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ほんとうに森保監督続投でいいのか。的確な監督交代は、日本サッカーのレベルを押し上げるチャンスだ

杉山茂樹スポーツライター
オマーンに0ー1で敗れた日本代表(写真:岸本勉/PICSPORT)

「森保監督への信頼は全く揺るがない。監督采配についていろいろ言うのは簡単。森保監督を引きずり下ろそうとする人がいるかもしれないが、誰に代わったら確実に勝てるというのか。そんな簡単なことではない」

 これは、田嶋幸三会長がオンライン会見で述べたコメントだ。しかし、刻々と変化する状況に適宜、対応していくことも会長に課せられた責務である。10月に行われる次戦サウジアラビアとのアウェー戦(7日)、次々戦オーストラリアとのホーム戦(12日)の結果しだいでは、それは暢気すぎる台詞になりかねない。「引きずり下ろそうとする人」を、「解任した方がいいのではないかと考えている人」と言い換えれば、筆者もその1人になるが、会長自ら、その役に回らざるを得ない瞬間に直面する可能性も、ゼロではないのだ。

 実際、過去2戦(オマーン戦、中国戦)を見て、楽観的になれる人はどれほどいるだろうか。日本は現在、W杯アジア最終予選B組の4位だ。1位、2位はそのまま予選通過となるが、3位になると、まずA組3位とプレーオフを行い、それに勝利すると、今度は北中米カリブの4位チームと大陸間プレーオフを行う。前回ロシアW杯最終予選は、日本と同じB組で戦い、3位となったオーストラリアが、アジアプレーオフに進出。A組3位のシリアに勝利すると、ホンジュラス(北中米カリブ4位)との大陸間プレーオフも制し、本大会への出場権を手に入れた。

 グループで3位になると、そこからいばらの道が待ち構えるのである。できれば2位以内に入り、すんなり本大会出場を果たしたい。とすれば、現状の4位というポジションに不安を覚えるのは当然だ。

 この状況で、代表監督に批判が何も渦巻いていないとしたら、それはあまりにも不自然。日本はむしろ危ない国になる。実際、田嶋会長が気色ばむほど、解任論が高まりを見せているわけではない。ネットには、先鋭的な書き込みも目立つが、少なくとも大手メディアの論調は抑制的だ。そこに他国との決定的な違いを見る気がする。

 日本のメディアは概して批判精神に乏しい。テレビで解説者が、監督の采配に物申す機会はほとんどない。試合後、監督会見が行われる現場は、どの国より緩いムードに包まれている。監督が鍛えられる場となっていないのだ。批判されることに慣れていいない、言われ弱い監督、逆境に弱い監督が日本人監督に目立つのは、その産物だろう。「誰に代わったら確実に勝てるというのか」と、こちらに問うた会長だが、代表監督に相応しい、器の大きな監督が育ちにくい日本の現実にも、目を凝らすべきだろう。

 今回のW杯アジア最終予選で、試合間隔が一番長いのは、6節(11月16日)と7節(2022年1月22日)。それ以外の日程は、1ヶ月に2試合のペースで進行していく。試合間隔は通常より短い。いったん悪い流れにハマると、立ち直りの機会を逃し、ズルズルと行ってしまう可能性がある。うっかりしていると、監督交代のタイミングを逸してしまう可能性があるのだ。協会には迅速な対応が求められている。

ジョホールバルの歓喜
ジョホールバルの歓喜写真:ロイター/アフロ

 想起するのは1998年フランスW杯最終予選だ。この時は5ヶ国で争うホーム&アウェー方式のリーグ戦で、およそ2ヶ月の間に8試合を消化する強行軍だった。当時のアジア枠は、現在より1枠少ない3.5。AB各組で2位になったチームは、まず両者でプレーオフを行った。日本はそこでイランに勝利。ジョホールバルの一戦を制し、本大会出場を決めた。敗れたイランは、オセアニア代表のオーストラリアと争う大陸間プレーオフに回り、勝利を収め、アジア第4代表として本大会出場を果たした。

