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「Ado」の声と「ヒゲダン」の音作りに腰を抜かした1年~オジサンに贈る「2022年・年間ベストテン」

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
Ado『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』特設サイト

 Yahoo!個人という場で、この1年「月刊レコード大賞」という企画を続けてまいりました音楽評論家のスージー鈴木(56歳)と申します。

 この企画、オジサン(オヤジ、オッサン)向けに毎週毎週、最新ヒット曲を批評するという東京スポーツ紙の無謀な連載「オジサンに贈るヒット曲講座」連動したものです。ちなみに2021年秋には、連載を1冊にまとめた本=『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)が出版されました。

 というわけで、ここでは今年の連載総まとめとして、同紙にて発表した年間ベストテンを、動画に加え、紙上から大幅に加筆したコメントを付けて、あらためて掲載したいと思います。

10位:米津玄師『KICK BACK』

 年間10位は、決してくたびれない/くたばらない長期安定政権=米津玄師。私のような年寄りの評論家にも「こりゃ、よくできてるなぁ、以上!」としか言わせないような高密度ポップス。アレンジに常田大希が参加して鬼に金棒。過去のどの音楽にも似ていない「米津玄師」というジャンルが確立した感あり。

9位:矢井田瞳『駒沢公園』(作詞賞)

 今年の作詞賞。『my sweet darlin'』から22年後にリリースしたこの曲は母と娘の曲で、「♪ねぇママ どうして戦争なんてするんだろう?」という歌詞は、浜田省吾の名曲『I am a father』(2005年)のDNAを正しく受け継いでいる。日本にはもっとこんな親の歌、円熟の歌があっていいと思う。

8位:アイナ・ジ・エンド『Could Have Been me』

 アイナ・ジ・エンドによる映画『シング ネクストステージ』吹替版サントラから。オジサン的には「令和の奥居香、令和のJILL(PERSONZ)」というと通りがいいかもしれない超・個性的ハスキーボイスに魅了された。彼女が所属するBiSHは解散が決まったものの、ソロとして「令和の~」を超えた「日本のジャニス・ジョプリン」を目指して邁進してほしい。

7位:Official髭男dism『Anarchy』(作曲賞)

 ヒゲダンの今年の活躍は目覚ましかった。正直、捨て曲なしの中、この曲を7位に。同世代向けに誤解を怖れず表現すれば「80年代前半のキレキレッな沢田研二が歌いそうな曲」(『6番目のユ・ウ・ウ・ツ』-1982年-の次のシングルあたりで)。マイナーとメジャーを行き来するコード進行が奇天烈かつ退廃的という、正しく実験的な音作りに今年の作曲賞を差し上げたい。

6位:中村佳穂「さよならクレール」

 2021年のヒット映画『竜とそばかすの姫』で世に知られた中村佳穂。彼女の最大の魅力である柔らかく丸い声質(妙な表現だが、まさにそんな感じ)。そんな声質を、まるでボーカロイドのごとく縦横無尽かつ機械的に駆使する歌唱力もまた魅力。この7位と6位に横溢(おういつ)する実験性は、昨今の音楽シーンにいちばん足りないものだと思う。

5位:Vaundy『置き手紙』

 今年、22歳の若者が繰り出し続けた曲の魅力は「サウンドがとにかく気持ちいい」こと。何かと理屈っぽくなっている音楽シーンの中で、「音の快感原理」を創作意欲の真ん中に置いている点にとても好感が持てる。私世代にとっては、一周、いや数周回って、Vaundyが生み出している音こそが「ロック」だと感じる。紅白初出場も実に楽しみだ。

4位:Ado『ウタカタララバイ』(歌唱賞)

 いうまでもなく大ヒット映画『ONE PIECE FILM RED』より。今年のMVP=Adoの曲をベストテンの中に2つ以上入れないと嘘だろう。まずはこの曲。感想を一言でいえば「ロックのようなポップスのような新しい何か」。つまり、もう「Jポップ」という枠を超えた音。桑田佳祐の鮮烈デビューから来年で45年、日本語ボーカルはついにここまで極まったのかと、オジサンは感慨にふける。

