城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科(GSIA)は、今年度も「観光経営人材育成講座」(東京都支援)(注1)を7月から開講している。本年度は、その3年度目(最終年度)になるが、今年度のテーマは「観光新時代、テクノロジーと外国人材の活用における展望」で、前期後期の全16講座を予定している。同講座の前半が終了したので、2回に分けて紹介しておく。

 本年度における本講座は、次のような内容に基づいて構成され、前半は主に「コロナ禍」「外国人材の活用」「データ活用の基礎」を中心にした情報提供および議論、学習の機会を提供した。なお、本年度前半も、コロナ禍のために、オンライン形式で実施された。

 「新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、これまでに経験したことのない甚大なダメージを受けた観光業界。依然として厳しい環境の下での事業運営が続き、企業経営そしてさらに関連する地域や産業を維持・発展させていくためにも、これまで以上の創意工夫が求められています。またアフターコロナを考えると、外国人材の活用も含む人材の確保・育成の問題・課題もあります。その一方で、最先端テクノロジーの活用や社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)(注2)が急速に進んでおり、観光のあり方自体も世界的に大きな転換点に立っています。ウィズコロナ時代・アフターコロナ時代を生き抜くためにできること、すべきことは何か。そして、今後を見据えた人材の獲得やその人材育成にどう備えるか。本講座では、業界有識者らを迎え、『テクノロジーおよび外国人材の活用』にフォーカスしながら、新しい時代の観光を展望・構想する機会を提供します。」

 本講座の今年度前半には、次のような講座を提供した。

①第1講座 2021年7月9日(金)

      「【トークセッション】五輪後の観光政策と新時代の展望」

②第2講座 2021年7月17日(土)

      「世界のDMO コロナ禍での取り組み」

③第3講座 2021年7月17日(土)

      「世界の航空輸送見通しとインバウンド」

④第4講座 2021年7月31日(土)

      「外国人材活用・中国人観光客の視点」

⑤第5講座 2021年7月31日(土)

      「外国人材育成と日本語」

⑥第6講座、⑦第7講座、⑧第8講座 2021年8月28日(土)

      「【グループワーク】観光経営とデータサイエンス」

 次にその内容について、より具体的に説明していこう。

①第1講座 2021年7月9日(金)

[テーマ]【トークセッション】五輪後の観光政策と新時代の展望

[講師]

・木下智彦氏(GR Japan株式会社アソシエイトディレクター)

・黒澤武邦氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

 第1回は、「五輪後の観光政策と新時代の展望」と題して、公共政策アドバイザリーのGR Japan株式会社の木下智彦氏と黒澤武邦本研究科准教授による対談形式で進められ、世界的イベントである東京五輪後の観光政策の方向性とそれを取り巻く環境、外国人材の活用を展望した。その要点は、次のとおりであった。参加者からもたくさんの質問が出され、活発な議論が展開された。30名を超える方々にご参加いただき、盛況であった。

木下智彦氏と黒澤武邦氏の対談の様子 写真提供:城西国際大学(以下の写真も同様)
木下智彦氏と黒澤武邦氏の対談の様子 写真提供:城西国際大学(以下の写真も同様)

[要点]

・コロナワクチン接種の差が、国際的に出てきている。このままいくと、東京五輪(オリパラ)は、日本が接種を含むコロナ対策が遅れていることを世界に印象づけることになるのではないか。

・観光は、今は都市間競争になっている。そのような中で、アフターコロナになって、観光が一斉にスタートした時に、他国との関係で、遅れを取り返すのは大変である。

・今後は、自分の意見は発し、政策、行政、政治の在り方、国にそれらを反映させていくことが必要である。

・訪日観光客も、国や層により、そのニーズや状況・環境などが異なる。どの国・その中でもどの層にリーチするのかを考える必要がある。「コア」をどうするかという視点でのマーケティングをする必要もある。またそれらの対象に関するデータ(支払方法、負担額、どこで儲けるかなど)も十分でない。「おもてなし」の視点だけでは不十分。

・DMO(注3)や行政なども十分に回っていない。

・ワクチンに関する契約も、ビジネス感覚が低く、結果ワクチン獲得が遅れた。接種計画も遅延している。

・外交では、「落としどころ」が重要である。

・説得のための調査、専門家の意見の集約、政策・法づくりというサイクルが滞っている。

・行政は、ターゲットにリーチするマーケティングは、その性格上難しい。メリハリのある情報も集めにくい。

・その意味で、民間やビジネスも、声を上げていく必要がある。

・「立法事実(世の中の人が考え、動き出すことになる事実)」。日本では、これまで官僚に任せてきてしまった。その意味で、声を出すことが大切。コロナ禍で、「立法事実」があったりすれば、声が広がりやすい。

・日本は、社会のシステムが硬直化してきているので、コロナ禍が大きな転換になるかもしれない。最近は、大きなことは公共性が高く、政治や行政にも届くが、細かいものは届かない。近年は、インターネットなどで、声や状況が細分化してきている。それらのことがまとめられる必要がある。

・外国人材の活かし方も、はっきりしていない。移民政策はとらない方向性で、労働ではないという考えに基づいて「技能実習」などを取り入れて対応している。意欲ある人を、日本社会で活かしていくには、その政策をもっと明確にする必要があろう。

②第2講座  2021年7月17日(土)

[テーマ]世界のDMOコロナ禍での取り組み

[講師]

