…前号から続く…

④第12講座 2021年10月30日

[テーマ]MaaS(注1)

 本講座では、近年様々な実証実験が進んでいる「MaaS: Mobility as a Servicve (マース)」をテーマとして取り上げた。講師は、日本のMaaS第一人者であり実践者でもある、森田創氏(東急急行電鉄株式会社の交通インフラ事業部MaaS担当課長)であった。

 同氏からは、伊豆観光型MaaSにおけるスマホアプリ「Izuko」の開発と運用や、コロナ後のMaaSを見据えた沿線都市型MaaSである「Dento」など、さまざまなプロジェクトを通じたMaaSの現状や今後の課題などについてのお話や指摘がなされた。また、同氏が、東急での業務を超えて仕掛けている、伊豆の経営課題を解決するために首都圏の副業人材と伊豆経営者のビジネスマッチングの新たなビジネスなどの紹介もあり、MaaSの最前線を知ることができ、大変示唆に富む内容であった。

[講師]

・森田創氏(東京急行電鉄株式会社交通インフラ事業部MaaS担当課長)

森田創氏の講義風景 写真:城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科(GSIA)提供。写真は、以下同様。
森田創氏の講義風景 写真:城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科(GSIA)提供。写真は、以下同様。

[全体コーディネータ]

・小松悟郎氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

[要点]

・森田創氏から、MaaSの定義の説明があった。そして、それは一般的には「いろいろなモビリティサービスがスマホで対応」できるということであり、「日本のMaaSは5年遅れている」という意見もあるが、それは実は間違いであるとの説明がなされた。それというのも、日本では、東急の企業のように、都市や地域の様々なデスティネーションや施設があり、観光客がどこでも対応できるようになっているからだ。他方、海外では、さまざまな公共交通を多様な自治体などが運営していて、そのようになっていない。日本の「私鉄」特有の仕組みを活かしたMaaSが、今後アフターコロナの時期に活きていくだろうと指摘した

・MaaSは、新しいサービスで、その主要な取り組みは、2014年以降から始まっている。しかし、世界でもその事業家に成功したプレーヤーはまだ存在しない。それを行うには、「オペレーター(運営体制構築、事業継続性検証)」「インテグレーター(複数事業者調達、行政協議[東急の強み])」「プラットフォーマー(アプリ開発、基盤システム開発)」が必要である

・では、なぜ東急が、伊豆でMaaSを展開しようとしたのか。それは、「伊豆」が東急にとり、重要だからである。東急は、伊豆に10のホテル、ザ・ロイヤル・エクスプレス、富士山静岡空港などがあるからである。他方、伊豆は、高齢化等で人手不足が深刻で、観光業が運営できなくなってきていた。また伊豆には、80%がマイカーでくるが、井園東側には一本の道しかないので、カーボンニュートラル的にも問題があった

・そこで、ITを活用して、サイテイナブルな観光地づくりを目指し、MaaSでこの状況や課題を変えることを考えている。それで、「Izuko(伊豆の地名、どこにいくにも便利、女子のイメージなどから命名)」の実証実験を行ってきている。これまでにPhaze1から3まで実施、様々な機能の改善などを行い、よりニーズに合った仕組みにするようにしてきている。他方、コロナ禍もあり目標を実現できていない面もあるが、学びも多い

【参考】

「2019年4月から伊豆エリアにて実施する日本初の観光型 MaaS 実証実験の詳細が決定 -専用アプリケーション「Izuko」で国内外観光客の利便性向上と地域活性化を目指します-」

「実装に向け、多客期の2019年12月1日~2020年3月10日(101日間)に実施 日本初の「観光型MaaS」・伊豆半島での実証実験 Phase2の詳細について~Phase1の課題を踏まえ、操作性と商品性を大幅に改善、テクノロジーを活用した地域課題解決の取り組みも~」

「観光型MaaS「Izuko」Phase3の詳細について」 

・また東急は、多摩プラーザなどで沿線MaaSも行ってきている。それは、コロナ禍後も、元には戻らないと考えているからである。一人のワーカーがいろいろな働き方、多様な移動の仕方に応じた実験を行い、その中で東急の今後やるべきことを考えた。その一環で東急線沿線での自由な移動と働き方を実現する新たなMaaS(モビリティアズアサービス)サービスである「DENTO実験」を実施した

【参考】

「自由で豊かな東急線沿線での働き方を実現する、新たなサービス実験「DENTO」を開始-新型コロナウイルスで大きく変容した、都心通勤者の移動・就労ニーズに対応する実証実験-」

