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森保監督に問われるコスタリカ戦(?)を戦う11人の選択。上級国と下級国の差は2戦目のスタメンに現れる

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 カタールW杯。英国ブックメーカー各社の優勝予想では、スペインが4位でドイツが6位だ。

 1位はブラジルで、2位はフランス。3位はブックメーカーのお膝元イングランドで、以下、アルゼンチン(5位)、ベルギー(7位)、ポルトガル(8位)、オランダ(9位)までが接近した倍率で続く。今大会は混戦模様と予想しているようだ。

 日本がグループリーグを戦うE組の1位予想は、ブックメーカー最大手であるウィリアムヒル社によれば、スペイン1.83倍、ドイツ2.1倍、日本15倍、コスタリカorニュージーランド(プレーオフの勝者)34倍というオッズになっている。

 この予想にしたがえば、日本の成績は1勝2敗だ。グループリーグを突破するためにはドイツ、スペインのどちらかを倒し2勝1敗にしたい。いずれかに引き分け、コスタリカorニュージーランドにそれなりの点差をつけて勝利すれば、突破の可能性はあるとの計算も成り立つが、一方で日本のベスト16入りが、3戦目のスペイン戦の結果に委ねられていることも見て取れる。

写真:ロイター/アフロ

 前回2018年ロシア大会の3戦目はポーランド戦だった。結果は0-1の敗戦で、その結果、日本は1勝1敗1分(勝ち点4)でセネガルに勝ち点、得失点差、総得点で並んだ。日本のベスト16入りは、フェアプレーポイントなる新ルールでセネガルを上回った結果だった。ポーランドに0-2で敗れていたら。あるいは同じ時刻に行われたセネガル対コロンビア戦が(0-1)引き分けに終わっていたら、日本のベスト16入りはなかった。まさに紙一重の戦いだった。

 西野朗監督は、同じスタメンを編成した1戦目、2戦目とは異なり、このポーランド戦にフィールドプレーヤー6人を入れ替えて臨む選択をした。イチかバチかの懸けに出たという感じだった。3試合続けて同じスタメンで戦うことは、コンディション的に無理があるからだが、一方で、それは当初から分かっていたことでもある。

 合理的な作戦とは言えなかった。ポーランド戦がよく0-1で済んだという印象だ。ポーランドは3戦目を前にして2戦2敗。脱落が決まっていた。事実、モチベーションの低さは明白だった。フェアプレーポイント欲しさに後半、後方でパスを回し、時間を稼ごうとした日本に対して怒りを露わに、追加点を狙いにきたわけではなかった。闘争心に欠けるプレーで歩調を合わせようとするその姿に、モチベーションの低さが現れていた。突破の有力候補だったポーランドが、脱落が決まった状態で日本と対戦するというラッキーがあったことは、前回大会を振り返るとき、忘れるべきではない事実になる。

 今回のスペインは、前回のポーランドにはならないだろう。2連勝で日本戦を迎えても、この組の1位抜けを狙いたいはずなので、手を抜くことは考えにくい。もちろん多少、手を抜いてもらっても、日本が簡単に勝てる相手ではないのだが、いずれにしても、この3戦目のスペイン戦を大一番と捉え、そこから逆算すれば、監督にはスタメンの段階的な変更が不可欠になる。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 選手の出場時間に大きな偏りが出ないように2戦目、3戦目と先発メンバーを徐々に変えていく。コンディション的にフレッシュで、一度ピッチに立ってプレーしたことがある選手、すなわち使える目処が立った選手の絶対数を増やしながら3戦目の大一番を迎える。ベスト8を目指すというなら、同様な方法論で決勝トーナメント1回戦、準々決勝に臨む。これが、上位をうかがう監督に求められる常識的な采配になる。

 初戦のドイツ戦に、その瞬間のベストメンバーを送り込むのはいいが、その結果がどうあれ、2試合目(コスタリカorニュージーランド)には、選手を少なからず入れ替えて臨まなければならない。

 スペイン戦への期待値は、コスタリカorニュージーランド戦のスタメン次第で上下する。カギは第2戦の戦い方にあるのだ。確実に勝ちたい試合であるが、絶対に負けられない気持ちが強すぎると、その呪縛にはまる。気分を保守的にさせる。西野監督がそうだったように1戦目で組んだベストメンバーにすがりつくことになる。その瞬間、3試合目のスタメンが組めなくなる。結果は見えたも同然となる。前回ロシア大会最大の反省点であり、改善点である。

 見どころは2戦目のスタメンなのだ。たとえば、初戦と全く別のスタメンで戦い、勝利を収めることができればしめたものだ。使える選手が多くいる、選択肢に溢れた状態でスペインとの大一番に臨むことができる。期待は一気に高まるのだ。その結果、ベスト16入りすることができれば、今度は決勝トーナメント1回戦が楽しみになる。前回より、チームの総合力が上がった状態で4戦目を迎えることができる。それはベスト8が見えたことを意味する。

(写真:岸本勉/PICSPORT)
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 ところが残念なことに、森保監督は昨年の東京五輪でも、2019年のアジアカップでも西野方式で戦ってしまった。東京五輪後の記者会見で、その理由を問われた森保監督は「日本が先を見越して戦うことはまだできない。世界の中で勝ち上がろうとした時、1試合1試合フルで戦いながら次に向かっていくことが現実的である」と述べている。

 残念としか言いようがない。中3日程の間隔で3試合を戦う日程の中で、この方法論で臨めば、コンディション的に2試合で行き詰まる。3試合目の戦い方に大きな不安を抱えることになるにもかかわらず、目標はベスト8だと宣言されても、それは非論理的な発想に基づく放言にしか聞こえない。

 コスタリカorニュージーランド。相手はおそらくコスタリカだと踏むが、簡単に勝てる相手でないことは確かだ。ブックメーカーの予想より、実際の差は接近していると考える。勝率は6割程度とみるが、選手の力を信じ、勇気を持って、そこに1戦目と異なるスタメンを送り込むことができるか否か。

 W杯本大会に出場したことで満足する途上国と、上位を本気でうかがう中堅国との差と言い換えてもいい。それでも「日本が先を見越して戦うことはまだできない」と言うのなら、選手は中堅国のレベルにあるが、監督は途上国のレベルにある、と結論づけたくなる。森保監督のレベルは選手のレベルより低い。選手のレベルより高いレベルの監督でなければ、番狂わせへの期待は膨らまない——との見立てを、森保監督は覆すことができるか。問われるのは2戦目のスタメンだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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