・横山知己氏(山中湖村DMO統括マネージャー/山中湖観光協会事務局長)

[司会]

・黒澤武邦氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

 本研究科の社会人学生で、山中湖村DMO統括マネージャー/山中湖観光協会事務局長の横山知己氏から講演いただいた。現場での知見から、日本版DMOの課題についての次のような示唆に富んだ意見交換が行われた。

横山知己氏の講義の様子 
横山知己氏の講義の様子 

[要点]

・個人的経験:

インバウンドは外国人目線。

観光は「ブーム」ではなく、「ルーツ」ではないか。

 「住んでよし(住民)、訪れてよし(観光地)」。

 「観光を学術的に捉える必要性」

→そこで、城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科入学。

 DMOとして、「観光経営」を極めたい、財源を求める、世界のDMOを知りたい

・山中湖DMO

 もう一度現場。世界遺産の中にある。コロナ禍での取り組み(関係者等へ原価販売、サポート、「安心・安全」な場所をPR)。現在思い切った「戦略」は見込めないが、「攻め」の姿勢が大切。そこで、農林水産省農泊事業、アドベンチャーツーリズム[環境省]、内閣府地方創生交付金、コロナ対策、商品開発などに取り組んでいる。

③第3講座  2021年17日(土)

[テーマ]世界の航空輸送見通しとインバウンド

[講師]

・丹治隆氏(航空経営研究所主席研究員)

[司会]

・石井伸一氏(城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授)

 丹治隆航空経営研究所主席研究員から、コロナ前後での日本が遅れているLCC導入やデジタルワクチンパスポートの課題について、次のような報告がなされ、それを受けて議論がなされた。週末にもかかわらず30名を超える方々にご参加いただき、盛況であった。

丹治隆氏の講義の様子。
丹治隆氏の講義の様子。

[要点]

・航空産業・市場は、コロナ前は「ノーマル状況」、コロナ禍下は「未曽有のインパクト」、そしてコロナ後は「ニューノーマル」。

・航空業界は、一部を除き、コロナ禍前までは未曽有の好景気。コロナにより「天国から地獄」状態。

・航空業界は、もともと利益率の高い業界ではない。しかし2010年からは好況だった・イベントリスクに弱い。湾岸戦争、同時多発テロ、リーマンショックなどの「イベント」。それが起きると3年ぐらい停滞する。

・近年、LCCがシェアを伸ばしてきていた。

・ANAやJALは、世界的には中規模。世界全体の航空業界の33.3%がLCC。東南アジアでは56.3%。日本では、LCCのシェアは10%前後で、世界最低。

・LCCのビジネスモデル。

・航空市場の成長のほとんどは、LCCが取り込んできていた。

・日本も航空業界の規制緩和。2007年アジア・ゲートウエイ構想→オープンスカイ(第一次安倍政権)。日本は、世界に10年遅れている。国土交通省成長戦略2010

・結果、インバウンドが好調。この10年営業利益、経常利益はプラス。

・コロナ禍で、前代未聞の需要低迷。需要蒸発。

 航空会社の経営逼迫・企業努力、政府支援策、一部の航空会社(コレアン・エアー、中華航空、日本貨物航空)黒字計上、国内線はある程度回復(5月で約76%回復)、国際線15%(5月)。

・航空業界では、日本を含むアジア太平洋が最も回復遅い。

・世界の航空旅客数は、現在20年前に逆戻り。

・収入減り、赤字増大の中、サバイバル戦略。

・世界の航空会社の秩序が崩れ、ガラガラポン状態。

・観光が戻ったら、LCCが強いのではないか。

・コロナ収束時期はいつか。

・ワクチンパスポート、デジタル健康証明がキー。日本も、紙ベースだが、7月26日ワクチンパスポート開始。デジタル化の遅れや手続きの複雑化。

・インバウンド観光は、相手国のコロナ感染状況、ワクチン接種状況等に影響を受ける。

・日本はワクチン証明の対応が遅れているが、コモンパスやIATAのシステムにゆだねた方がいいのではないか。

・2021年7月12日、新型コロナウイルスのワクチン接種や関連する検査の陰性などを証明する「『デジタルワクチンパスポート』導入に関する提言」(運輸総合研究所)を公表。

『2021年度「観光経営人材育成講座(前半)」報告…コロナ禍、外国人材の活用、データ活用の基礎…(下)』に続く

(注1)詳しくは、こちら

(注2)DXは、「『デジタルトランスフォーメーション』を略したことばです。変化や変換という意味があるトランスフォーメーションの『トランス』を英語圏では『X』と表記することがあるため、『DX』と略されるようになりました。日本語では『デジタル変革』とも訳されます。デジタル技術を使って、人手のかかっていたサービスを自動化したり作業を効率化したりするのが『デジタル化』だとすると、DXはデジタル技術やデータを駆使して作業の一部にとどまらず社会や暮らし全体がより便利になるよう大胆に変革していく取り組みを指します。」出典:NHK「サクサク経済Q&A」

(注3)「DMOとは、観光物件、自然、食、芸術・芸能、風習、風俗など当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと。Destination Management Organization(デスティネーション・マネージメント・オーガニゼーション)の頭文字の略。DMCはDestination Management Company(デスティネーション・マネージメント・カンパニー)の略。」出典:JTB総合研究所観光用語集

 なお、本記事の内容に関しては、すべて筆者の責任であることを明記しておきたい。