつ何時、マッチングアプリ利用者が詐欺に遭うかわかりません」

注意喚起の思いで、今回の体験を彼女は話してくれました。

「SNS上に写真を載せている方が、自分の写真が勝手に詐欺に利用される可能性もあることも知ってもらえればと思います」とも付け加えます。

SNSに写真を載せれば、それを国内外で詐欺師に勝手に利用されてしまうこともある。しかし現状では、それを止める術はありません。

それどころか、盗用された写真をノーチェックのまま、自分のサイトに載せ続けているようなアプリもある。これでは様々な詐欺が起きるわけです。

安全安心な出会いを謳うマッチングアプリならば、重要な個人情報を提供をして登録している利用者が、詐欺被害などの不利益を被らないように、徹底した事前対策を施すべきではないでしょうか。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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