 加茂周監督が更迭の憂き目に遭ったのは4戦目、カザフスタンとのアウェー戦の後だった。日本の順位はその時、1勝2分1敗で、韓国、UAEに次いでグループ3位。ウズベキスタンとのアウェー戦を7日後に控えたタイミングだった。

 協会は我々メディアを現地のホテルに集め、加茂監督の更迭と新監督就任の記者会見を行った。新監督は誰になるのか。事前には告知されていなかった。こちらは漠然と「ジーコかも」と読んでいたので、発表された「岡田」の名前を聞いて、驚くことになった。瞬間、会見場に大きなどよめきが湧いた記憶はいまだに鮮明だ。

 それ以降、代表監督が交代した例は、以下の3度だ。

 イビチャ・オシム→岡田武史(2007年)、ハビエル・アギーレ→ヴァヒド・ハリルホジッチ(2015年)、ハリルホジッチ→西野朗(2018年)。

 この中でサッカーそのものが原因で交代したケースは、ハリルホジッチ→西野になる。交代の原因は、いろいろ囁かれているが、サッカーの質の問題が一番だ。予選は突破していたので、成績不振という言い方はあてはまらない。

 現在の森保監督が陥る危険があるとすれば、フランスW杯アジア最終予選のパターンだ。4戦を終了して1勝2分1敗。グループ3位から抜け出せない状況で、監督交代に発展した24年前のケースだ。

写真:アフロ

 岡田氏は41歳だった。監督経験を務めた経験もなかった。あの時、会見場がどよめいた理由はそこにある。若いコーチがそのまま監督に昇格する姿を、メディアのみならず、当事者である選手まで不安そうに見つめたものだ。しかし、運にも恵まれたが、この交代劇は成功した。

 後から振り返れば、協会は一か八かの賭に勝ったという感じだった。日本のサッカーのレベルが、グッと上がった瞬間と言い表すこともできる。

 その国のサッカーのレベルは、それを構成する各要素=選手、指導者、監督、協会、国内リーグ、審判、ファン、メディア、スタジアム等々の平均値から成っている。お互いは連鎖しあい、均される関係にもある。ある要素が突出していることはない。大きく凹んでいることもない。しかし、その国のレベルに最も影響を与える要素は何かと言われれば、監督だろう。

 指導者、コーチも含まれるが、Jリーグなど日本の各地で監督の交代劇が起きるたびに、サッカーのレベルは上がると考える。それがサッカーと真剣に向かい合う機会になるからだ。瞬間的に注ぎ込まれる英知、体力は、レベルを向上させる原動力に他ならない。そして、そのスケールが一番大きいのが、日本では代表監督の交代になる。日本サッカーのレベルアップと、それは密接に関係する。

 いかにしてよい監督に巡り会うことができるか。問われているのは協会の見る目と探す力だ。ファンやメディアの後押しも不可欠になる。交代劇を上手く決めれば、周辺のレベルは大きく上昇する。日本のサッカー界は一皮剥けた状態になる。筆者はそう考えている。

 ハリルホジッチを更迭し、西野氏を招聘したのは、ロシアW杯まで2ヶ月という段だった。ハリルホジッチを傍らでサポートすべき技術委員長の西野氏が、後任監督の座に就いたことは、理屈的にはおかしな話になる。だがそれを踏まえても、交代は正解だった。日本サッカーのレベルが、また一歩上がった瞬間だと考える。難しい局面で監督交代という、難易度の高い芸当を決めれば、それはそのまま日本サッカー界の財産になるのだ。会長にその認識はあるだろうか。

 ここは英知を結集し、代える準備を整えて欲しいものである。次戦以降、もしもサッカーの中身が改善され、予選を無事突破しても、目標をW杯ベスト8に掲げるならば、それに向けての交代も準備しておくべきである。駒は思いのほか悪くない。よいサッカーを最大の武器に、W杯ベスト8を狙うチャンスは到来している。最悪、監督交代は本番の2ヶ月前でもなんとかなるのだ。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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