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観光業は、次を見据えて、新しい形を見いだすべき時期に来ている(1)

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹
新しい観光のあり方が求められている(写真:アフロ)

 先月11月から、日本国内でも新型コロナウイルス感染が再び拡大してきている。このようにして、今年は、コロナ禍にはじまり、コロナ禍に終わろうとしている。

 そのような中、筆者が所属する城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科は、東京都支援事業「大学等と連携した観光経営人材育成事業」の一環として、本年度最後となる、「観光経営人材育成講座」(第3期)を、12月5日および6日に開催した。今回も、コロナ禍拡大のなか、Zoomを活用したWebinar形式で開催した。

 今回の講座は、全体テーマ「ウィズコロナ・ポストコロナ時代の観光と外国人材活用の方向性」の下に行われる本年度の3回の公開講座の内の第3期目で、そのテーマは「自然災害や感染症などの外的リスクが高まる中、インバウンド観光を推進し、外国人人材を呼び込もうとしている日本は大きな岐路に立っています。持続可能な観光業を発展させていくには何が求められるのか?外国人人材を含めた様々なステークホルダーが果たす役割とは?『観光×リスク管理×外国人人材』のマトリックスを元に、国内外の事例やコンセプトを紹介しながら解説する」であった。なお、この講座の受講対象は主に観光業に関わる方だった。

 本記事では、その第3期のプログラムについて報告していく。

 同講座のプログラムは、次のとおりであった。

12月5日(土)

講座(1)『災害とコロナ時代を見据えたマーケティング調査』

講師:人吉温泉観光協会 専務理事 中村和博氏

・人吉温泉観光協会専務理事、魅力研究所代表

 熊本県の人吉球磨は、今年はコロナだけではなく、7月豪雨による甚大な被害など大変な状況に直面し、非常に厳しい状況にある。現在それを乗越えるべく、真摯かつ前向きに取り組んでいる人吉球磨の現状についての報告。

講座(2)『国際会議参加者の誘致・開催とリスク管理』

講師:城西国際大学 准教授 岩本英和氏

 国際会議の開催には様々なリスクが伴い、対策・対応は会議の成否にも影響する。日本の国際会議動向に焦点をあてつつ、開催者と参加者の観点からコンベンション開催地選定基準に関する事例を用いた解説。

講座(3)『パンデミックと観光業』

講師:東洋経済新報社 記者 森田宗一郎氏

 パンデミック禍の日本の観光業における現状について、「資金繰り」および「マーケティング」の2つの視点から解説し、今後の可能性についても考察。

12月6日(日)

講座(4)『観光業における入管法、在留資格、基礎知識』

講師:行政書士明るい総合法務事務所代表 特定行政書士 長岡由剛氏

 外国人材を導入する上で、災害や人的なリスク(入国管理の問題など)をどのように管理し、外国人スタッフとどのような協働が求められるのかについての解説。

講座(5)『レジリエントな観光ビジネスと社会ネットワーク』

講師:京都大学総合生存学館 特定准教授 清水美香氏

 観光業や観光地域が、いかにレジリエントな、復元力のあるビジネスや地域のコミュニティ、社会ネットワークを構築するかについての講義。

講座(6)『政治リスクと観光業』

講師:城西国際大学 教授 遠藤十亜希氏

 観光業にとっての潜在リスク要因(自然災害・感染症・人災・政治など)について分析すると共に、それらのリスク対策を立案し実践していくための手法を、海外事例やリスク・マネジメント理論を使って解説。

 次に、講義の中から、筆者が重要だと思ったコンテンツをピックアップしておきたい。なお、以下で取り上げるコンテンツは、飽くまで筆者の視点および理解に基づくものであることを注意していただきたい。

