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テレワークの落とし穴 「いい人」ほどやってしまうサービス残業という罠にご注意

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
通勤時間のなくなるテレワークだが、その分サービス残業をする人も多いようだ(写真:アフロ)

「痛勤」時間がなくなるテレワーク でもいいことばかりではないかも

テレワークの普及が進み、できる会社は移行が進んでいます。週数日であっても、自宅で仕事ができれば、これは24時間の時間配分をまったく変えてしまいます。

何より大きいのは通勤時間です。「家を出て、会社の席に着くまで」の時間、「会社の席を立って、家に戻るまで」の時間は消えてなくなります。これはただの移動時間ですから、給料には直結しません(交通費は実費支給されますが)。

9時始業なら、9時に起動したパソコンの前にいればいいわけですから、生活の時間はまったく変わります。その分を、家族との時間であったり、休息に使ったり、有意義に活用できるわけです。

しかし、テレワークはいいことばかりではありません。それは、「電車に乗る時間がないのだから、もうちょっと仕事しておこうか」と考えがちなことです。

フォーブスジャパンでは世界17カ国の調査結果として「平均2時間」はサービス残業が増えているとしています。前回調査が週平均7.3時間のところ、今回調査は9.2時間だったそう。たかが2時間と思うかもしれませんが、「週に20時間超無給で働いていると答えた従業員は全体の1割にのぼった。この割合はコロナ禍前の2倍」である、ともしています。

東京新聞も国内の調査として、51%の割合で長時間労働になっている、という数字を紹介しています。会社にわざわざ「業務終了」と連絡をしてから、終わらなかった業務をこなす事例まで報告されています。

21/5/2 フォーブスジャパン テレワークで増えるサービス残業 17カ国で平均2時間増、「管理職の怠慢」

20/8/3東京新聞 テレワーク「隠れ残業」増 「通常より長時間労働になった」51%

ついついやってしまうサービス残業が危ない

テレワークでは労働管理が難しくなっていることから、会社が残業を禁止することがあります。就業時間中および残業時間中に本当に仕事をしているか管理が難しくなることがしばしば理由としてあげられます。「職場にいるか、いないか」で判断できた時代とは違う悩みがあるわけです。

別の視点では残業代抑制の狙いが潜んでいることもあります。業績悪化時には特に、会社は残業代を控えたいと考えるもので、出社勤務でも残業を控えさせ、テレワークでも残業を原則禁止したりします。

問題は、業務量がそれに見合っていればいるかどうかです。本人の作業能力と、標準の労働時間のバランスが取れていれば(そして少しの余裕が設定されていれば)、残業がなくても仕事をやりくりできるでしょう。

しかし、えてして業務時間とタスク量の設定はバランスが悪く、時間オーバーとなりがちです。そこで「出勤時間がないのだから、ちょっとくらいなら、まあいいか」とサービス残業になってしまうわけです。残業禁止となっても終わらないから仕方なく、ということもあるでしょう。

まじめな人ほどやりがいを搾取されるリスク

このサービス残業問題、誰もが陥るわけではありません。テレワークだからと手抜き仕事をして、納期ギリギリで帳尻を合わせるタイプの人や、上司が目の前にいないのだからと休憩をたくさん取っている人は、就業時間中に仕事をしない時間があるわけで、サービス残業は、実質サボり時間の回収のようなものです。

1時間サボったというなら、本来の就業時間後1時間働いてもサービス残業とはいえないですし、そもそもそういう人はサービス残業もしなかったりします。

「時々ちょっとサービス残業しちゃうけれど、全体としては(業務時間ないのサボりも少しあるし)まあ、こんなものかな」と思っているなら、あまり問題ではありません(就業時間中にサボるのはやめて、サービス残業をなくしたほうがいいですが)。

注意しなければならないのは、「普通に、まじめな人」のほうです。俗に「やりがい搾取」といいますが、まじめに仕事をしている人ほど、「時間外になっちゃったけど、どうせ家にいるし、もうちょっとだけやっておこうかな」と考えてしまいます。

無理な業務量を押しつけられていても、「時間内にこなせないのが悪いのだから、サービス残業でなんとか作業しなくては」と考えてしまいます。

「通勤時間=サービス残業」ならまだしも、マジメさがゆえに気がつけば通勤時間以上に働き、子供の食事作りや家事がおろそかになってしまっては、テレワークであるメリットも消えてしまいます。

テレワーク、ほどほどに不真面目になっていい!

会社で仕事をしているときを思い出してみましょう。「9時から6時までずっと椅子に座っていた」というわけではないはずです。

トイレに行くのはもちろんですし、ちょっとコンビニに出てきたりすることもあったはず。たまに郵便を出すついでにちょっと気分転換にぶらついた人もいると思います。ネットのニュースを少し見るくらいは誰でもしているはずです。

それに、ひとりで黙々と仕事をしているだけではなかったはず。同僚がちょっと仕事の相談をしてきたとき、スポーツや芸能ニュースを話題に雑談でリラックスした時間もゼロではなかったと思います。

むしろそういう「小さな仕事をしていない時間」の積み重ねは1時間に達した日もあるかもしれません。ところが、ひとりでテレワークをしていると、集中できるメリットもある一方で、雑談などのリフレッシュがないまま、延々と仕事にのめり込むことがあります。

これもまじめな人が陥りがちな罠ですから、意識的にリフレッシュを心がけるといいでしょう。スマホのタイマーで55分集中したら、5分は席を立って気分転換する、とか自分に課してもいいのです。

テレワーク時代の労務管理と雇用契約はこれから見直されていく

長らく「労働時間」をベースにしてきた雇用管理や労働契約があったのは、「工場」とか「オフィス」という「場」に私たちが「拘束されている」という労働の前提があったからです。

テレワーク時代のサービス残業は、こうした概念が変わっていく中、仕事の労務管理や雇用計画をどう見直すかという問題でもあります。

知的労働については、時間だけでなく、アウトプットをしっかり評価していくことが大切です。時代の変化に制度が急いで対応していくことが求められます。

まだ今は制度がきちんと対応できていない試行錯誤のテレワーク環境です。せめて「ただ働きし過ぎ」とならないようにしたいものです。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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