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内閣総理大臣…政治・政策リテラシー講座24

鈴木崇弘一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

内閣総理大臣(首相)は、その言動が、メディアに日々取り上げられ、政治や政策に大きな影響を与えています。そして、私たちにとっては、政治のトップリーダーというイメージがあると思います。

では実際にどのような役割や機能を果たしているのでしょうか?

「内閣総理大臣」は、デジタル大辞泉によれば、「内閣の首長である国務大臣。国会議員の中から国会の議決によって指名され、天皇により任命される。内閣を組織し、閣議の主宰、行政各部の指揮・監督を行うほか、内閣府の長として所管の事務を担当する」者と定義されています。また、総理大臣、総理、首相とも呼ばれます。

内閣総理大臣は、憲法で、国民が選挙で選んだ国会議員の中から国会の議決で、指名し、選ばれることになっています。このことが、「議員内閣制」を意味しています。そして、この内閣総理大臣は、首長として、内閣総理大臣が任命した国務大臣と共に内閣を組織(つまり、組閣)することになります。この内閣は、行政権(国会が決めた法律や予算などに基づいて実際に国の政治を行う権限)(注)を行使することに対して、国会に対して責任を負うことになっています。しかし他方、日本の立法府である国会に提出される法案の多くはこの内閣から提出されており、国会は内閣を中心に回っているという現実があります。

また、内閣総理大臣は、衆議院(議院)でも、参議院(議院)でもどちらから選ばれてもいいのですが、憲法では、内閣総理大臣の指名では衆議院が優先しますので、実際には衆議院から選ばれることになります。逆に、衆議院議員には、内閣総理大臣を信任しないということもできるわけです。不信任となった場合は、総理大臣は辞職するか、衆議院を解散して国民に信を問うという形で、対応することになります。

内閣において、内閣総理大臣は首長ですが、内閣は、明文化されてはいませんが基本的には全会一致のようです。そのことが総理の言動を縛ることもあります。他方、ある大臣が、内閣の決定に反対した場合、総理がその大臣を罷免し、自身が代理になることで、全会一致にすることも可能です。そのような場合、総理の求心力が低下することも、あるいは高まることもあります。そのため、総理は、状況を見極めながら、また自己の信念などと照らして、その権限の行使を決めることになります。

実際に、小泉総理(当時)が、2005年8月に、郵政民営化の件で国民に信を問うために、衆議院の解散をしようとした際に、ある大臣が反対しました。その際に、小泉総理は、その大臣をその場で罷免して、大臣を代理しました。そして解散し、郵政民営化の総選挙で大勝し、小泉総理の求心力を高めることにも成功したのです。

このように、総理大臣は、制約と共に、非常に強い権限をもっているのです。

上記のことからもわかりますように、内閣総理大臣は、行政(権)のトップであると同時に、与党(政権党)の代表でもあり、立法と行政の両方の権力にまたがって力をもっていることがわかります。内閣の政権運営が順調であれば、両方の権力各々における求心力が高く、しかもその権力の相互作用で非常に強大な権力が得られることになります。先に述べた小泉総理がそれに近く、大統領的総理と呼ばれましたし、アメリカの大統領以上に影響力があるといわれていたこともありました。

他方、スキャンダルや不祥事、政権運営の失敗などで、国民の内閣支持率が低下したり、与党との関係に齟齬が生まれたりすると、政権(行政)運営も、国会運営もあっという間に難しくなり、政権が維持できなくなります。そのことが、日本でこの10年間ぐらいで、政権のほとんどが短命であったこととも関係しています。

内閣総理大臣のこのような強さと弱さは、正に鏡の表と裏の関係、不即不離の関係にあるのです。

このような内閣総理大臣は、アメリカの大統領とは、ある意味対照的です。大統領は、アメリカ国民に直接選ばれていますので、連邦議会からの信任を受ける必要がなく、自分の信念や政策を通すことができます。他方、大統領は、行政の長に過ぎないので、議会の仕事である法律をつくること(立法)はできませんし、予算に関しても予算教書(注)という勧告というか要望書のようなものを議会に提出できるだけなのです。大統領は、法案などへの拒否権はありますが、その意味では、立法などにおいての権限は、法案の提出権のある内閣の総理大臣よりはるかに弱いといえるかもしれません。

以上のように、日本の内閣総理大臣をさまざまな面からみていくと、日本の政治の問題や課題が見えてきますね。皆さん、あらためて総理の権限などについて考えてみてください。

(注)アメリカの予算教書とは、次のとおりです。

「米大統領が毎年議会に示す翌会計年度の予算案。米国では議会が予算を作るため、大統領には予算法案を提出する権限がない。大統領が必要と思う政策や歳入歳出の見積もりを議会に示し、それに沿った予算編成を議会に促す『勧告』の性格が強い。議会は教書を受け予算法案の作成にかかり、大枠を決める予算決議を採択。個別の歳出法案や歳入関連法案を審議する。」( 出典:朝日新聞 朝刊 2009年2月27日)

(注)ここでいう「行政」とは、具体的には法律や予算などに基づいて警察、社会福祉、教育、道路や橋の建設、金融財政、外交などの国や社会の運営に関わる仕事することを指します。

[参考文献]

・『日本国憲法』 特に「第五章 内閣」

・『できる総理大臣のつくり方』 黒澤善行ら著 春日出版 2009年など。

一般社団経済安全保障経営センター研究主幹

東京大学法学部卒。マラヤ大学、イーストウエスト・センター奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て、東京財団設立に参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・フロンティア研究機構副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立に参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。㈱RSテクノロジーズ 顧問、PHP総研特任フェロー等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演等多数

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