講座(1)災害とコロナ時代を見据えたマーケティング調査…人吉・球磨地域

〇近年誰も想定していなかった自然災害が起きた。特に人吉での7月の水害は従来では考

えられない水準だった。

〇他方で、未来を予測することで、パニックを回避できることもあるのではないだろうか。

〇人吉は、7月の水害でまちの魅力がすべて流されて、それを復興する役目がある。

〇現在(12月5日)時点で、人吉は、やっと復旧され、これから復興に向かえるような段

階になったところ。

〇今年は3重苦(観光業を取り巻く課題、コロナ禍、7月の豪雨)。

〇観光業を取り巻く課題(人口減・高齢化、観光客のニーズの多様化、観光スタイルの変

化)。

講義(1)の講義風景 写真:筆者撮影
講義(1)の講義風景 写真:筆者撮影

・観光は、「物見遊山的観光」から「体験型観光」に、日本ではこの10年で、中国人などの外国人観光客のニーズは近年で変化。そして、その次の観光はどのようなものがあるかという段階にきている。

・「団体旅行」から「個人旅行」に変化。観光協会・DMOなど、十分な対応ができていない。

〇熊本県下の観光協会数団体で、本年5月ごろ、この厳しい状況において、協力をすることを決めた。共同でネット上のイベント(「サクラサク熊本」など。人を集める、デジタル・データの収集、若者向け)の開催やメディアリリースやアンケート調査(「新型コロナウィルス感染症に係る現状一斉調査」[ニーズがわかり、動きの変化も把握できた]「新型コロナウィルス感染症収束後の旅行・観光に関する意識調査」[消費ニーズの把握。全国的反響])(注1)。

〇豪雨災害の際には行政職員も被災し、災害復旧に取り組んだ。発災時は各旅館等が避難対応に追われた。厳しい状況だったが、観光客や子どもに被害はでなかった。

「Reborn」というラベル球磨焼酎でつくり、売り上げの一部は球磨焼酎酒造組合、観光振興団体に寄付される。クラウドファンディングなども試みている。

〇体験型ツーリズムとしては、従来の球磨川下りができないので、「サイクルツーリズム」や修学旅行として「被災地プログラム」「海軍基地体験」なども開始している。

〇人吉温泉地区では、現状は厳しく、以前にいた外国人人材も新たな職場に就職された方、帰国された方、職場に所属しながら、別の職場で研修を受けている方、職場で災害復旧作業に従事するなど様々です。

〇行政、業者(旅館など)、協会などで、協力して、今回のような危機や災害などに関して、対応すべきである。行政や協会などでまず問題の整理を行い、旅館等に投げかけて対応していくべきだろう。

〇復興は、復旧し、100%元に戻ることがゴールでは不十分。発災前に比べ120、130%ぐらい戻ることで、以前の100%などが実現できると考えている。

講義(1)後の集合写真 写真:筆者撮影
講義(1)後の集合写真 写真:筆者撮影

講座(2)国際会議参加者の誘致・開催とリスク管理

〇国際会議を誘致することは、インバウンド観光を促進に結びつき「経済的効果」だけでなく「文化・社会的効果」が期待できる。

○コロナ禍において、国際会議をオンライン会議で代用しているケースが増えているが、インバウンド観光促進の観点から現地での開催を模索する必要がある。

○コロナ収束後の受入の準備期間とすることが望ましい。

講座(2)の後の集合写真 写真:筆者撮影
講座(2)の後の集合写真 写真:筆者撮影

講座(3)観光とパンデミック

〇今の日本の観光業は若者を無視。星野リゾートは、1泊5000円で、若者の星野リゾートへのエンター(入口)を創っている。

〇2020年2月ごろには、国内の観光がどうなるかわからなかった。3月に空港に行き、人がいないことがわかり、観光が大きく変わりうることを理解した。

〇この1年は、観光業は「焼け野原」状態。

〇資金繰りの問題。

・五輪などで単価が下がってきたところに、コロナ禍が起きた。

・ホテルは、「日銭商売」で、元々手許資金が少なめ。たとえば、ロイヤルホテルはかなり厳しい。数か月の間に収入が「蒸発」するという前提が、これまでなかった。業界で、ホテルがバタバタ倒れた。

・他方、うまく立ち回れた観光関係企業は、「①スピード感」「②日頃から築いた銀行との(良好な)コミュニケーション・関係性」があった。①②は、他企業でも同様。日頃から、銀行とキチンと付き合いができているところは、仮融資が早く決まっている。また、お金は、基本人と人との関係で成り立っている。その意味で、常日頃からの付き合いが大切。

