パナソニック、早期退職募集で優秀な人材の流出を嘆くのはなぜか

パナソニックが9月末に退職を行う早期希望退職の制度を実施したところ、1000人以上の応募があり、かつ優秀な人材も流出してしまったというニュースが話題です。

日経新聞の記事では最大で年収4年分以上の退職金が上積みされる制度で、朝日新聞の記事によれば社長が優秀な人材も流出してしまったと述べています。

これをもって、会社側はバカなことをしたというコメントが見受けられます(いちいちリンクは貼りませんが)。

この問題、会社にとって、そして個人にとって、どう考えるべきでしょうか。あなたの会社が募集を開始したら?

9/25 日本経済新聞 パナソニック、希望退職に1000人超応募

パナソニックが9月末に実施する早期希望退職に、1000人を超える応募があったことがわかった。国内従業員数の1%以上に相当する。(略)勤続10年以上の社員が対象で60歳以上の再雇用社員も含む。通常の割増退職金に上乗せする加算額は最大で基本給50カ月分。

10/1 朝日新聞 パナ社長「期待の人まで早期退職を…」 組織改編で1千人超が応募

楠見雄規社長は1日の会見で「パナが大きく変わっていくという説明が不十分だった。もう少ししっかりと説明ができていれば、活躍を期待していた人まで退職することにはならなかったと思う」と話し、手放したくない人材まで退社してしまったという認識を示した。

(基本的な構図)同一条件を示せば、優秀な人材も退職を選ぶのは仕方がない

日本の場合、「辞めて欲しい人材」をリストアップして順番に指名していくような整理解雇はなかなか難しいのが現状です。無断欠勤を繰り返しているような極端な問題社員ならまだしも、普通に仕事はしている普通の社員を狙い撃ちして肩たたきをやると、労働組合ともめることになります。裁判をやっても過去の判例は会社に厳しいものです。

これは逆にいえば、「辞めて欲しくない社員」の事前の囲い込みは難しいということです。つまり、同一条件を普通の社員と優秀な社員に等しく提示するのが基本で、そうなるとどちらも辞める可能性がある、ということになります。

早期退職を募る場合、自己都合退職の場合に生じる退職金の減額措置はなく、これは転職希望者には有利です。かつ、上乗せで月収のX月分を加算して支給することとします。退職金が増額されるのが基本です。

これをどのくらいの月数とするか、制度の詳細をどう説明するかが、会社と、会社から依頼される人事コンサルティングの手腕の見せ所ということになります。

しかし、支払いの条件の設定だけで、辞めて欲しくない社員を思いとどまらせることは難しいといえます。むしろ優秀な人材ほど「飛び出してチャレンジするチャンス」と考えるかもしれません。

参考)クミタテル 早期退職者に支払う退職金はいくらにすべきか?

(会社の課題)日頃からの優秀な社員とのコミュニケーションは密であったか?

基本的には、早期退職募集はネガティブメッセージの印象を社員に与えます。同僚を減らそうという政策についてこれをチャンスと見なす人は少なく、むしろ会社の将来に不安を覚えます。

優秀な人材が早期退職に募集をしたとき、現場で慌てて慰留に努めたとしてもこれはあまり効果を発揮しません。本人は逡巡のうえで会社の将来に期待せず、辞めることを一度決断しているからです。

仮に翻意してくれたとしても、こうした人材は「心が一度折れた」ということになります。何かあればまた、会社を辞める決心をするかもしれません。会社にとっても無理な引き留めはあまり効果がありません。

実のところ、早期退職の募集よりずっと前から、期待している人材に対して会社がどうコミュニケーションしてきたかどうかが問われます。

社員の将来のキャリアについてどう考えているか、きちんとメッセージを出せていたかどうか、現場で上司との対話は十分であったか、そうした積み重ねが優秀な人材を思いとどまらせる力となるわけです。

早期希望退職の条件だけで、人材流出を反省しても仕方がないでしょう。もし十分なコミュニケーションが図られていれば、それほどの人材流出にはならなかったかもしれません。

(ただ、今回の募集は社員の1%相当なので、優秀な人材の流出があったとしても、会社の根幹を揺るがすことはないでしょう。むしろ、そうした人材が将来、新たな職場でさらなる飛躍を遂げることに期待したいところです)

(個人の課題)あなたの会社がもし、早期退職を募集したらどうするべきか

最後は個人の立場で考えてみます。あなたの会社がもし、同様の早期退職を募集してきたらどうするべきでしょうか。

一般的に、早期退職はいきなり募集が始まり短期で締め切られます。こっそりと転職活動をしておき、内定ももらって次の仕事も確保したうえで、希望退職に応募し、割増退職金もゲットするようなことは困難です。

次の仕事が決まらない場合、雇用保険の給付を得つつ再就職活動をすることになりますが、支給期間が終了して割増退職金を取り崩すのは賢い選択にはなりません。

年収の3年以上の割増しがある場合は、金額に目がくらみ、「雇用保険+3年で再就職すればいい」と考えます。しかし、その程度の感覚で早期退職に応じる人はあまりにも無計画で、将来は危ういといわざるをえません。好条件の再就職は厳しいでしょう。

そもそも、老後資産形成の観点からは、退職金は老後に繰り越すべき貴重な財産として残しておきたいところです。割増退職金を加えれば、おそらく「老後に2000万円」のメドがたつでしょう。あるいは住宅ローン返済や子の学費負担に充当したいところであり、生活費として取り崩すべきではありません。

個人の立場としては、「募集が始まって、どうするか初めて考える」というレベルの人は見送ることをおすすめします。

むしろ、募集が始まった段階では、転職や独立開業などについて腹案をすでにもっており、なんらかの準備も行っている人にはチャンスでしょう。すでに転職活動をしていて、それなりの感触をもっている場合、あまり間を空けずに再就職もできるはずです。そういう人は、割増退職金が人生をプラスに変える大きな財産となるでしょう。

また、会社にとどまる場合は、(1)会社がつぶれることはないのか、(2)その後の会社で自分は高い評価を勝ち取る仕事ができるか、を見極めて、残留の決断をしましょう。居残って雇用は確保できたとしても、人事制度の大改革に巻き込まれて給与が大幅ダウンするようなことは考えられるからです。

――個人にとって、会社にとって、それぞれの立場で早期希望退職についてまとめてみました。しかし、早期希望退職そのものよりも「それ以前」にどうしていたかが問われる、という結論になりました。

特に個人にとっては、早期希望退職の制度と関係なく、自分自身のキャリアについてしっかり自覚的に考えていくことが大切なのです。