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すでに2割の会社は65歳定年で、4割の会社は70歳過ぎも働け、賃金もアップ傾向…あなたはいつ辞める?

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
会社はあなたに70歳までいてくれと言ったとき、あなたはどうしますか。(写真:イメージマート)

(3行で要約すると…)なんとなく「会社の定年は60歳だが、65歳までは安く働かされる」と思ってませんか? 実は65歳定年の会社は2割、70歳以降も働ける会社が4割あるのです。これからの時代に重要になるのは「自分で引退年齢を決める」感覚です。

YouTubeで解説動画も公開しています。動画のリンクは文末に掲載しています。

大企業が65歳定年、70歳まで雇用という新聞報道があったが大企業だけの話ではない

大企業が「65歳定年へ」「70歳まで雇用」のような取り組みをすると日経新聞の一面を飾りました。

2023年7月17日付の日本経済新聞朝刊一面で、人材不足に苦労する企業の多くが、定年の延長、継続雇用の条件アップ、70歳までの雇用期間延長などを進めていると報じています。

2023/7/17 日本経済新聞 60代社員を現役並み処遇 人材確保、住友化学は給与倍増(有料記事)

住友化学は65歳定年へ移行し、60歳代前半の賃金が約2倍になるそうです(60歳継続雇用では賃金を低く抑えることが多い)。JX金属、TOWAも同様の取り組みをするとのこと。

こういうニュースをみると「さすがは大企業だなー」と思うかもしれません。しかし、現場で起きている実態はちょっと違います。むしろ現場では「大企業のほうが遅れている」のです。

すでに2割の会社は65歳定年で、4割の会社は70歳過ぎても働ける(しかも中小企業のほうが実施率高め)

厚生労働省が毎年12月になると公表する「高年齢者雇用状況等報告」を見てみると、意外な数字が明らかになります。

22/12/16 厚生労働省 令和4年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します

65歳定年の企業は、なんと22.2%もある。中小企業に限るとむしろ向上し22.8%になる(むしろ大企業のみだと15.3%と大きく下がる)

現在努力義務化されている70歳までの雇用確保措置について、すでに27.9%が実施済み。中小企業に限れば28.5%(大企業に限ると20.4%と大きく下がる)。

65歳を超えて働ける企業の割合は40.7%(国の努力義務を満たさないケースを含めて)

○むしろ70歳以上も働ける企業の割合は39.1%、中小企業に限ると39.4%、大企業では35.1%。

私たちが思っている以上に「65歳以降も働ける世の中」にすでに切り替わりが進んでいます。

そしてそのほとんどは「中小企業が先行」しています。大企業は現役時代の高い賃金をそのまま維持できないこともあって、60歳を一区切りとしてきたようですが、中小企業はそのままの雇用条件を維持して60歳以降も働き続ける条件を提示しやすいことも理由のひとつです。

そして、これらの数字は早いペースで上昇をし続けています。ほとんどの数値が前年比+2ポイント以上のペースで毎年高まり続けており、10年後には65歳定年の会社が過半数となってもおかしくない状況です(他の項目も同様)。

会社は人材確保の観点から、長く働ける環境を整備する流れがある

会社側が60歳以降も雇用条件を引き上げ、長く働いて欲しいと考えている大きな理由は「人材不足」です。

帝国データバンクの調べでは、正社員が人手不足だと回答する企業の割合は51.4%となっており、過去最高水準に近づいています。

2023/5/2 帝国データバンク 人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)

20歳代、新入社員の世代は若年層人口の減少の影響が強く、人材難が加速しています。熟練した技能を持った社内人材を60歳あるいは65歳で社外に放り出すほうがもったいないのです。

これに合わせて「同一労働同一賃金」の取り組みが浸透してきたことが会社員にとっては追い風になっています。「60歳以降は低賃金で正社員同様にこき使え」という手法も通用しなくなってきたからです。

国の厚生年金相当を60歳代前半にもらう特例措置も終了したので(女性は5年遅れ実施なのでもう数年後)、「国の年金が少しもらえるから賃金を大きく下げてもいいよね」という理屈も通用しなくなっています。

結果としてどうなるかというと、「65歳まで正社員として働いてもらう『定年延長』」に踏み切ったり、「65歳を超えても働き続けてもらう雇用制度の整備」が進むわけです。そして、賃金のダウンも減っていきます。

国も、70歳までの雇用確保措置を努力義務規定で求めているのですが、国が強制実施をするまでもなく、民間では70歳まで働ける社会に移行が加速しています。4~5年後に完全義務化の法律改正をして5年の経過措置を置いても、おそらく現場では混乱は起きないと予想します。

あなたの会社も例外ではありません。これから数年のあいだで、「60歳以降の賃金アップ」「65歳定年延長」「70歳まで継続雇用」のような制度が導入されることになるはずです。

会社は長く働ける、さああなたはどうする?

さて、会社は好条件で長く働ける仕組みに切り替わりつつあります。しかも大企業だけの話ではなく、むしろ中小企業のほうがチャンスは高まっています。

最後は、あなた自身がどうするか、です。会社が長く働いて欲しいと望むのと、あなたがそれに応じるかどうかは別の話です。

そもそもいつ辞めるかはあなたの自由です。冒頭のニュースをみて「一生働かされるのか……」と気を落とすのはミスリードです。別に60歳より早く辞めたっていいわけです。

もちろん、「いつ辞めるか」問題は、最後はお金の問題にメドがつけられるかどうかになります。

NISAやiDeCoを使ってしっかり資産形成をしてきた人は退職金や企業年金ももらえば、65歳リタイアで公的年金をもらってもOKです。低賃金で65歳以降働くことは拒否してもかまいません。

60歳から65歳までの5年分の生活費を確保することができれば(もちろん老後のゆとり生活費分、いわゆる老後に2000万円も確保)、さらに早く60歳でアーリーリタイアを決断することもできます。

仕事にそれなりの働きがいがあるなら、そして賃金に納得がいくなら、65歳以降も働いていけばいいでしょう。肝心なのは「仕事とギャラのバランスが取れているか」です。どうせ年金は65歳からもらえるわけですから、条件が悪ければ「そんな賃金なら65歳で辞めますよ」と会社に対して強気で言ってもいいのです。

なお、公的年金の給付水準の低下を見込めば、67~68歳まで年金を受け取らず増額(繰り下げ受給)すると、16.8~25.2%の増額になり、その後の生活基盤が一気に安定します。最大で75歳まで延長できますが(この場合、10年無年金の代わりに84%年金増になる)、数年くらい65歳以降も働いてみるのは有意義です。

さあ、あなたはどうしましょうか。今から少し、考えてみてはいかがでしょうか。

※本記事の解説動画です。チャンネル登録よろしくお願いします。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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