城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科(GSIA)は、今年度も「観光経営人材育成講座」(東京都支援)を7月から開講している。本年度は、その3年度目(最終年度)になるが、今年度のテーマは「観光新時代、テクノロジーと外国人材の活用における展望」で、前期後期の全16講座を実施した。同講座の後半が終了したので、本記事で紹介する(注1)

 本年度における本講座は、次のような内容に基づいて構成され、後半は主に「コロナ禍」「観光DX」「外国人材の活用」を中心にした情報提供および議論、学習の機会を提供した。なお、本年度後半も、コロナ禍のために、オンライン形式で実施された。

 「新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、これまでに経験したことのない甚大なダメージを受けた観光業界。依然として厳しい環境の下での事業運営が続き、企業経営そしてさらに関連する地域や産業を維持・発展させていくためにも、これまで以上の創意工夫が求められています。またアフターコロナを考えると、外国人材の活用も含む人材の確保・育成の問題・課題もあります。その一方で、最先端テクノロジーの活用や社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)(注1)が急速に進んでおり、観光のあり方自体も世界的に大きな転換点に立っています。ウィズコロナ時代・アフターコロナ時代を生き抜くためにできること、すべきことは何か。そして、今後を見据えた人材の獲得やその人材育成にどう備えるか。本講座では、業界有識者らを迎え、「テクノロジーおよび外国人材の活用」にフォーカスしながら、新しい時代の観光を展望・構想する機会を提供します。」

 本講座の今年度後半には、次のような講座を提供した。

①第9講座 2021年9月18日(土)

「観光とDX~日本酒と和食の融合で「コト消費」を創造する~」

②第10講座 2021年9月18日(土)

「外国人材を活かしたSNS戦略」

③第11講座  2021年10月30日(土)

「スマートシティと今後のまちづくり」

④第12講座 2021年10月30日(土)

「MaaS」

⑤第13、14、15回 2021年11月23日(火)

「観光オムニバス」(グループワーク)

⑥第16回 12月18日(土)

「【シンポジウム】

新しい観光業の可能性と展望−外国人材およびテクノロジーの活用の視点から」

 次に、その内容について、より具体的に説明していこう。

①第9講座 2021年9月18日(土)

[テーマ]「観光とDX~日本酒と和食の融合で「コト消費」を創造する~」

 日本の文化(食文化)、中でも日本酒は日本を世界に売り出す貴重な資源であり、活用の方法は無限大という話題をいただいた。また都内にある歴史ある酒蔵やレストランを活用し、ストーリー性を持たせて外国人に楽しんでもらうような「コト消費」を開発し、DXに乗せて世界に発信することの重要性などについても言及された。その後、トークセッションでは観光DXは将来の外国人観光需要を再び誘発する促進剤としての役割を果たすことなどが議論された。

[講師]

・岩間正春氏(早稲田大学総合研究機構次世代ロジスティクス研究所事務局長兼招聘研究員)

[司会]

・石井伸一氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

岩間正春氏の講義風景  写真:城西国際大学大学院GSIA提供(写真は、以下同様)
岩間正春氏の講義風景  写真:城西国際大学大学院GSIA提供(写真は、以下同様)

[要点]

・インバウンド観光のレビュー

・COVID-19発生の中での動き

*中国における「疑似日本人街」 大連、蘇州など。一部は対日批判等から中止(休業)、名称変更、営業継続など様々。中国人により企画運営。

*日本への印象が好転してきており、コロナ禍で日本来られず、このような「疑似日本人街」ができてきている。

・日本国内のフェリーRORO(RORO船とは貨物を積んだトラックやシャーシ(荷台)ごと輸送する船舶のこと)網の拡充がなされている。             

・文化GDPという発想がある。

 *文化GDP=文化や芸術、創造などの分野を一つの産業としてとらえ、その活動を数値的に把握することで、産業や経済に及ぼす効果の測定・評価という国際的な動きから生まれてきた指標のこと。

 *日本は、30兆円ぐらい(近年)。ほぼ建設業界のGDPに匹敵。日本は、2030年には、文化GDP世界一位になる。

 [参考]『2030「文化GDP」世界1位の日本』福原秀己、白秋社、2020年

・「コト」の消費が重要に。日本の魅力や日本には老舗企業の存在がある。

 *日本酒を巡るストーリー。美酒早慶戦。

 *農林省 GFPグローバル産地づくり 商品をモノとして海外に売るには「ストーリー」が必要である。

GFP(ジー・エフ・ピー)=Global Farmers / Fishermen / Foresters / Food 

Manufacturers Project の略称。農林水産省が推進する日本の農林水産物の輸出プロジェクトのこと。

・観光DX

 *ウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した概念である。

 *DX=IT利用の事業変革のことである。

 *「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」

METI   

 *「モノ消費」から「コト消費」に変わってきている。体験の質の重視。「モノ」と「コト」をうまくつなぐことが必要。ビジネス環境の変化や新しい時代に対応するには、新しいリーダーシップ、SDGsの視点、リーダーをサポートする人材のエンパワーメント等が必要。観光DXを推進していくのも同じである。

