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スタジアムがこだわるべきは傾斜角。「ピッチとスタンドの距離」が一番ではない

杉山茂樹スポーツライター
写真:Shigeki SUGIYAMA

 FC東京対ガンバ大阪。昨日(4月29日)国立競技場で初めてJリーグの試合が開催された。天皇杯、ルヴァンカップ、高校選手権など、これまで行われた試合はいずれも日中で、ナイターとして行われるのは初だった。夜の国立競技場がサッカー場として、どんな表情を示すかも関心事の一つだった。

 そもそも国立競技場は、東京五輪後、球技場に改装される予定だった。トラックを撤去し、その4コースあたりまで客席を延ばす計画になっていた。それがどういうわけか頓挫した。球技場専用でなくなったことを問題視する人は多くいる。筆者ももちろんその1人だが、球技場に変更するその当初の計画案を目にした瞬間、そのあまりの酷さに、ならばトラック付きの方がまだましかと、スタジアムへの注文は失せることになった。

 ピッチ部分を深く掘り下げることなく現在の構造のまま、客席をトラックの4コース付近まで伸ばせば、スタンドの傾斜角は20度を大きく下回る。伸ばした箇所はほぼ平らだ。そこに座りサッカーを観戦して、楽しいだろうか。子供や観戦の初心者はともかく、サッカーに少々うるさい人が観戦する場所として相応しいだろうか。少なくとも筆者は、そこからサッカーを見る気はしない。たまに気分転換で、座るならいいが、そこに年間シートを買い求める気にはとてもならない。

「スタンドとピッチの距離が近い」。サッカー専用スタジアムの魅力を語る時、必ず出てくるのが、この言葉だ。国立競技場の問題点を語る場合も、必ず登場する。しかし、スタジアム評論家を自負する筆者としては、その声に必ずしも同意しない。近さより重要視したくなるのは角度。スタンドの傾斜角であり視角だ。

 ピッチ脇のベンチで構えるある日本人の有名監督がかつて、記者席から観戦するこちらに、言い訳混じりにこぼしたことがあった。「ピッチ脇からだとよく見えない」。その話を、欧州のある監督にしたところ、以下のような厳しい答えが返ってきた。「それは監督としての資質がない証だ。ピッチ脇にいても、俯瞰する目を持てないと、よい監督にはなれない」と。有名監督ではあるが、よい監督とは必ずしも言い切れないその日本人監督に「それではよい監督になれませんよ」と、伝えることは避けたが、それはサッカー観戦する場所として、ピッチ脇が適当でない場所であることを物語る言葉でもあった。

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スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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