3位:lily『ちいさなうた』(新人賞)

 3位が意外かもしれない。lilyこと石田ゆり子が歌う『ちいさなうた』。NHK『みんなのうた』でも流れたこの曲の魅力は、石田本人による歌詞だ。亡くなった主人公が、生きている「あなた」を想うという切ない歌詞と(西原理恵子の傑作『いけちゃんとぼく』を想起)、石田のはかなげなボーカルのかみ合わせが斬新だった。「死」というものへの現実感が高まっていく同世代の方々には、これを機にぜひ聴いていただきたい。

2位:Official髭男dism『ミックスナッツ』(編曲賞)

 爆発的な印象を残した2位は、イントロのピアノが壊れるほどの叩き付けプレイと、恐るべき高速スウィング(BPM=300!!)が忘れられない今年の編曲賞。音楽シーンにけたぐりをかまそう・かまそうとし続けた今年のヒゲタンは最高だった。数年前の彼らとは別のバンドという感じがした。どちらかといえば、オジサンとして、いや私個人として、今年の彼らを強く推す。

1位:Ado『世界のつづき』(レコード大賞)

 輝かしい2022年のレコード大賞は、自由自在千変万化なAdoの声が十二分に堪能できるバラード。1コーラス聴くだけで圧倒されること間違いなし。「ざまあみろ」と、聴いた後に言いたくなる出来。

 2021年の年間ベストテン2位となった『踊』の方向性にあるのが『ウタカタララバイ』だとすれば、同じく昨年の『会いたくて』の方向性にあるのが『世界のつづき』。この2つの方向性をそれぞれレフト線、ライト線としてはさまれたフェアゾーンが、彼女の広大な歌世界である。

 「声のダルビッシュ」――あるテレビ番組で、私はこう表現した。36歳にしてメジャーで今季16勝と大活躍したダルビッシュ有の持ち味は、多様な変化球の使い分け。同じくAdoは、弱冠20歳にして様々な声質と歌い方を見事に使い分ける。どの声がAdoなのか、いや、どの声もAdoなのだ。

 圧倒的な声量に加えて、実に多様な歌い回し。このまま順調に行けば、安室奈美恵、吉田美和、岩崎宏美らの水準まで伸びていくのではないだろうか(だから、紅白では絶対に生歌・生声で聴きたい。録音音源ではなく)。

 2022年の夏はAdoの夏として記憶されるだろう。繰り返すが、もう圧倒的な歌。若いから、アニメ系だから、顔出ししなくて正体不明だからなどといって遠ざけるのは、実にもったいない。臆せず聴いて、そしてその後にこう言ってみよう――「ざまあみろ」と。

 2023年の音楽世界につづいていく10曲。よいお年を。

  • 『KICK BACK』/作詞・作曲:米津玄師
  • 『駒沢公園』/作詞・作曲:矢井田瞳(『my sweet darlin'』/作詞・作曲:Yaiko、『I am a father』/作詞・作曲:浜田省吾))
  • 『Could Have Been me』/作詞:いしわたり淳治、作曲:Adam Slack・Luke Spiller・Joshua Michael Wilkinson・Rick Parkhouse・George Tizzard
  • 『Anarchy』/作詞・作曲:藤原聡(『6番目のユ・ウ・ウ・ツ』/作詞:三浦徳子; 作曲:西平彰)
  • 『さよならクレール』/作詞:中村佳穂、作曲:中村佳穂・荒木正比呂・西田修大
  • 『置き手紙』/作詞・作曲:Vaundy
  • ウタカタララバイ』/作詞:TOPHAMHAT-KYO(FAKE TYPE.)、作曲:FAKE TYPE.
  • 『ちいさなうた』/作詞:lily、作曲:yoshinori ohashi
  • 『ミックスナッツ』/作詞・作曲:藤原聡
  • 『世界のつづき』/作詞・作曲:折坂悠太
音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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