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森保方式ではカタールW杯ベスト8は無理。五輪サッカーを経て確信した決定的理由

杉山茂樹スポーツライター
(写真:岸本勉/PICSPORT)

 サッカー監督の采配は、結果に占める割合が他の競技と比較にならないほど高い。勝因、敗因、それぞれに直接的に関与する。五輪でベスト4に終わった森保采配について、いまは是非を語るタイミングだ。それがサッカー報道のあるべき姿になるが、実際には、いまだ東京五輪というお祭りムードの中に埋没した状態にある。サッカーならではの特殊性が、発揮されている状態にはない。

 久保建英など、訴求力の高そうな選手については、些細なニュースまで報じようとするが、肝心な森保一監督の采配や、続投是非論については、表だって論じられていない。

 確か、2019年末、E1選手権(韓国・釜山)の現場だったと記憶する。森保一監督が、東京五輪の目標として「金メダル」を掲げたのは。聞かれたわけではないのに、自ら口にしたという感じだった。

「ベスト4」とか、「何色でもいいからメダル」を、ではない。「金メダル」だ。どうしちゃったのか、この監督は。その大言壮語の根拠はどこにあるのか、不思議な気持ちに襲われたものだ。

 長期的な目標、たとえば、パリ五輪でそうありたいと願うなら分からないではない。だが、2019年末は、東京五輪の1年延期がまだ決まっていない段だった。本番は7ヶ月先に迫っていた。実際は1年7ヶ月後になったのだが、その間、秘策でもあるのかと、気をつけて観察した。

 3位決定戦でメキシコに敗れ4位。東京五輪は、コロナ禍という特殊事情を加味すれば「完全ホーム」の戦いだった。追い風が吹きまくる中で、4位という順当な成績に終わることになった監督が、なぜ当初、金メダル! と叫んだのか。どのような手段でスペイン、ブラジルに対抗しようと考えたのか。自信の根拠は最後まで伝わってこなかった。金メダルのレベル、世界の状況がよく見えていない人にありがちな放言と言われても仕方がない。

 大会前、五輪に臨むU-24日本代表チームで最も注目していたのは、他ならぬ、森保監督だった。今回の五輪でグループリーグ敗退など、よほど悪い結果に終わらない限り、解任されることはない。来年に迫った2022年カタールW杯まで、森保監督が日本代表監督の座に就くことは、決まっているも同然だ。それで、W杯ベスト8は望めるのか。その可能性はどれほどなのか。

 サッカーは、くり返すが、監督采配が結果に大きな影響を与える競技である。東京五輪で見せた森保采配から、カタールW杯本大会を占うことは十分に可能なのだ。

写真:ロイター/アフロ

 準決勝のスペイン戦。延長戦の末0-1で敗れたこの一戦は、W杯本大会に置き換えれば、決勝トーナメント1回戦に相当する、まさに日本が越えたい山に見えた。

 想起したのは前回2018年ロシアW杯のベルギー戦だ。グループリーグを突破した次の試合。組み合わせにもよるが、右肩上がりを示している日本選手の技量に基づけば、2022年カタールW杯では、このあたりまで勝ち進んでも不思議はないラインである。

 問題はその先。ベスト16の壁を越えるためには、さすがに優秀な監督の力が不可欠になる。基本的な戦術に加え、選手を使い回す能力。選手の出場時間を管理する力。目標値から逆算して選手起用を考える力を備えた監督が力を発揮しないと、ベスト8入りは望みにくい。

 西野前監督には、その術が欠けていた。4試合目(決勝トーナメント1回戦)で力尽きることが、3試合目、いや2試合目の先発メンバーを見た瞬間、予想された。かつての岡田ジャパン(2010年南アW杯)、ザックジャパン(2014年ブラジルW杯)あたりまでは、この西野的な思考法で十分だった。グループリーグを突破できれば大満足。先のことなど考える余裕がない、一戦必勝の姿勢で、目の前の敵に向き合うしかない時代だった。

 そこに別れを告げ、ワンランク昇格を実感したのが、前回ロシアW杯になる。ベルギー戦の内容からも明らかなように、強豪に対して、それなりの戦いができていた。選手はベスト8入りの可能性を感じさせるプレーを披露した。

 西野采配は、にもかかわらず旧態依然としていた。象徴的だったのが、ベルギー戦における選手交代だ。3人の交代枠を2人しか使わずに、最後のワンプレーで逆転弾を浴びている。直前に3人目の交代カードを切っていれば、その交代に少々、時間を費やしていれば、試合は同点のまま延長に突入していたはずだった。

 交代のタイミングも遅かった。2人(山口蛍と本田圭佑)を投入したのは2-0から2-2に追いつかれたあと。後半36分という遅さだった。3人目の交代は、行使したかったものの、交代選手のイメージが湧かなかったというのが本音だろう。選手交代が手詰まりになっていることは、それに至る3試合の起用法を見れば明らかだった。

