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観光業は、次を見据えて、新しい形を見いだすべき時期に来ている(2)

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
新しい観光の可能性に期待したい(写真:アフロ)

本記事では、「観光経営人材育成講座」(第3期)の後半以降の報告を行っていく。

講座(4)観光業における入管法、在留資格、基礎知識…外国人人材

〇ビザの発給は、「①在留資格の該当性」「②基準適合性」「③相当性」が必要で、さらに「安定性(ビザで認められた業務が安定的にあること)」および「信ぴょう性(前歴など)」が考慮されて行われる。

〇在留資格は、これまでは「日本人ができない仕事をすること」であったが、「人手不足」対応に変わってきた(2019年の入管法の改正)。

〇特定活動は、「法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動」。それは、それ以外の資格は法律に基づくものであるが、その活動は、社会の変化で日本に入るドアの開閉、ドアの大きさなどを自由に変えられるチャネルで、コロナ禍での外国人対応でも活用されている。この仕組で実績を積み、その実績が集積すれば、法律にする(法律化)という流れになっている。

〇業務内容と関連することを学んでいることが、重要。

・大学――緩やかに審査(学校教育法の大学の定め)

・専門学校――厳格に審査(学校教育法の専修学校の定め)

・実務経験――厳格に審査(そのものと同じ業務である必要はない。関連性で足りる)

 →活動が単純労働だといわれるケースが多々散見。

 →入管は運用によって学問的知識を要する業務の射程範囲を広げたり狭めたりしてき

  た。入管も、国策変更で、対応を変えてきている。

 →日本の職場では正社員に地味な現場の経験をさせるが、それでは「技術・人文知識

  ・国際業務(技人国)」の在留資格とは本来整合性がとれないが、そのことは入管も

   理解し、変わってきている。

講座(4)の講義風景 写真:筆者撮影
講座(4)の講義風景 写真:筆者撮影

〇ステップアップ理論 「技人国」にいう技術または知識を要する業務と単純労働には

壁がある。「日本での就労予定期間に満たない期間かつ就労する会社において日本人を含めた社員の育成に必要な準備として認知されている範囲内の内容及び期間での実務研修としての単純労働の就業が認められる」、逆に「予定実務研修期間を超えて単純労働をしているとして不許可となる可能性あり」。

〇特定活動第46号 日本の大学又は大学院の課程を適正に卒業・修了した留学生は、日本の文化に触れながら学んだ日本の良き理解者であり、在学中に修得した知識や、日本語を含む語学力を活用する業務が含まれている場合、その就職を認める。

〇特定活動9号インターン 外国の大学の学生が、当該教育課程の一部として、外国の当該大学と本邦の公私の期間との間の契約に基づき当該機関から報酬を受けて、1年を超えない期間で、かつ、通算して当該大学の就業年限の二分の一を超えない期間内当該機関諸業務に従事する活動。類似の特定活動として、特定活動サマージョブもある。

〇特定活動5号 ワーキングホリデー 日本とのワーキングホリデー協定国の国籍所有者を最大1年間の範囲内で受け入れる。

〇宿泊の在留資格の場合は、その資格が開始されてすぐにコロナ禍になったという事情があるので、あまり解雇されていない。

12月で終了のはずが、来年2月まで延びた。

〇特定技能で外国人を受け入れるとコストとリスクがかかる可能性がある。特定技能で外国人を受け入れるとリスクが存在。また人員整理すると不法就労になりかねない。

〇インバウンド業界では、外国人人材採用への躊躇がある。それ以外では、コロナの影響がないところもあり、受け入れも変化していないところもある。

〇入管は、それは本来あってはならないことだが、4月の人事異動で審査における運用が変わることもある。

〇入管の裁量は大きく、大きな影響力がある。

講義(4)の講義風景 写真:筆者撮影
講義(4)の講義風景 写真:筆者撮影

講座(5)レジリエントな観光ビジネスと社会ネットワーク

〇観光ビジネスには、様々なリスクや問題・課題が存在している。それらのことを踏ま

えて、観光業や観光地域がいかにレジリエントな(復元力のある?)ビジネスや地域の

コミュニティ、社会ネットワークを構築するかについて考察。

〇「レジリエンス」は、単に「元に戻る」を意味せず、再生力、変化する力(器<うつわ>)を意味する。

〇「木を見て、森も見て」の発想や視点が必要。

〇変化。

・コロナ前の特徴:1点・局集中、オーバーツーリズム。

・現在進行中:リモート・ハイブリッド式ミーティング・イベント、「密」回避。

・コロナ後に求められるもの:バランス(住人と観光客、人数等々)、持続可能な社会(SDGs)、量だけをみるのではなく「質」、自然との共生、Well-being(人間らしさ、幸福感)。

