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「Vaundy」が切りひらく「シン・紅白」への道~昨夜の「紅白歌合戦」音楽的総括

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
紅白歌合戦公式ウェブサイト

 無事終わりました。いろいろと勝手に妄想したサプライズはなかったのですが、元旦に落ち着いた目で録画を再度一気見しながら、音楽的な視点での総括をしたいと思います。以下時系列で。

【白】山内惠介『恋する街角~きつねダンスRemix~』

ヒャダインによる「きつねダンス」のリミックスが楽しかった。今後の紅白では、演歌勢に対して、ヒャダインがその年の世相や流行を反映したリミックスするのを定番にすればいい。

【紅】SEKAI NO OWARI『Habit』

シンプルな循環コード(Am-G-F-E。井上陽水『傘がない』進行)とディスコビートはBTS的な響きを(半ばパロディ的に)追求したと思うのだが、同様の楽曲が溢れる中、『Habit』だけが、めちゃくちゃポップに感じるのはなぜだろう。ヒントは、メンバー・FUKASEによるこの発言にあると思う(『ROCKIN'ON JAPAN』2022年7月号)。

俺は今までインタビューで『国内外問わずヒットを目指した場合――』みたいな話になった時、日本はカラオケで、海外はクラブ文化だって話していて、海外はプレイリストに入ること、日本はカラオケのランキングの中にいかに入れるかが大事。そう考えると、やっぱりサビは歌いやすいほうがいい。

【白】King Gnu『Stardom』

年末番組におけるKing Gnuは絶対に外さない。前日(12/30)のTBS『輝く!日本レコード大賞』における『一途』『逆夢』は抜群だったが、紅白での『Stardom』もなかなかに良かった。演奏のほとんどがカラオケになっている中、やたらと派手派手しいギターの音は明らかに生演奏。こちらは、19年紅白での『白日』が生演奏だったことについて、メンバー・新井和輝の生きのいい発言が参考になる(『Rolling Stone』2020年1月15日)

音楽番組ってもともとは普通にライブをするもののはずで、音がトラブったときのリスクを考えるのもわかるけど、俺たちは、今のところは熱量を大切にしたいというのがみんなの共通認識なので。

【白】Vaundy『怪獣の花唄』

今回のMVPといっていいだろう。一周回って紅白における「ロック」を背負っているのがいい。言い換えると「ロック」のパロディかもしれないのだが。「そんなもんか紅白! 行けるよな? 行くぞニッポン!」などという大仰なMCは特に。15年紅白における星野源のような「正しい異物感」を抱いた。細かい話だが、続く『おもかげ』のラストで、パーカーのフードをかぶり直すクドさも最高。そのチャレンジ精神とサービス精神は、これからの「シン・紅白」を切り開いていく可能性すら感じた。

【紅】あいみょん『ハート~君はロックを聴かない』

冒頭『ハート』の生弾き語りが良かった(後述、玉置浩二同様)。「甲子園での弾き語りワンマンライブ」という奇想天外な企画を成功させた腕っぷしがよく分かる。同じく広島市民球場をギター1本で魅了した奥田民生を継ぐ存在になるだろう。またテレビ番組で共演した吉田拓郎の目にも、頼もしく映ったはずだ。ちなみに奥田民生と吉田拓郎は同じ高校(広島県立広島皆実高校)。

【特別企画】加山雄三『海 その愛』

日本音楽シーンにおける意味と価値の大きさについては後述。一瞬ヒヤッとするシーンもあったが、さすがの貫禄で歌いきる。黒柳徹子による「若大将!」という掛け声には、古き良き60年代芸能界の空気が色濃く漂った。

【白】藤井風『死ぬのがいいわ』

昨年紅白のMVPは今年も印象的。「本編」よりも冒頭の、いい意味で不気味なピアノソロが特に印象に残る。この人の強いタッチのピアノは本当に気持ちいい。全体的にシアトリカルな演出は「2010年代紅白のMVP」だった椎名林檎を継ぐような気がした。

【特別企画】松任谷由実 with 荒井由実『Call me back』

全編、荒井由実が歌詞を担当(作・編曲は全編、筒美京平)したアルバム『HIROMIC WORLD』(75年)をリリースしたことのある郷ひろみの「(デビュー)50年同士(志)」へのリスペクト発言がいい。『Call me back』については、ユーミンのバックで、ルービックキューブ状に投影された様々な映像に驚いた。全部見てみたい。

【特別企画】安全地帯『I Love Youからはじめよう』

こちらもあいみょん、藤井風同様、「本編」よりも、冒頭の『メロディー』の弾き語りにノックアウトされた。要するに、音楽ファンが紅白に求めるものは「生(歌・演奏・放送)感」なのだと思う。私たちは「アンプラグド紅白」「THE FIRST TAKE紅白」が見たいのだ。

【特別企画】桑田佳祐 feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎『時代遅れのRock'n'Roll Band』

昨夜の準MVP。またまたまた同じような話で恐縮だが、「本編」よりも冒頭のブルースセッションと加山雄三『夜空の星』カバーが良かった。世良公則の「船長(加山雄三)がいらっしゃってこそのジャパニーズポップス」というリスペクト溢れる発言をリスペクトする。ギターの達人が集まったのだが、中でもCharのプレイは異常。あの色っぽい音は、どんな弦をどうチューニングすれば出るのだろう。佐野元春の「こんにちは」は、ラッシャー木村の「こんばんは」に匹敵する「日本2大インパクト挨拶」だろう。

 というわけで、今回も楽しく見たのだが、藤井風がすべて持っていった21年紅白に比べて、よくいえば実力伯仲、悪くいえば散漫な感じもあった。いよいよタコツボ化する音楽シーンの中、紅白全体にどのように統一感を持たせていくか、そのヒントは「生(歌・演奏・放送)感」にあると思う。

 最後に、加山雄三という人の日本音楽シーンにおける意味と価値の大きさについて。若い世代には「やたらと海が好きな貫禄のあるオヤジ」ぐらいに映っているのかもしれないが、彼の著書、その名も『I AM MUSIC! 音楽的人生論』(講談社)にあるこのフレーズを見れば、彼が持つ意味と価値の巨大さが分かるはずだ。

日本で最初のシンガー・ソングライターである加山雄三は、日本のポップ・ミュージックの世界で最初に多重録音に挑んだミュージシャンでもある。

あけましておめでとうございます。さぁ、364日後の紅白が、今から楽しみだ。

  • 『恋する街角』/作詞:下地亜記子、作曲:水森英夫
  • 『Habit』/作詞:Fukase、作曲:Nakajin
  • (『傘がない』/作詞・作曲:井上陽水)
  • 『Stardom』(『一途』『逆夢』『白日』)/作詞・作曲:Daiki Tsuneta
  • 『怪獣の花唄』(『おもかげ』)/作詞・作曲:Vaundy
  • 『ハート』『君はロックを聴かない』/作詞・作曲:あいみょん
  • 『海 その愛』/作詞:岩谷時子、作曲:弾厚作
  • 『死ぬのがいいわ』/作詞・作曲:藤井風
  • 『Call me back』/作詞:松任谷由実、作曲:呉田軽穂
  • 『I Love Youからはじめよう』/作詞:松井五郎、作曲:玉置浩二
  • (『メロディー』/作詞・作曲:玉置浩二)
  • 『時代遅れのRock'n'Roll Band』/作詞・作曲:桑田佳祐
  • (加山雄三『夜空の星』/作詞:岩谷時子、作曲:弾厚作)

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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