ロストフの悲劇
ロストフの悲劇写真:ロイター/アフロ

 日本は持てる総合力をフルに発揮することなく敗れた。選手のレベルと監督のレベル。高いのはどっちと言われれば、選手が勝った状態にあった。西野的采配ではベスト8は難しい。5戦目を満足な状態で迎えることはできない。では今回、ベスト8を口にしている森保采配はどうなのか。就任当初から注視したのは、メンバーをやりくりする力だった。キチンと選手交代ができるか。

 W杯、五輪のような大会を、俗に短期集中トーナメントと言うが、五輪はさながら、来年に迫るW杯本大会の予行演習に値した。ところが、森保監督はそこで西野前監督と、同じ傾向の采配を振った。金メダルと言いながら、決勝戦から逆算しているようにはおよそ見えない起用法を続けた。

 選手の出場時間は、試合が進むにつれバラツキが生じていった。出場時間をシェアする感覚。つまりチームとしての疲労感を多くの選手で分け合う姿勢が、森保監督に欠落していることが鮮明になっていく。その流れで、スペイン(準決勝)、メキシコ(3位決定戦)という大一番を迎えた。

 5戦を終えた時点で、吉田麻也はフルタイム出場を果たしていた。遠藤航、田中碧も5戦連続でスタメンを飾った。4-2-3-1を敷く日本だが、実際には久保建英がMF的ではなくFW的に構えたので、その4バックは4-2-4に限りなく近かった。守備的MFと言うより、事実上センターハーフ化した中盤の2枚に負担が掛かる仕組みになっていた。遠藤と田中碧の足が最後に来て止まるのは当然。読めていた事象だった。スペイン戦、メキシコ戦の敗因を挙げるなら、ここだ。遠藤、田中を「使い詰め」し、他に選択肢を持てなかった森保采配になる。

 もっとも、好ましからざる森保監督のこの癖は、すでに一度、白日の下に晒されていた。2019年1月。UAEで開催されたアジアカップだ。そこで、森保監督は西野的采配をしっかり振っていた。筆者が、森保監督、是か非かと問われたとき、非と答えることになった一件だ。この短期集中トーナメントの采配を見れば、五輪という短期集中トーナメントで、森保監督が陥りそうな傾向は、十分予想できたのだった。

2019 AFC アジアカップ 日本、カタールに敗れ準優勝
2019 AFC アジアカップ 日本、カタールに敗れ準優勝写真:ロイター/アフロ

 といっても人間、学習する生き物だ。自らを省み、やり方を転換する可能性がある。筆者も、非と言いながら、一方で変化に期待を寄せていたことも事実だった。しかしダメだった。

 森保監督は挙げ句、五輪後の会見でこのやり方を肯定した。「次を見越してやることはできない。もっと選択肢の幅を広げるために準備をしなければいけなかったかもしれないが、日本が世界の中で勝っていくためには1試合1試合、フルで戦いながら次に向かうことが現実的」と述べている。

 しかし、ここで言う「できない」という主体は、日本ではなく私。森保監督ではないか。すり替えている気がしてならない。それは「世界」という格上が混じった中で短期集中トーナメントを勝ち抜く手段として相応しくないと言うのなら、ならば格下揃いの「アジア」ではどうなのかと切り返したくなる。森保監督は先述の通り、アジアカップでも先を見越した戦いができていなかったのである。格上のみならず、格下にもできないことがすでに実証されている。それは森保監督が抱えている気質そのものなのである。

 先を見通すことができず、目先の1勝しかこだわることができない監督が、五輪で金メダルとか、W杯でベスト8とか、大口を叩く勇気はどこから湧いてくるのか。申し訳ないが、日本の選手のレベルは森保監督が心配するほど低くない。選手のレベルと森保監督のレベル。高いのはどっちと問われれば、選手であることは明白なのだ。

 結果的に、ある特定の選手に負荷を掛け、試合数が増えるたびに、選択肢を減らすことになる森保式。なにより非科学的だ。ピッチの真ん中で構える守備的MFは、ポジションの特性上、自ずと走行距離が長くなる。真夏に中2日の間隔で出ずっぱりになれば、多大なる負荷が掛かることは見えている。

 選手は、監督からスタメンだと言われれば、無条件で頑張ろうとするものだ。嫌です。出たくないですとは絶対に言わない。そうした選手の前向きな出場欲に支えられているのが森保采配だ。投球数が100球を越えた投手に、なお続投を打診する旧態依然とした野球監督と姿が重なる。

 選手交代5人制で行われている現在のJリーグで、川崎フロンターレの強さを語ろうとする時、交代枠をフルに使いながら、それとクルマの両輪のように、好成績を収めている鬼木達監督の采配を外すことはできない。それは特定の選手の活躍に頼らない全員サッカーだ。チーム一丸になりやすいサッカー。勝負事に不可欠な精神的なノリが生まれやすいサッカーだ。森保ジャパンに全くない魅力。

 日本が世界の中で勝ち上がっていく方法論は森保式に非ず、だ。森保監督が従来の思考を変えないのなら、是か非かと問われれば、非と言うしかないのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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