・「疑似体験」「実体験」「EC」「情報」を相互に活かして対応していく必要性がある。

②第10講座  2021年9月18日(土)

[テーマ]「外国人材を活かしたSNS戦略」

 外国人材活用やインバウンド戦略の専門家である2名の専門家にご講演頂いた。最初に岡安太志氏(『訪日ラボ』インバウンド研究室)より、インバウンドSNSの心得と、今求められる人材像に関する講演が行われた。

次に、袁静氏(株式会社行楽ジャパン 代表取締役社長)より、外国人視点を活用した中国SNSインバウンド集客成功事例の紹介が行われた。佐賀県や北海道という最新の自治体との連携や、KOCなど、最新の取り組みに関する講演があった。

[講師]

・岡安太志氏(『訪日ラボ』インバウンド研究室副編集長)

・袁静氏(行楽ジャパン代表取締役社長)

岡安太志氏の講義風景
岡安太志氏の講義風景

[司会]

・小松悟朗氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

[要点]

・インバウンド観光業界は、次のような状況および方向性にある。

*「第三のフェーズ」。

 モノ消費(2003~2006)、インバウンドマーケティングの勃興・高度化の兆し(2007~2019)。今までのアバウトな戦略は通用せず。より具体的かつ緻密な戦略が求められる。

*中国(コロナ前の日常を取り戻しつつある)、台湾(5月感染拡大するも、感染状況沈静化)、韓国(感染状況はいまだ予断を崩さないものの、観光に積極的)、タイ(インバウンド再開に踏み出してきている)の現状。世界的にも観光市場動き出してきている。

*アフターコロナでFIT(Foreign Independent Tour(Traveler)、海外個人旅行(者))化が更に加速。近隣地域から欧米に広まっていくと予測されている。

・SNS運用の重要性 世界のSNS利用率

 *各種業界のプロモーションフェーズ。

 *観光業 「プレ旅マエ」「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」の前二者は、SNSで対応する。

 *オウンドメディア 最初は拡散力小さいが、だんだんと拡散力増える。蓄積型施策。

 *メディアは特性を活かして、組み合わせていくことが大切である。

 *現在は、自社メディアを育てて、FIT(海外個人旅行)に対応した戦略構築が必要である。

・中国のSNS事情

*中国インバウンドは早く戻る可能性がある(訪日中国人のカスタマージャーニー)

  +注意・関心 関心をもつ、認知する。+検索    旅前の情報収集

  +行動 チケット購入 +情報拡散 訪日中の情報収集 体験をシェア

 *情報収集のフェーズにより、利用するSNSが異なる。フェーズ毎で使用するSNSに発信。情報の出し方が重要である。

* 中国のZ世代に声。たとえば、東京オリンピックでも、日本と中国で報道や情報の流通に温度差がある。

[参考]「Z世代(ジェネレーションZ)とは、1995年(Windows95が出た年)以降生まれで、『生まれた時からデジタルが当たり前の中で育ってきた世代』のことを言います。中国のZ世代は生まれた時から中国の高度経済成長期を目の当たりにし、割と豊かな時代を経験しています。豊かな経済はもちろん、家庭の愛情に包まれて育った人が多く、幅広い思考・趣味を持っています。自分のニッチな趣味を認めてもらいたい、理解してもらいたい思いが強く、多くのことに関心を寄せています。」出典:enjoyJapan 

 *海外向けSNS運用では、文化的な配慮も必要である。

・SNS運用で始めるにあたっての勘違い(「フォロアー数を増やせばいい」、「広告にコストをかければいい」「外国人スタッフにまかせればいい」)がある。

 *ターゲットとするペルソナの設定が重要である。対象の明確化。競合相手の調査で差別化が必要である。「流行」への対応の工夫(流行に乗るか?乗らないか?乗るならどの流行に乗るかなど)が必要である。

 *SNS運用代行企業の選び方基準(現地の理解度、デジタルマーケティングのリテラシー、炎上対策等で安全運用できる対策の有無)。

袁静氏の講義風景
袁静氏の講義風景

・行楽の成功事例:①北海道オンライン&オフラインキャンペーン、②佐賀県SNS、③JG飲酒研究社(JG=ジャパン・グルメ)

