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決定的な問題は左サイド長友と南野の関係にあり。日本代表はFホッケー的なサッカーに陥っていた

杉山茂樹スポーツライター
南野拓実(写真:岸本勉/PICSPORT)

 ミャンマーに10-0。モンゴル戦(14-0)に続き、二桁得点を記録した日本代表。

 71.5%という支配率は、モンゴル戦をも上回っていた。日本は終始攻め続けた。実質的に無抵抗な相手を、ボコボコにする姿を通して浮き彫りになったのは、日本の攻撃の傾向だった。

 10ゴールの内訳を見てみたい。

 真ん中からの攻撃が得点に繋がったケースは、先制点(前半8分/得点者・南野拓実)と7点目(後半21分/南野)の2回。左からの攻撃が得点に繋がったケースは2点目(前半22分/大迫勇也)の1回。その他の7ゴールは、すべて右からの攻撃だった。

 大迫が決めた2点目のゴールも、チャンスそのものは左から構築されたわけではない。左サイドバック(SB)長友佑都の最後の折り返しが、左からだったに過ぎない。チャンスそのものは右ウイング、伊東純也のドリブルに8割方起因していた。

 つまり、左サイドからキチンと崩した得点は1つもなかった。8割が右。それこそが日本代表の攻撃の傾向を示すエビデンスだ。イメージで言うなら右回りサッカー。400mトラックを周回するような反時計回りのサッカーだ。

 必然的に、右からの攻撃にはスピードがあった。ミャンマー戦で先発を飾った右のサイドアタッカーは、前述の伊東と五輪のオーバーエイジ枠の候補でもある酒井宏樹(右SB)だ。

室屋成(写真:岸本勉/PICSPORT)
室屋成(写真:岸本勉/PICSPORT)

 前半でその酒井はお役御免となり、後半頭からは室屋成が右SBを務めた。室屋は張り切った。室屋が不在の間に、川崎フロンターレの山根視来が台頭したこともその理由だろう。新たに出現したライバルに負けるわけにはいかないとばかり、右のタッチライン際を、伊東とともに疾走した。特に後半、右サイドの攻撃が加速した理由だ。

「サイドを制するものは試合を制す」。「SBが活躍した方が試合に勝つ」とは、欧州サッカー取材の現場で、監督や評論家、ベテラン記者などが、常套句のように口にしていた台詞だが、日本の右サイドは、まさにそれを具現化する攻撃を展開していた。

 だが、左サイドは右サイドとは裏腹の関係にあった。担当したのは長友と南野。後半17分からは、戦術的交代で投入された原口元気が南野のポジションでプレーしたが、90分を通して、縦への推進力のなさは目に余った。

 左SBの長友は、1年半ぶりの代表戦だった。現在34歳。その後釜探しは急務と言われて久しいが、その動きが特段、衰えたわけではない。それより問題は、彼が右利きであることだ。その前で構える南野(原口)もまた右利だ。左サイドに構築されたこの右、右の関係にこそ、推進力が生まれない原因が潜んでいた。2人が2人とも、ピッチの中央よりに位置する右足を軸にプレーすれば、ボールは必然的にタッチライン際を進みにくくなる。せめてどちらかが左利きでないと、縦に詰まる。前方向への推進力は生まれない。

長友佑都(写真:岸本勉/PICSPORT)
長友佑都(写真:岸本勉/PICSPORT)

 この結果、左右のバランスは大きく乱れた。日本のサッカーは、まさに片肺飛行の状態に陥っていた。長友の個人的な評価と、これは次元の異なる問題になる。

 左サイドで右利き2人が縦関係を築けば、左からの攻撃は滞る。相手にとって、注意を払うべきは右サイド。右サイドの推進力をどう止めるか。抑止するかがポイントになる。長友という右利きの左SBが加わったことで、日本のサッカーは、悪い意味で単純になってしまった。

 右から攻めて、左で守る。この右回転のプレースタイルは、スティックを持ってプレーするフィールドホッケーそっくりだ。日本代表は、まさにホッケー的なサッカーを展開したのである。

 前戦モンゴル戦の左サイドは、左(小川諒也)、右(南野)の関係だった。代表初先発となった左利きSB小川の存在が、アクセントになっていた。バランス維持に貢献していた。

 長友を使うなら、左ウイングは、久保建英など左利きの選手で、と言いたくなる。縦への推進力に富む、相手陣内を深くえぐれそうな選手なら右利きでも構わないが、少なくとも、長友と南野のコンビは好ましくない。左右のバランスが乱れる原因になる。攻撃の右回転に拍車が掛かる原因になる。相手に読まれやすいサッカーになる。W杯最終予選に向けて最も気をつけたいポイントだと見る。日本の問題は左サイドにあり、である。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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