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4-2-3-1の3のサイドか、真ん中か。久保建英のポジションは、その将来性と密接な関係がある

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 マジョルカに所属する久保建英。開幕節(レアル・ベティス戦)は、4-4-2の右サイドハーフとして交代出場し、途中から左サイドハーフに回った。第2節(アラベス戦)は4-2-3-1の1トップ下(3の真ん中)。そして今節(エスパニョール戦)は4-4-2の右サイドハーフとして出場した。

 6試合すべての試合に先発した先の五輪では、4-2-3-1の1トップ下だった。他方、日本代表として出場する場合は、2列目の左、右、真ん中の順になる。

 真ん中でも外でもプレーすることができる。適性エリアが広い選手。久保の特徴を語る時、欠かせないポイントだ。受け皿の広い選手。間口の広い選手。と言うわけで、監督にとって使い勝手のよい選手となる。1つのポジションに固執する選手より、出場機会を得られやすい。

 少なくとも、日本サッカー界の10年前、20年前には存在しなかったタイプである。指導者たちが、ウイングの存在しない布陣を長年、用いてきたことに一番の原因がある。ポジションがなければ、それに相応しい選手は育たない。久保が当時、この世界にいれば、2トップ下でプレーしていたのではないか。中田英寿、中村俊輔のように。一時、ファンタジスタなるイタリア語が日本で流行ったことがあるが、久保もその1人に加えられていたに違いない。

 とはいえ、久保も一番やりたいポジションは真ん中だという。テレビのインタビューにそう答えていた。その欲求の程度は定かではないが、4-2-3-1の1トップ下でプレーした東京五輪では、その問題点を露呈させていた。

 U-24日本代表の4-2-3-1は、少なくとも鎌田大地や南野拓実が1トップ下を務めるA代表=日本代表とは異なるスタイルになっていた。

 4-2-3-1の1トップ下と一口に言っても、プレースタイルが決まっているわけではない。1トップ下像には様々なタイプがある。4-4-2と4-3-3を足して2で割った布陣。4-2-3-1が誕生した背景と、それは大きな関係がある。

 その1トップ下は、4-4-2の2トップの1人がポジションを下げた場所であり、4-3-3のインサイドハーフがポジションを上げた場所だ。

 したがって、4-4-2色の強い4-2-3-1であれば、その1トップ下はFW的。4-3-3色の強い4-2-3-1であれば、その1トップ下はMF的になる。

 1トップ下がFW的ならば、4-2-2的な4-2-3-1、1トップ下がMF的ならば、4-3-3的な4-2-3-1という言い方もできる。

 久保が1トップ下に入る4-2-3-1は4-4-2的だ。久保はMF的かFW的かと言えばFWになる。その一方で、ポストプレーを得意にしない。相手ゴール、及びディフェンダー(主にセンターバック)に対し、背を向けてボールを受けるプレーだ。ゴールに対し、できれば正面を向いた状態でプレーしていたい選手。先述の鎌田、大迫勇也との相違点でもある。

 したがって、久保が4-2-3-1の1トップ下を務める場合は、その上で構える1トップにはコンビとして、ボールを収める能力が高い大迫のようなポストプレーヤーを配置することが、適正なバランスになる。

 東京五輪を戦ったU-24日本代表はそれが、林大地であり上田綺世だった。ポストプレーを必ずしも得意とする選手ではなかった。つまり、攻撃の際にボールを収める先がなかった。ボール支配率が上がらず、遅攻が上手くできなかった、大きな理由の一つだ。

 2人の守備的MF(遠藤航、田中碧)とも良好な関係を築けなかった。3者で描く三角形(パスコース)は脆弱そうに見えた。その距離も自ずと空いた。いわゆる中盤が空いた状態になったので、相手ボールに転じた際にもプレスは掛かりにくく、サッカーの質そのものの低下を招く原因になっていた。

 久保の1トップ下について語るとき、周囲との関係抜きには語れないのだ(2トップ下の場合はまた別の話になるが、現状、そうした布陣でプレーする可能性は低そうなので、ここでは割愛する)。

 鎌田、南野を押しのけて、久保が日本代表の1トップ下でプレーする可能性は試合の途中からならばあり得るが、スタメンでは低い。久保の主戦場はウイングになる。しかし久保のウインガーとしての魅力は、心なしか低下した印象だ。1対1で縦に抜けなくなっている。言い換えれば、ドリブル&フェイントが縦方向に決まらなくなっている。真ん中(1トップ下)でプレーする機会も多いので、スペシャリストとしての魅力が薄れつつあるのだ。

 相手サイドバック(SB)と対峙したとき、どれほどの確率で勝利を収めることができるか。ウイングを評価しようとしたとき、ここが一番のポイントになる。だが、その点に限れば三笘薫の方が上だ。久保は断トツではなくなる。

 ウイングの位置でも、トップ下でプレーしている時と同じようにプレーしている。縦に出るプレーより、内に入るプレーが目立つ。カットインしてシュートの可能性を探ろうとする。あるいは、細かいタッチで真ん中の選手と絡もうとする。

 プレーが中盤選手的になっているのだ。4-3-3のインサイドハーフ的と言ってもいい。3ポジションをこなせる選手ではあるが、悪く言えば中途半端。小さくまとまってしまわないかと、心配になる。

 相手との1対1は、トライの回数を増やさない限り、勝率は上がらない。そのドリブル&フェイントを縦方向に決める感覚は、勝負を怠るほど、蘇りにくいとされる。1トップ下かウイングか悩ましい問題ではあるが、メッシがあるときまで、バルサの右ウイングでプレーしたように、しばらくはウイングで勝負すべきではないかとは筆者の見解だ。

 サイドでプレーした方が、FWに不可欠な突破力、馬力は身につく。もちろん、現代サッカーなので、相手SBの攻め上がりを阻止するディフェンス力も同時に問われることになる。だが、SBは高い攻撃能力を誇るウイングを目の前にすると、攻撃参加を控えようとする習性がある。鶏が先か卵が先かではないが、相手のSBに舐められない突破力、ドリブル&フェイントを身につける方が先ではないか。

 真ん中への転身はいつでもできる。しかし一度、真ん中の選手としてプレーが確立されると、ウイングへの転身は難しくなる。スペシャリスト性は失われる。

 弱冠20歳、久保の将来性は、ポジションと密接な関係にあると考える。森保一監督をはじめ、それを考える余裕を、時の監督がどれほど持ち合わせているか。指導者との巡り合わせ、すなわち運も欠かせぬ要素となる、これぞ、サッカーならではの、繊細な問題ではないかと思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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