・①コロナ禍が予想以上に長期化、政治状況も絡んでいる。そのため、コロナ禍の中で、「モノ」への問い合わせも増えている。リアル参加(100名)+ライブ配信。飲食後のアンケートも実施した。

・②微信(WeChat)SNS拡散促進キャンペーン。年4回実施。SNSキャンペーン。壁紙投稿。思い出投稿。アンケートランダム投稿。限られた予算内で、フォロアーを増やす施策として実施した。九州オンライン旅行博(プラットフォーム新浪微博(Weibo)設置)。九州オンライン旅行博メインページ、九州7県の各県のブース。動画、ライブ配信、ミニゲームなど(多様なコンテンツでユーザーの九州への興味喚起)。2020年12月23日から3週間で閲覧数3300万超。中国の旅行社250社の担当者から情報公開をしてもらった。その結果、コロナ禍で仕事がなく、中国の旅行社のスタッフは大変な状況(例えば、給与もなかったり、非常に少額)にあるなか、このような活動ができたということで、行楽への感謝、ボランティアでも協力意向あり。そのようなことを考えると、今こそ、中国の旅行社のスタッフとコンタクトしておくといい。

・③楽しみながらのイベント、富裕層中心に開催。オフラインやオンラインで開催(上海、湖州)した。

*中国国内で日本料理高い人気。一線都市の富裕層は現在海外にいけない。それでさらに日本料理などが高い人気に。これは1つのビジネスチャンス。それをコミュニティ化していく。

*キャンペーンページは、質の高い投稿、日本の業界達人による発信やKOC配信している。ポイント交換(で「モノ」がもらえる)。現在中国では、自分のファンの囲い込み(コミュニティ化)に熱心でる。今は、KOLのギャラが高いので、UGC(User Generated Content)にしていくことを考えている。オフラインとオンラインをいろいろと組み合わせて、日本に来たい人、期待している人を集めて対応していくことを考えている。

*アフターコロナでは、日本の地域にも可能性ある。コロナ禍で、日本の見方が変わる。日本のコロナ対応に不安あるので、都会でなく、地方に。旅行も個別風呂のついた部屋に宿泊希望高まる。五つ星ホテルを今更日本につくって(中国にはその点ではすでに整っている)、中国人は宿泊しない。「ハード」ではなく、「ハート」が重要。チェーン旅館でなく、女将がやっているような、他国になく、日本にしかない旅館の方が需要がある。

*コロナで、「ほしいもの」と「提供できるもの」が変わってきている。そのニーズにうまくマッチできる人が勝者になれる。

*一人当たりの消費単価を上げる必要あり。「コト」消費でどうやってあげるかという問題になってきている。例えば、酒造体験なども現在のものでは不十分。ニーズを埋め、どのようにしてマネタイズしてくいくかの工夫が必要である。

③第11講座  2021年10月30日(土)

[テーマ]スマートシティと今後のまちづくり

 「スマートシティの動向と今後のまちづくり」と題して、森本章倫氏(早稲田大学理工学術院教授)から講演いただいた。同講演では、スマートシティの概念やフィジカル空間とバーチャル空間の関係性などについて、非常に明快なお話をいただいた。それは、今後の観光MaaSや観光まちづくりの方向性や可能性に関して示唆に富む内容や示唆であった。

[講師]

・森本章倫氏(早稲田大学理工学術院教授)

森本章倫氏の講義風景
森本章倫氏の講義風景

[司会]

・黒澤武邦氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

[要点]

・森本章倫氏から、スマートシティー(SC)の定義や説明があった。SCは、「ICT等の新技術を活用しつつ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」のことである。日本は、海外に比べて、SCは遅れ気味であるが、各国のSCが出てきた背景は異なる。例えば、米国では電力自由化に伴うエネルギー危機から、欧州はエコシティの発想から、中東などの新興国は新しい産業振興の観点から、日本はコミュニティ重視の観点から考えられている。

・このような中、日本は追いつこうとしている。日本は、G20 Global Smart City Alliance(G20 スマートシティ連合)を、世界経済フォーラムと共同で、2019年10月に設立。同連合は、「公平性と包摂性、社会的インパクト」「セキュリティとレジリエンス」「プライバシーと透明性」「オープン性と相互運用性」「財務面、運営面での持続可能性」の5つの原則で活動。また日本は、2019年からスマートシティ事業を加速的に全国の様々な地域で進めてきている。