・東急は、これまで施設などを駅から離れたところに作らなかった。しかし、コロナ禍で、家中心の生活にシフトするので、家の周りにコーワーキングシステムをつくるなどの工夫が必要になってきた。その意味で、多様なテレワークメニューなどを提供できるようにしてきている。また100円チケット(東急の通勤定期券保有者限定で、電車・バス1日乗り放題チケット)。これは格安だが、購買などを含めて東急全体として儲かる仕組みの構築。多くの友達登録や会員登録なども得て、新しい商品ニーズも学んだ

・働く場や生活の場は、コロナ前から変わってきていた。他方コロナ後は、それらをマルチの選択肢から選べる必要性ができてきている

・このように、コロナ禍は「チャンス」であるともいえる。例えば、首都圏の複業人材が、伊豆に集まれるようになってきている。そこで、伊豆の企業と首都圏の複業人材のマッチング需要でてきている。そのマッチングも始めている(これまでに2度開催)

・その他、質疑応答で、次のような指摘があった

 *そのマッチングでは、「経営者側の低い課題理解」「経営者および複業人材の求めるものの違い」「双方の遠慮」などの問題・課題がある。その意味でも、新しいマッチング、マッチングするものの工夫が必要。

 *MaaS で使用するシステム等も違い、メリットおよびデメリットがあるので、対象などを考えて、より適切なものを利活用する。またスマホの画面だけで、サービスのすべてを表現するのは限界があるので、その意味でも対象などを検討すべきである。

 *MaaSをつながりのないエリアで実現するのは大変だが、推進しようという者は「本気度」や「合理性(相手の組織で説明できるロジックを考える必要性、Win-Winにしていける必要性などを含む)」が必要であり、重要である。

⑤第13、14、15回 2021年11月23日(火)

[テーマ]観光オムニバス

 「ポストコロナーインバウンド再開のためのマーケティング戦略を提案せよ!!」というオンライングループワークを行なった。グループワークではZoomのブレイクアウトセッション機能を活用した。

[講師]

・石井伸一氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

石井伸一氏の講義風景
石井伸一氏の講義風景

[要点]

・参加者は、実際に「メルボルン(オーストラリア)」(H.I.Sによる)と「コトバスツアー(日本国内)」という2つのオンラインツアーに参加しながら、マーケティングに関する基本的な知識の説明を受けた

・参加者は、「メルボルン」のツアーでは、現地の美しいストリートアートやアーケードを散策しながら、ガイドに質問したりして、「現地」を満喫した。また「コトバス」で は、オンラインで現地の様子を見たり、感じながら、またガイドとのクイズや会話を楽しんだりなどして、オンラインツアーを体験しながら、思う存分楽しんだ。これにより、オンラインツアーを実体験しながら、可能性を考えることができた。

メルボルン市内の壁面に描かれたアートの様子
メルボルン市内の壁面に描かれたアートの様子

・3つのグループに分かれて、東京都へのインバウンド再開のためのヴァーチャルツアーの提案を行った。講義を受けたマーケティングの知識やオンラインツアー体験とーケチングの体験のおかげで、参加者は非常に楽しみながら東京の3地域(吉祥寺、神楽坂、蔵前)のツアー企画をまとめることができた。

・講義全体として、非常に活気があり実りの多いグループワークを、参加者全員が楽しむことができた。

コトバスのガイドの様子
コトバスのガイドの様子

⑥第16回 12月18日(土)

【シンポジウム】「新しい観光業の可能性と展望−外国人材およびテクノロジーの活用の視点から」

 新しい観光業の可能性と展望−外国人材およびテクノロジーの活用の視点から」最終回は、過去3年間の講座全体の締めくくりとして、「新しい観光業の可能性と展望−外国人材およびテクノロジーの活用の視点から」をテーマとしてシンポジウムを開催し、3年間の振り返りとパネルディスカッションを実施した。

 本シンポジウムは、これまでの3年間の振り返りを踏まえた「観光におけるテクノロジーの活用」および「観光における外国人材の活用」の2つのセッションから構成されていた。

王璇氏(中央)、石井伸一氏(右上)、黒澤武邦氏(右下)、小松悟朗氏(左下)、筆者(左上)
王璇氏(中央)、石井伸一氏(右上)、黒澤武邦氏(右下)、小松悟朗氏(左下)、筆者(左上)

[講師(登壇者)]

・王璇 (Wang Xuan)氏(一般社団法人日中ツーリズムビジネス協会代表理事。ENtrance株式会社代表取締役社長。日本政府観光局(JNTO)中国市場戦略顧問)

・黒澤武邦氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

・石井伸一氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

・小松悟朗氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

・鈴木崇弘氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科長・特任教授)

[要点]

