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マジメな人、いい人ほど危ない? 実はあなたも「やりがい搾取」されているのかも

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
あなたががんばりすぎることはもしかしたら「やりがい搾取」されているかもしれません(写真:アフロ)

「やりがい搾取」というキーワード

最近気になっているキーワードが「搾取」です。アニメ「さらざんまい」で連呼しているからではなく(こちらは「欲望搾取」ですが)、「やりがい搾取」のほうです。

やりがい搾取について、Wikipediaでは下記のようにまとめています。

やりがい搾取(やりがいさくしゅ)とは、経営者が金銭による報酬の代わりに労働者に「やりがい」を強く意識させることにより、その労働力を不当に安く利用する行為をいう。東京大学教授で教育社会学者の本田由紀により名付けられた。

出典:Wikipedia「やりがい搾取」

GIGAZINEでは、「やりがい搾取の正当化」という考え方を海外の研究事例として紹介しており

その心理的メカニズムとは、「労働者にとっては仕事をすること自体が報酬だ」「やる気のある労働者なら、たとえ命じられなくても自分から仕事を買って出るだろう」という暗黙の了解です。研究グループはこの心理的メカニズムを「やりがい搾取の正当化」と名付けました。

(略)

長時間労働や時間外労働などで搾取された労働者は、周囲から「やる気のある人だ」と評価されやすいことも明らかになったからです。このことは、周囲の評価が労働者にやりがい搾取を受け入れるインセンティブとなってしまうことを意味しています。

出典:GIGAZINE 「やりがい搾取」が発生してしまうメカニズムが判明

としています。

やりがいを搾取されることの多くは、あなたの獲得すべき賃金の減少になる

ファイナンシャルプランナー的には「やりがい搾取」があなたの生涯賃金を減らしてしまう恐れがあると感じています。たとえば、

・有給休暇の取得

・年収増の転職の決断

・サービス残業の拒否

を思いとどまるファクターとして「やりがい搾取」が機能してしまったとき、あなたは「過剰なやりがい」を差し出すことにより経済的損失を被っていることになります。

有休を取らずがんばった人が、有休が毎年10日消滅したとしたら、あなたは月給の半分くらいタダ働きをしてしまったということです(休んでも給料は減らないのだから)。

あなたが本当はもっと高い年収を得る能力があるというのに、仕事のやりがいや忠誠心を理由に高い能力を安売りし続けるとしたら、有給休暇以上に経済的な損です。

同じ仕事を同じ労働時間で働いて年収が上がる場合、あなたは本来昇格して増えてしかるべき年収、あるいは転職をしたことで得られたかもしれない年収増を逃していることになります。それは年間何十万円もの損をし続けることになるかもしれず、人生を通じて数百万円どころか数千万円の損になるかもしれません

またあなたの同じ年収を、別の会社ではサービス残業をする必要がなくもらえたとしたら、あなたは長い時間を労働に差し出しているわけで、「安い時給」でこき使われているのと同じことになってしまいます。

具体的には3つの「やりがい搾取」に気をつけて!

より具体的に、やりがい搾取になりがちな「3つの思い込み」を指摘してみましょう。あなたがもし当てはまるとしたら要注意だと思います。

○搾取ケース1:クライアントに迷惑をかけられないからがんばろう!

「仕事先に迷惑をかけてはいけない」ということを考えるのは社会人として当然のことです。あなたの会社が取引として得た経済的代価に見合うサービスを提供しなければなりません。

しかし、それは「会社の責任」であって「個人がひとりで背負い込むもの」ではありません。

会社は組織としてクライアントに満足のいくサービスを提供するよう人材配置や労働時間の確保といったマネジメントをしていなければなりません。それは上司や役員の大事な仕事です。

あなただけが無理をしてぶっ倒れるまでがんばらなければ、顧客の満足が維持できないのであれば、これはあなたの働きがいややる気は搾り取られています。「やりがい搾取」です。

