有名投資ブロガーが激怒した「勉強不要の投資デビュー」はありかNGか

勉強が先か、投資デビューが先か、あなたはどう考えますか(写真:アフロ)

カジュアル気分で投資デビューと書いたらマジメな投資ブロガーに怒られた

私は日経新聞電子版に週刊連載の枠がありますが、3月のテーマは「お金の悪癖からの卒業」ということで、最終週は「投資はもう少ししたらやる」からの卒業、つまり投資デビューの勧めがテーマでした。

投資デビュー「もう少し先」は無駄 時代は変わった

出典:日本経済新聞電子版

その中で、「(投資を)軽い気持ちでスタートしてほしい」と述べたところ、友人でもあり有名な投資ブロガーの水瀬ケンイチさんから、ツイッター経由でコメントをもらいました。

水瀬さんといえば、最近の投資書籍のベストセラー「お金は寝かせて増やしなさい」の著者でもあります。株価が上がったり下がったりする中で、コツコツ続けていく長期投資のメリットを説いて6万部突破のベストセラーとなっています。

投資ブロガー、特にインデックス投資を紹介するブログとしては老舗のひとつである「梅屋敷商店街のランダムウォーカー」というブログを続けており、開設以来のアクセス数は4500万PVだそうです。会社員でありながら投資を長年やってきた方法をオープンにしたり、投資業界の問題点について論点を投げかけたりしている魅力的なブログのひとつです。

さて、そんな有名投資ブロガーに怒られてしまっては、きちんと反論しないと、ネットに居場所がなくなってしまいそうです。せっかくなので、スポンサーに気兼ねせず書ける(あと紙幅を気にせず書けることがありがたい)この枠で「勉強不要の投資デビュー」についてもう少し詳しく書いてみたいと思います。

勉強したほうがいいのは当たり前だが、「証券口座開設」にこぎ着けるのは欲望や色気、好奇心である

まず最初にコメントしておけば、水瀬さんの言うことはもっともです。勉強して投資をしたほうがいいのは「当たり前」です。それは議論を待つこともありません。

しかし、それで誰もが投資デビューできるなら苦労しません。野村証券の残高あり口座の数はたった530万です。ネット証券の上位5社を合計してもおよそ1000万口座と言われています。いかにも少ない数字です。

三菱東京UFJ銀行が4000万、三井住友銀行が2700万、みずほ銀行が2400万の個人口座をそれぞれ自社HPでうたっており、勤労者世代は基本的に誰もが銀行口座を保有しているのとは対照的です。

投資をするための「口座開設」という大きな壁を越えることはとてもハードルが高いことです。私は壁を乗り越えるのは「欲望」や「興味」「好奇心」であろうと思うし、それは「勉強による健全な投資マインド」ではないと思っています。

近年の特殊な事例としては会社の退職金制度が確定拠出年金に移行したことで、投資信託が買える口座が会社員の6人に1人、約650万口座開設されていることがあります。これは「半強制加入」であったからこそ積み上げられた数字です。

そもそも、投資の勉強ほど形がないものもありません。そもそも株を売買するための資格試験はありません。自動車免許のように「ここまでの知識があれば仮免で路上に出てよし」のような線引きもありません。

マジメな人や臆病な人ほど「もうちょっと勉強したら」と考えるあまり投資デビューのタイミングを逃してしまいます。また勉強すればするほど奥が深いテーマなので、なかなか手を出せなくなってしまうこともあります。

水瀬さんも著書「お金は寝かせて増やしなさい」の冒頭で自身の投資デビュー体験について赤裸々に語っていますが、最初はマネー雑誌のおすすめ個別株を買うところがスタートだったそうです。値下がりしたときに何度もビビって売ってしまったことへの疑問が、今のインデックス投資家となるベースとなっていますが「投資デビュー」は「勉強不足だけど、とりあえず株で儲けたい」だったのではないかと思います。

投資デビューのほとんどは(確定拠出年金を除けば)、「私も儲けたい」「みんな儲けているんじゃないの」であるはずです。私も2000年に投資信託を10万円買ったのは「ITバブルらしいからとりあえず買ってみよう」くらいの気持ちでした。

今のマーケットをみて、あなたがもし「投資やってみるかな」と思ったらその気持ちはかけがえのないものです。そこまで来たなら、勢いでネット証券の口座を開設し、投資デビューなんてサクッと済ませてしまうべきです。その後知識は蓄えていけばいいというのが私の基本的な考え方な理由です。

好奇心が投資の「経験」を導けば、これは貴重な財産になる

「経験ファースト」「知識セカンド」というのは確かに乱暴に思えるかもしれません。水瀬さんは前述のツイートに続けて、こうも指摘しています。

しかしこれも私は反対で「スキーに興味があったら、とりあえず友達に誘われるがままスキー場に行ってレンタルスキーを借りて、友達に教わりながら滑ってみればいい」と思います。半日くらいのスキー教室に最初に通ったほうが上達は早いと思いますが「やってみたい!」という好奇心で友達と一緒に何度か滑ってみることのほうが「楽しさ」が大きいと思います。むしろ「でもまずは勉強だよね」と押さえ込むことのほうがもったいないと思います。

私は投資デビューを「ハツカレ」「ハツカノ」に例えることがあります。好きな相手ができたとき、サクッと告白をしてとりあえずつきあってみたほうが、告白をずっと後送りにしてこじらせるよりずっといいですし、最初の彼(彼女)と長続きできなかったとしても、「なんでメッセがすぐ返ってこないの」とジリジリしながらスマホを何度も眺めたり、会わないときの相手の一挙手一投足が気になってしょうがない、という経験を「初めてのおつきあい」によって学ぶことができます。