〇マイクロツーリズム

・GoToで、地方の高単価のホテル(一定のブランドのあるホテル)に客が集まっている。また若い層も取り込めている。

・ウィズコロナのパターン(三密を避ける、密を避ける。コテージ使用傾向。部屋付き風呂、首都圏から少し離れた)が見えてきている。

・マイクロツーリズムは、近すぎてもダメで一定の距離(1~2時間[マイクロツーリズム商圏])。

講座(3)の講義風景 写真:筆者撮影
講座(3)の講義風景 写真:筆者撮影

・その戦術は、「シンプルで良い」「地元食材」「新しい食べ方」「地域と連携、地元タウン誌で情報発信」。やることは、通常時と同じ。ただし、ハードは同じで、ソフトを変えて、ターゲットを振り分け、ターゲットの日本人に向かったマーケティングをやる。

〇エアラインの変化。ANA、JALは元々「長距離」「高単価」。しかし、リモート会議や企業不振で出張数低下。頼みは、観光・帰省の需要。他方、LCC(ピーチ、ジェットスター)は「近距離」「低単価」。エアラインも、まずは近距離重要(にならざるをえない感じ)。

〇観光需要が重要。

〇ラグジュアリーホテル(ポストコロナでの重要な1つの選択)

・「ラグジュアリー」:東京のような大都市のラグジュアリー(最高級)ホテルは、標準客室面積が40平方メートル以上、客室単価は4万円以上。

・GoToで、高い単価のものは戻ってきている。これまでよりもより上のランクのものを使うようになってきている。

・日本にはラグジュアリーなホテルがないといわれ、難しいテーマだが、やりがいのあるテーマ。データを見ると、客室数と客室単価には負の相関があるようだ。

・日系ラグジュアリーの反攻(パレスホテル、プリンスギャラリー東京紀尾井町、キャピトルホテル東急。御三家?オークラ:立て替え、オータニ:二刀流(ホテルの中に別途ラグジュアリーブランド「禅」を用意)、帝国:客層を変えられるか(五輪後に建て替え?)。

〇今後:GoToは必ずおわりがくる。特にホテルはコロナ前から供給過剰とされてきていた。短期的には、国内客重視で、中長期的にはインバウンドもミックスで、複数のマーケティング戦略の「引き出し」を用意していくことが必要か。

〇観光業では、雇用に関しては、雇用調整助成金がありその活用で、正規職員はこれまで守ってきていた。他方、非正規職員は切ってきていたが。ただ、藤田観光なども、希望

退職を募りだしてきており、これまでの固定費水準では、ホテルなどを維持できなくなっ

てきている。またそのような人員対応で、どれだけ資金獲得できるかにも関係してきてい

る。

〇コロナ禍での変化。

・ホテルなども、これまでの対応を超えて、施設をレジデンスに変えるようなこともしてきている。

・インフラ整備としてラグジュアリーホテルがビル内にあることで、入居ブランドを高められる。テナン

トへの付加価値ともなる。

・すべてのホテルが、このコロナ禍で生き残れると考えない方がいい。ビジネスホテル等でも、ホスピタルビジネスとしてビジネスホテルを運営したり、パレスホテルのようにデリバリーやテイクアウトをやるとか、ホテル三日月のように感染対策を徹底しそれを対外的に発信するなどの付加価値を付け加えられれば異なる結果もありうる。

講座(3)後の集合写真 写真:筆者撮影
講座(3)後の集合写真 写真:筆者撮影

「観光業は、次を見据えて、新しい形を見いだすべき時期に来ている(2)」に続く。

(注1)「コロナ禍での消費者の旅行・観光への意識を踏まえて観光業が今すべきこととその可能性」(Yahoo!ニュース、鈴木崇弘 2020年5月8日) 

(注2)Singapore Tourism BoardのHPなどをさんしょうのこと。

(注3)「『関係人口』とは、『移住した定住人口』でもなく、観光に来た『交流人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。地方圏は、人口減少・高齢化により、地域づくりの担い手不足という課題に直面していますが、地域によっては若者を中心に、変化を生み出す人材が地域に入り始めており、『関係人口』と呼ばれる地域外の人材が地域づくりの担い手となることが期待されています。」出典:関係人口ポータルサイト@総務省。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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