そしてしばしば、こういう上司は「お前の責任」と押しつけ「クライアントには迷惑をかけちゃいけないよな」と脅してくるのです。

○搾取ケース2:景気が悪いときに採用してもらったのだから不満はあるけど辞めちゃいけない

あなたが景気が悪い時期に採用された場合、就活に苦労して新卒として採用してもらった会社にずっといる場合、しばしば考えてしまうのが「景気が悪いときに採用してもらった恩義を忘れてはいけない」のような発想です。

採用してもらったことを感謝するのは当然の発想かもしれません。しかし会社とあなたはしょせんは「契約」で結びついているだけの話です。

むしろあなたのその忠誠心があるから、会社はあなたを安くこき使えているのかもしれません。

転職サイトで自分の学歴やキャリアを入力してみたら、もっと大きな会社が提示されたり年収増の見込みがあるとしたら、そんな忠誠心は捨ててしまいましょう。

大丈夫。会社はすでにあなたの能力をを安い給料で搾り取ってきているのですから、損をしたわけではないのです。あなたのお人好しを会社は「搾取」しているのです。

○搾取ケース3:自分が休んだり辞めたりして、職場に迷惑をかけてしまうことは許されない

ケース1はクライアントに目が向いていましたが、組織内に目を向けて「自分が休むあるいは辞めると職場に迷惑がかかる」と考えて無理をしている人もやりがい搾取にハマっている人です。

BIGLOBEの調査によれば、「有給休暇を取得しづらい理由は「職場の空気」が1位」だそうです。

BIGLOBE「有給休暇に関する意識調査」

「職場に休める空気がないから」(33.6%)

「自分が休むと同僚が多く働くことになるから」(22.9%)

「上司・同僚が有給休暇を取らないから」(22.3%)

といった理由が上位を占めており、周囲を気にするあまり有給休暇を取れない傾向がうかがえます。本来、有給休暇は権利であり、その日数を休むことまで織り込んで職場は仕事量を調整するべきなのですが、「空気を読む」という悪習にあなたの有給休暇は搾り取られています。

また、「自分が辞めたら、職場に迷惑がかかる」というような理由で転職を思いとどまる人もいます。

しかし、それこそ過剰な負担をあなたに強いることで仕事が維持されている(しかも賃金は低いまま)のですからあなたが気にする問題ではありません。

また、意外なように思えるかもしれませんが、あなたがひとり欠けても、職場は誰かがそれを穴埋めしながら維持されていくものです。だとしたらあなたのやりがいが搾り取られて、あなただけが消耗していることになります。

あなたの「やりがい」はときに会社があなたを安くこき使う言い訳になっている

前述のGIGAZINEの記事にも指摘がありましたが、やりがいを持つことそのものはおかしいことではありません。また仕事から得られる働きがいは私たちにとって重要な生きがいのひとつでもあります。

お客様の笑顔があるからがんばれる、とか、職場の同僚や上司の評価が励みとなっている、ということは全否定されるものではありません。

また、自分の殻を破るときに、限界まで自分を追い込むような仕事が必要なときも、人生では何度かあります(でもずっとではない)。

しかし、あなたがいい人で、あなたが無理をすることでしか仕事は維持されず、その評価はもたらされない(ここが重要)のであれば、それはただの「やりがい搾取」です。

そして、あなたがぶっ倒れたとしても会社は冷たいものです。変わりの誰かを補充し、また倒れるまで搾り取るだけのことでしょう。

残念ながら「やりがい搾取」企業は、おおむねブラック企業ですから、ガマンして居続けて改善を期待するほうがムダだと思います。さっさと飛び出したほうが賢明です。

帰りの電車で「あ、自分はやりがい搾取されているのかも……」と自分の働き方に疑問を持ったら、スマホを開いて転職活動をしてみてください。

あなたのやりがいを搾取するのではなく、評価し、伸ばし、報酬としても還元してくれる会社をみつけてみてください(例え年収が増えなくても、労働時間が減るだけで転職の価値はあります)。

きっと、そういう場所はあるはずです。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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