独身税は本当に悪なのか、本当に取られるのか少しまじめに考えてみる

独身税? 独身者は本当に税金を取られるのでしょうか(写真:アフロ)

ひとつの意見として出た「独身税」が話題に

北國新聞が(おそらくそれほど話題になるとは思わず)配信した記事がネットで話題です。

かほく市ママ課「独身税」提案 財務省主計官と懇談

よく読めば、これは参加したメンバーの一意見であって石川県かほく市が独身税を徴収する予定でもないし、国の税制改正の議論で独身税構想が浮上したわけでもないことが分かります。というか石川県出身の財務省の主計官との意見交換会の1つのエピソードでしかないものでした。

しかし、多くの人は「子育て夫婦が苦しいなら、結婚していない独身男性も苦しい。より苦しい人に負担を求めるなんてふざけている」というような論調でSNSに書き込みをしています。

実は私、税金のあり方について講演で話すとき、「独身税はありか」という議論を受講者に投げかけることがありまず。税金のかけ方について考えるには実はよいテーマなのですが、今回のSNSの反応はいかにも勘違いと短絡的発想が多いなあと思います。

そこで、少しまじめに「独身税はありか」という話をしてみたいと思います。

では、なぜ独身税は課税してはいけないのか

先に結論を言っておけば「独身税創設は難しい」というのが意見です。これは独身者が経済的に苦しいから課税してはいけない、という脊髄反射で言っているわけではありません。

例えば、以下の2人の独身者がいたとしたらどうでしょうか。

ア)20代独身で年収240万円

イ)50代独身で年収550万円

多くの人は前者のようなケースを独身者として想定、「独身税なんてけしからん」と言うわけですが、「え? 50代独身で年収550万円もある? こいつは独身税を取ってもいい!」と思うことでしょう。

これはつまり「独身者」にもうひとつ条件をつければ独身税アリ(なし)とジャッジしているということです。2015年の国勢調査によれば生涯未婚率が男性23%、女性14%となっており、「独身者=若者=負担できない」という構図は短絡的です。

同じモデルを年齢を上げるとどうでしょうか。

ウ)70歳独身で年収240万円(ただし無職で年金生活)

「独身税取るべし!」という人もいるでしょうし「年金生活している孤独老人に独身税はちょっとやり過ぎでは」という人もいるはずです。

税金を取るには税金を負担する力があるか「担税力」の有無が問われますが、「独身」というキーワードだけでは担税力があるという基準にはならないのです。

「独身=未婚」というのもあまりにもテンプレすぎる

「独身=若い」「独身=未婚(結婚したくてもできない)」というのもテンプレ発想です。たとえば、

エ)未婚で独身(50代だが年収240万円)

オ)未婚で独身(20代だが年収550万円)だが来年結婚予定あり

カ)結婚はしていたが、死別して独身

キ)結婚はしていたが、離婚して独身

という4人がいたらどうでしょうか。一般的な見方を予想すると

(エ)については「年齢は高いけど年収が低いからかわいそうかな、独身税はなしで」

(オ)については「どうせリア充で今後結婚するっていうけど独身税取れ」あるいは「来年結婚するなら独身税はなしでいいかも」

(カ)や(キ)については「独身とはいえ一度は結婚していたのだから独身税なし」もしくは「子どもがいるかどうかで判断すべき」

などなどの意見がでることでしょう。

こうしてケースを少し並べるだけで、「今は独身」ということを判断基準として税金を課すことのおかしさが分かると思います。

誰だって、シングルマザーに独身税を負担せよとは思っていないはずです(それは元の発言した人でもそう思っているはず)。

「年齢」や「離婚の有無」、「子どもがいるか」というケースで判断が複雑になるようなものは税金としてはあまり向いていません。偽装結婚したらどうなのか、という問題もありますね。

たぶん、多くの納得がいくのは「独身であるか、ではなく、所得や財産があるかどうか」に着目して税金を課す方法ではないでしょうか。結果として「年収が低い独身者」は対象とせず、「年収が高い独身者」には税金を多く課すことになります。

でもそれは結局のところ、すでにある仕組み、つまり所得税や住民税であり、資産の譲渡に伴う課税です。

独身税は「気持ちは分かるが、実現はほとんど考えられない」がオチ

税金を取るには明確な基準が成立しなければなりません。またその基準は曖昧なものは感情的なものではなく、合理的である必要があります。「公平・中立・簡素の原則」などと言われます。

要するに、独身税というのは「なんとなく気持ちは分かる」けれど「課税する人をルール化するのは簡単ではない」という発想なのです。

だからこそ、記事内でも財務省の主計官は「確かに独身税の議論はあるが、進んでいない」と述べています。それは現実的なものではないわけです。

税金は、応益税(サービスコストを直接的に負担する)の考え方と、応能税(負担できる人が負担する)の考え方がありますが、「誰が負担できる人なのか」はなかなか難しい問題なのです。

まとめ 脊髄反射で怒るのはちょっと控えてみてはどうか

独身税についての解説はここまでです。最後に少しだけネットリテラシー的な話を。

この記事を読んで「石川県かほく市けしからん」とか「子育て世帯は独身者からカネをむしり取るとかあり得ない」「独身者はますます結婚できなくなるだけだろう、バカか」などと脊髄反射でdisった人は、ちょっとだけ反省したほうがいいと思います。

脊髄反射で何か書き込んだ人の半分は、リンク先の記事を読んでもいなかったのではないでしょうか。炎上記事の炎上のほとんどは、「タイトルだけ読んで悪口コメント」によって起き、全国の普通の人が炎上に参加している構図になっています。

もし記事を読んでいれば、そもそもその意見は否定されているわけです。「かほく市が2018年から独身者に課税する」というわけでも「国が独身税の検討に着手した」というわけでもありません。かほく市にクレーム電話を入れた人もいるようですがまったくお門違いです。

かほく市は東洋経済の「住みよさランキング2017(2017年6月20日公表)」では4位にランキングするほどの評価が高い市であったりします。あなたが悪者認定していた、かほく市ママ課の人たちが実はがんばっていたからかもしれません。でも、「ママ課」は今回の騒ぎを受けて謝罪、解散させられてしまうのではないかと心配しています(かほく市のホームページではママ課のまじめな取り組みを紹介するページがあるようですが、執筆時点では閲覧できません)。

東洋経済オンライン 最新!「住みよさランキング2017」トップ50

しばらくのあいだ「独身税」の文字を見かけることになると思いますが、悪口はちょっとこらえてみてください。だって、独身のあなたが独身税を取られる可能性はほとんどないのですから。