何度かデートもしていれば慣れてきますし、2人目の彼(彼女)とつきあうときはもっと余裕を持って交際できるようになるはずです。どんな恋愛マンガを読み込んで勉強していようとも、ひとりベッドのうえでスマホを抱えて悶絶する実経験には勝てないと思います。

投資デビューもそうです。自分のお金を実際に出して株を買い、株価が1円単位で動き続けているボードに仕事も手につかないほど気を取られたり、Yahoo!ファイナンスのページをリロードし続けるような経験がなければ、リーマンショックで30%マイナスになっても「今月も新規に買い付けするぜ、むしろ安く買えていいよね」という境地にはたどり着けません。

それは水瀬さんも同様だと思います。リーマンショックの大暴落でも売らずに資産を積み立て続けられたのは、投資に対するしっかりした知識があったからだけではないのです。むしろ「暴落前から投資の失敗経験があった」ことと知識がかみ合ったからだからです。

ちなみに私もiDeCoでの積立投資をリーマンショック前から続けていますが、一度も売らずに世界中への分散投資を続けてこれたのは、ITバブル時に色気で手を出した投資信託の失敗(30%くらい下がって半値戻したところで売ってしまったが、その後回復したどころかもっと値上がりした)があったからです。

失敗を乗り越えて投資を続けるために、たったふたつのルールだけ守れば、どんな形でも投資デビューを急いだほうがいい

水瀬さんが心配しているのは「勉強もせずに投資に飛び込んで失敗した人は、そこで投資をやめてしまい、投資の世界に戻ってこないのではないか」ということです。だからこそ「勉強してから投資」となります。

これは私も理解します。水瀬さんが指摘しているように、「投資デビュー=FX口座を作ること」とか「株もビットコインも金儲けでは同じでしょ」というような大胆な誤解は世の中に蔓延していてこれをいちいち説明のうえ翻意させるのは容易ではありません。

そこで、「好奇心は尊重」しつつ「証券投資はデビュー」させたいという私は、2つの条件だけ提示しています。つまり「少額でスタートする」ことと「レバレッジはかけない」ということです。

まず少額でスタートすることは、失敗したときの最悪の損失額を自分で限定することになります。個別株をやりたい場合も10万円もあれば2社は買えるでしょう。少額でスタートするのであれば借金で投資をしないことも可能でしょう(本音でいえば100円から国際分散投資をする積立投資信託をしてほしいのですが面白みに欠けるところが難点です)。

次に、レバレッジをかけて10万円で250万円分の売買を行うようなことはしない、ということです。仮にFXをやる場合も25倍コースを選択しなければ経験としての為替取引は面白いし(たぶん初心者は負けるでしょうが)、未経験者とは違うステージで投資と向き合えるようになるでしょう(ま、こちらも本音をいえばFXはそもそも投資とならないので手を出さなくていいのですが)。

2つのルールだけ守れば、個別株でも投資信託でも為替取引でも最初はやってみればいいと思います。むしろ投資デビューは「ワクワク感」を楽しんでみることが大事だと思うからです。実際に成行で買ってみたり、逆指値で注文してみることは、書籍を読んで理解しようとするより、理解を深めてくれるはずです。その後のよりたくさんの知識習得にも役立つでしょう。

水瀬さん的には「その2つのルールを学ぶことも勉強じゃないか」となるので、そこは難しいところです。ここまで来ると話は堂々巡りになるところもあるので、私の話はこのくらいにして、今度は水瀬さんのブログで同じネタについて語ってもらうのを待ちたいと思います。(年度末~年始で、本業の仕事が忙しいと思いますけれど)

おわりに 「強制的勉強」ができないなら「好奇心の芽」を摘まないことが大事

最近、子育てをしていて思うのは「好奇心を失わせることは簡単」だが「好奇心を自然に生じさせることは簡単ではない」ということです。

子どもに「これは面白いね」と興味をもつよう導くのはパターナリズムですが、けっこう難しいことです。一方で「それはダメだ」と子どもの生き生きとした表情を消してしまうのは簡単で、そのあと子どもは同じことに好奇心を示さなくなります。

大人も同様です。好奇心というものは年齢を重ねていくごとに減衰していくもので、大人になって「子どものようなワクワク感」をもって何かに取り組むことは少なくなっていきます。好奇心から行動を導くのは相当のハードルです。大人の場合は欲望により行動を導くことができますが、これもまた簡単ではありません。

「強制的なお金の勉強」が行われることは理想的です。確定拠出年金の導入企業が社員に対して行う投資教育は「ちょっと興味があったけど自分で勉強するほどではなかった」とい人に半強制的に勉強させ口座開設させることで、投資家を育てる大きな役割を担っています。金融機関の商売抜きで行われる教育プログラムであることも有効です。しかし、日本人全員に確定拠出年金口座を強制開設させるわけにはいきません。

現役世代の日本人なら、誰でも証券口座を開設するのが当たり前の時代がやってきたら、私も「勉強ファースト」に転じて「ちゃんと勉強して口座を選ぼう」とか「ちゃんと勉強して商品選びをしよう」と言う日が来るかもしれません。

でも今のところは、水瀬さんには怒られるのは承知で、これから投資デビューしようかと考えている人に対し、「投資デビューはカジュアルにやっちゃって」メッセージを送りたいと思います。