Yahoo!ニュース

久保建英が挑むCL出場100回への道。グリーズマン(万能型)で行くか、サラー(ウイング専門)で行くか

杉山茂樹スポーツライター
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 W杯本大会は4年に1度で十分だと思うが、チャンピオンズリーグ(CL)は毎シーズン見続けても飽きることがない。サッカーの競技性の進化を最も実感することができる文字通り最高峰の舞台である。そこにどれだけ選手を送り込むことができるか。

 選手のステイタスを示す物差しには代表キャップ(試合出場数)というものがある。100回に届けばレジェンド級だ。プロ野球で言えば名球会入りに近いものがあるが、CLの出場回数も100回が目処になる。世界のサッカー史に残る名選手に相当する。代表キャップが名選手のドメスティックな基準だとすれば、CL出場回数はインターナショナルな基準になる。

 現在、日本代表キャップで100回を超える選手は遠藤保仁の152回を筆頭に8人いる。しかし、サッカーの後進国から脱し、世界のトップ10を窺おうとする現在の日本の立ち位置に基づけばCL出場回数こそを、名選手度を推し量る基準とする時期を迎えている。

 その頂点に立つのは183回のクリスティアーノ・ロナウドだ。100回を超える選手は彼を含め現在、世界に47人いる。日本人の最高位は香川真司で33回だ。100回を超える世界的な名手が現れるのはいつになるのか。

 現在、最もその可能性が高い選手は誰だろうかを考えたとき、真っ先に頭をよぎるのは、レアル・ソシエダ所属の久保建英だ。CL出場は先日のインテル戦が初。出場回数1を刻んだばかりだが、現在22歳だ。今季CLの舞台に立ちそうな日本人選手の中では最も若い。100回という長い道のりを考えたとき、なにより年齢に可能性を感じさせる。

写真:なかしまだいすけ/アフロ

 プレーも実際、逞しくなっている。右ウイングとして先発したインテル戦では、バンジャミン・パヴァール(フランス代表)、カルロス・アウグスト(元ブラジルU-20代表)という屈強な選手に迫られても、両者を見据え、仕掛ける動作からライン際を縦に抜け、ゴール前に決定的なクロスを送り込んでいる。体力に自信がついたのか、果敢さが増している。

 だが久保は日本代表では、スタメンの座を獲得していない。最も出場機会が多いのは右のウイングになるが、そこにはスピード豊かな伊東純也が一番手として構えている。堂安律という同等のライバルも存在する。

 左ウイング、1トップ下、インサイドハーフでも出場経験があるが、優先順位はいずれも2番手以降だ。

 先のトルコ戦(9月12日)では1トップ古橋亨梧の下で先発した。しかしこのポジションの1番手は現状では、その3日前に行われたドイツ戦(9月9日)にスタメン出場した鎌田大地になる。

 久保はパッと見、どこでもできそうな雰囲気がある。何でもできそうな多彩なワザを持ち合わせているように見える。イメージが重なるのはCLの開幕初戦で、鎌田(ラツィオ)と対戦したアトレティコ・デ・マドリードの左利き、アントワーヌ・グリーズマンだ。ラツィオ戦でプレーしたポジションは2トップの一角というより1トップ下、あるいは1トップ脇と言った方が正確かもしれない。真ん中のみならず左右に開いてプレーした。

写真:なかしまだいすけ/アフロ

 日本がトルコと対戦した日、グリーズマンはフランス代表の一員としてドイツ代表と対戦している。ポジションは右ウイングだった。4-2-3-1で言えば「3-1」の4ポジションなら1トップも含め、どこでもこなす多機能型だ。ポジションを苦にしないと言うか、プレーの適性エリアが広いのである。久保よりも。参考にすべき選手だと言いたくなる。

 左利きの選手と言えばかつては、格闘技で言うところの左半身の体勢を誇示するように「私は左利きです」と言わんばかりに構えたものだ。名波浩(現日本代表コーチ)、中村俊輔などがその代表的な選手になる。

 だが、世の中はいまプレッシングの時代だ。身体を開き気味に構えれば、相手に進行方向を読まれやすい。その餌食になりやすいのだ。左利きらしい左利きが急速に数を減らした理由である。ボールを身体の正面にセットし、どちらに進むかわからないような体勢を取る左利き選手が増えている。その筆頭がグリーズマンになるが、その先駆者と言うべき存在はラウールになる。

アントワーヌ・グリーズマン
アントワーヌ・グリーズマン写真:ロイター/アフロ

 4-2-3-1を布いた当時のレアル・マドリードで、ラウールは「3-1」のポジションをすべてこなした。試合中、左のジダンが真ん中に入れば、すかさず開くといったポジションをカバーする能力に長けた左利きのアタッカーだった。「銀河系軍団」の中で、潤滑油的な役割をはたしていた。左利きなのにポジションを苦にしない。今日的な選手に見えたものだ。

 久保はどちらかと言えば、身体をやや開き気味に構える。パッと見、左利きであることが判明する。このスタイルが問題になるのは中央でプレーする場合だ。サイドは片側がタッチラインなので、相手のプレスは片側からしか来ないが、真ん中は四方から相手が迫ってくる。ボールを失いやすい環境にある。

 多機能的な選手を目指すならグリーズマン、ラウールが教科書になる。もちろん、左ウイングのスペシャリストとして道を追求する手もある。左利きの左ウイングとして現在、世界ナンバーワンと思しきモハメド・サラー(リバプール)的な路線だ。

モハメド・サラー
モハメド・サラー写真:ロイター/アフロ

 久保はいま岐路に立たされている。筆者はそう見ている。

 日本代表を長く務めた左利きと言えば、本田圭佑も忘れるわけにはいかない選手だ。彼は久保よりグリーズマンやラウールに近かった。1トップ(0トップ)、1トップ下、左右のウイングと、カバーエリアが広かった。ともするとオレオレ系の我の強い選手に映ったが、実際はわりと今日的な多機能型の選手だった。

 久保とライバル関係にある堂安は、久保より左利きがきつく見える。堂安はドイツ戦では三笘に代わり左ウイングとしてもプレーしている。過去に1トップ下としてプレーした経験もある。監督から多機能性を求められているが、久保以上に苦戦している様子だ。適性エリアの狭さを露呈させている。

 パヴァールとアウグストを縦に抜き去り、右足で折り返した先述のシーン。そのドリブル突破から右足で折り返した一連のアクションは、左利きであることを忘れさせさせるウイングプレーだった。右足のキックが自然だった。

 右ウイング一本で勝負するか、多機能性を身につけ幅広くプレーするか。どちらの方法で「100回」を目指すのか。期待を寄せつつ注視したい。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

たかがサッカー。されどサッカー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

杉山茂樹の最近の記事