・「観光におけるテクノロジーの活用」

 *本講座の3年間の振り返り(注2)

 *現在コロナ禍で観光業は非常に厳しい状況にある。しかし、そのために、観光業は、強制的にテクノロジーを活用せざるを得ない状況に置かれた。そのことで、観光業は、テクノロジーを適切かつ前向きに活用すれば、新しい可能性を創り出せるのではないか。

 *観光業は、様々な視点や複数の専門分野の観点から考察していく必要がある。それによって新しい観光の可能性を見いだしていくことができるだろう。

・「観光における外国人材の活用」

 *王璇氏が、「観光業界で奮闘する在日外国人の『本音』」というタイトルで、自身の日本企業での就業経験および起業や経営者としての経験などから、日本における外国人人材の活用術について話題提供を行った。そして観光業界で働く在日外国人の本音としては、「正直、同業より給与水準が低い」「なのにやりたいといいう思いが強い」「実は本気で架け橋になりたい人が多い」「もっと・自由な働く環境、裁量権与えて欲しい」「そのために、社内の信頼関係の構築が大事」「そのために、お互い本気で理解と向き合いが必要」「うまくいく会社と地域の圧倒的に違う点は、『外人』のフル活用(使い倒し)のあるなし」などがあげられた。

 *その後の質疑応答で、王氏からは、「リスクヘッジの日本人と目標達成重視の中国人の間の文化的違い」「違いを乗り越えるには、組織の重要性を可視化し、それで判断すべき」「働いている人が輝いていることが観光業の発展では重要」「外国人にはできればすべて任せるのが良い」「外国人(特に中国人)を雇用すれば、1人でその10倍の人々が集まる」「日本における巻き込みの成功例としては瀬戸内国際芸術祭(https://setouchi-artfest.jp/access/)や北海道の東川町など指摘があった。

シンポジウム後の集合写真(参加者の一部のみ)
シンポジウム後の集合写真(参加者の一部のみ)

 この3年間にわたった本講座は、日本におけるコロナ禍の本格的始まりの時期から現在の状況までにおよんだ。その期間における状況は、日本における観光、特に急成長してきたインバウンド観光が置かれた環境を大きく変えた。これまで急速に成長を続けてきた観光は、非常に厳しい状況に置かれ、従来の対応や手法がほとんど通用しない状態に置かれたのである。

 しかしながら、観光業では、コロナ禍が起きる前から、オーバーツーリズムの問題、産業や企業としての観光における問題、労働力や人材の不足の問題、生産性の向上などの問題や課題がすでに起き始めてきていた。その意味では、観光業は、早晩難しい局面に直面せざるを得なかったともいえなくもない。

 その意味で、今般のコロナ禍は、観光業にとって重大かつ壊滅的な打撃を与えているが、これを新しい観光業の可能性を見いだす機会していくべきだろう。実際に本講座全体においても、その新しい可能性や展望を見いだすこともできたということができる。

 本研究科としては、本講座の経験も踏まえて、観光経営人材を含めた観光人材を創出していける教育プログラムを構築し、観光業に貢献していきたいと考えている(注3)。

(注1)MaaSに関しては、次の記事参照のこと。

 ・「日本における「MaaS・観光型MaaS」の可能性と展望」Yahoo!ニュース 2021年11月13日

(注2)本講座については、次の記事を参照のこと。

・2019年度

「感染症の広がりの中、リスク回避を模索しながら開講した『観光経営人材育成講座』」Yahoo!ニュース 2020年3月22日

・2020年度

*第1期 

「コロナ禍は危機。だが、日本の観光業が飛躍できる好機になりうる。」Yahoo!ニュース 2020年9月17日 

 *第2期

「MICEやコンベンション業界の現状と今後を考える」Yahoo!ニュース 2020年10月14日

 *第3期

「観光業は、次を見据えて、新しい形を見いだすべき時期に来ている(1)」Yahoo!ニュース 2020年12月13日

「観光業は、次を見据えて、新しい形を見いだすべき時期に来ている(2)」 Yahoo!ニュース 2020年12月14日

・2021年度(前半)

「2021年度「観光経営人材育成講座(前半)」報告…コロナ禍、外国人材の活用、データ活用の基礎…(上)」 Yahoo!ニュース 2021年9月1日 

「2021年度「観光経営人材育成講座(前半)」報告…コロナ禍、外国人材の活用、データ活用の基礎…(下)」Yahoo!ニュース 2021年9月2日 

(注3)現在そのプログラムを構築中である。

(注)本記事の内容に関しては、すべて筆者の責任であることを明記しておきたい。また肩書等は講義開催時のものを使用している。