・次に「①コンパクトシティ」「②スマートシティ」「③スマートウェルネスシティ」「④シャアリングシティ」などの関連計画概念との違いが説明された。①は「市町村の中心部への居住と各種機能の集約により、人口集約が高密度なまちのこと」、②は「都市の抱える諸課題に対してICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区のこと」、③は「くらしすことで健幸(身体面の健康だけでなく、人々が生きがいを感じ、安心安全で豊かな生活を送れること)になれるまちの実現を目指した計画」、④は「公共サービスだけに頼らず、市民ひとりひとりが『シェア』しあうことで課題を解決し、自治体の負担を削減しながら、サステイナブルで暮らしやすい街づくりの実現を目指した計画」のことである。主に①②が空間整備、③④が手法の問題である。この4つの考え方と「サーバー空間」および「フィジカル空間」との関係性が重要である。

・SCが与える影響としては、駅近のメリットが下がり、コンパクトシティへのインセンティブが下がることなどもあり、政策が相互に影響し合い、マイナスに影響し合うこともあり、相互の調整が必要になることもある。そのためには、事前に調整できるためのフレームワークを作成しておくことも必要である。

・またコロナ禍では、「ひと」が動かず、「モノ」が動くことになった。そして、オンラインが我々のDNAの中に強制的に組み込まれた。鉄道利用者激減、他方、自動車利用は一時減ったがその後回復。このように、公共交通から個別交通への流れが起きた。

・今後はどうなるのか。社会は、この100年、公共交通機関を作り、都市に通うようにしてきたが、コロナで自分の周りに何もないことがわかった。

・他方は、「15分都市」(住む、働く、買い物、医療ケアを受ける、学ぶ、楽しむという6つのある)コンパクト都市は危険という意見もあるが、都市密度は必ずしも感染率の高さとは相関していない。要は、空間の作り込みが重要である。 

・このようなことを受けて、国土交通省は、「新型コロナ危機を契機としたまちづくりの方向性(2020・8・31)」を打ち出した。これは、日本がこれまでやってきたまちづくりを大きく離れていない。コロナ禍を契機に、やってきたまちづくりの充実化に加え、サイバー空間およびフィジカル空間を使えるようにしようというものである。

・例えば、歩行者専門空間化、駐車スペース利活用などで、歩行者の空間をもっと作る。賢い「シェア」で、自動運転と公共交通のうまい組み合わせ、歩行空間、豊かな緑の空間、非集約エリアと個別交通などの適切な配置、活用、組み合わせが必要である。

・要は、人口規模に応じた交通体系と沿線土地利用ができる適材適所の交通機関の組み合わせが必要。その意味で、フィジカル空間を支える、サイバー空間をどうするかを考える必要がある。

・次に、MaaSについての解説が行われた。この場合、これまでつくってきたフィジカル空間(P)を捨てて、サイバー空間(C)を作るのはおかしい。PとCの融合が必要。その意味で、人の滞留動向を把握し、対応する必要がある。人の移動にとり理想の交通機関の活用、つまり人の移動マネジメントをする必要がある。

・「派生需要(勤務先や学校に向かうためといった、他の目的を達成するために発生する需要)」「本源需要(交通サービス自体を消費することに目的がある需要)」は、地域住民と観光客では異なる。観光客には、後者が重要。また後者は、それを表現できるキチンとした計算式がない

・観光を考える場合、「派生需要」を「本源需要」にする必要がある。それは、都心を歩いて楽しい空間に創出していく必要がある。具体的データなどで分析する必要がある。

・そのためには、「駅まち空間(駅や駅前広場と一体的に機能の配置を検討すべき地域)」を整備する必要がある【参考】「2050年の池袋イメージ」

・以上のような様々な視点からの考察を踏まえて、「ポストコロナのまちづくり」の提案。それは、上質な空間設定と「フィジカル空間」と空間の賢い使い方になる(フィジカル空間を支える)「サイバー空間」を有効かつ適切に組み合わせ、配置された空間設計と柔軟性を備えたまちである。

次号に続く…

(注1)同講座の前半に関しては、次の記事を参照のこと。

「2021年度『観光経営人材育成講座(前半)』報告…コロナ禍、外国人材の活用、データ活用の基礎…(上)」 Yahoo!ニュース 2021年9月1日

「2021年度『観光経営人材育成講座(前半)』報告…コロナ禍、外国人材の活用、データ活用の基礎…(下)」Yahoo!ニュース 2021年9月2日

(注)本記事の内容に関しては、すべて筆者の責任であることを明記しておきたい。また肩書等は講義開催時のものを使用している。