講座(5)の講義風景 写真:筆者撮影
講座(5)の講義風景 写真:筆者撮影

〇自然、社会、経済環境の変化。有限な資源。有限の中イノベーションが求められる。

〇レジリエンスアプローチ。

・「つながり」「関係性の視点」。

 *間、間接性をみる。

 *周囲、変化を意識する。

 *部分と全体を同時にみるー「間」「境界線」「関係性」、一見してみえない

  「隙間」。

〇レジリエントな観光ビジネス。

・レジリエントな観光ビジネスを可能にする「木を見て森も見る」ための主な要素。

 [つながる]対面する、向き合う、双方向のコミュニケーション、点と点を繋ぎ合わせる。

 [時間]過去・現在・未来・温故知新。

 [プロセス]学習する、創り直す、仕組みを創る。

 [スケール]違う角度、多様な視点から見る・描き出す。

・観光ビジネスの見直し、観光ビジネスの不可欠な柱「社会ネットワーク」を活かす。

 *点と点(様々な観光資源、自然、風景、人、コミュニティ、アート等)を結ぶ、

  線を描く。

 *短・中・長期的視点、歴史・今・未来、伝統(技など)と斬新さ(新技術)、

  それらを介する「人」。

 *「内と外」の繋がり、業界内外のネットワーク。

 *新しい「場」の設定、異なるものを取り入れ、創りなおす、「隙間」発掘、

  デザイン、「価値」創造(ブランディング)。

講座(5)の講義風景 写真:筆者撮影
講座(5)の講義風景 写真:筆者撮影

講座(6)政治リスクと観光業

〇「人間が全知であり、確実が不確実を克服したという幻想は消え去った。知識が爆発的

に発展したことで、我々の生活はさらに不確実になった(Peter Bernstein quoted in

Toksoz(2014, p4))」。

〇「ブラック・スワン」(ナシーム・タレブ『ブラック・スワンー不確実性とリスクの本質』(2009年、ダイヤモンド社))は、「予測不可能な「例外的出来事」が引き起こす究極のインパクトであり、経験に基づく推測の限界を示している。」

〇定義:「ある特定の政治イベントや行動が市場や経済に損失を与える確率。政治リスクの数量化は困難ではあるが、人間が特定の目的や利権に動機づけられ、特定の政策により誘引されるもの。その意味では、予測可能であり、リスクを軽減できる」(出所:講座のPPT資料)。

〇コロナ禍のような政治リスクは、既に予測されていたことであり、ブラック・スワンではない。

〇「不確実性」と「リスク」。

・リスクとは測定可能な不確実性のことであって、「ある出来事が測定可能な損失を引き起こす確率(Inan Bremmer& Preston Keat『The Fat Tail: The Power of Political Knowledge for Strategic Investing(2009年、Oxford University)』」のことである。

〇リスクはどこに。

・金融、マクロ経済、産業、組織、環境、公衆衛生、政治等々。

 リスクイベントの種類:「地政学的」「国際関係」「グローバル資源」「テロリズム」「国内紛争」「接収」「規制や政策の変更」「資本市場の操作」「社会的アクティビズム」など。

・パンデミックに対する各国の対策自体は、「政治リスク」ということができる。

・政治リスクは予測するのが難しい。

・各国の金融規制当局は、政治リスク管理は義務化してはいない。

・事例:「Sea World」(米国フロリダ州)でのスキャンダル、「The Cove」(和歌山県太子町イルカ漁への環境団体の抗議)、コロナ禍でのクルーズ船での様々な出来事、ホテルチェーンの性的人身売買関与での提訴事件など。

講座(6)の講義風景( 「エコノミスト誌より」) 写真:筆者撮影
講座(6)の講義風景( 「エコノミスト誌より」) 写真:筆者撮影

〇トラベル・バブル(旅行圏?)  観光業でのリスク管理。

・一つの可能性:コロナ対策優良国同士で、「バブル」を形成し、観光業の促進。

・事例:バルト3国、トランス・タスマニア・バブル、中韓ファストトラックエントリー(入管)、シンガポール・香港間フライト規制なし(2020年12月より)など。

・「トラベル・バブル」を創るには、公衆衛生に関する共通の認識・実勢、相互信頼の醸

 成(情報共有)などが必要だ。なお今後、増加が予想される。

・「信用」「安全」がキーワード。

・世界「安全」ランキング スイス1位、日本5位。日本にも可能性があるかも。

〇政治リスクにおける要諦(担当講師資料より引用)。

・リスク要因を見極めることが必要。つまり“ブラック・スワン”を解き明かすことである。

・確率とインパクトの測定することの必要性。

・予防と準備の体制づくりを行い、リスクを緩和することが必要。

・ステークホルダーとリスク情報を共有、つまり「双方向的」リスク・コミュニケーションが必要。

講座(6)後の集合写真 写真:筆者撮影
講座(6)後の集合写真 写真:筆者撮影

 以上のことからわかることは、次のことである。

まずコロナ禍において、観光業は、一部を除くと、今も依然として厳しい状況にある。

またコロナの感染も再拡大が始まってきているが、「ウィズ・コロナ」の状況も生まれ、ある意味「コロナ禍」が日常化してきている。そしてワクチンの開発や活用も始まりつつある。

 このような中、コロナ禍が、従来の観光における問題や課題をさらに浮き彫りにし(そのことは、今後を考えると、ある意味「不幸中の幸い」ということもできる)、現在は、これまでの観光をリセットしてきており、今後の「アフター・コロナ」における観光の可能性を考える時期にきている。それは正に、観光において、新しい観光、新しい観光ビジネスを考えだすべきタイミングに来ているということである。

 このように、筆者も含む受講生は、これまでおよび今回の公開講座(第3期)を通じて多くのことを学び、改めて日本の今後の観光を切り開いていこうという意欲をもたれたのではないだろうか。本講座は、来年度も継続の予定であるので、日本の今後の観光業の発展に資するように運営していきたいと考えている。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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