五輪サッカー。メンバー入りを左右する最大のポイントとは。有利に見える選手が持つある才能

旗手怜央・写真中央(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 東京五輪。森保一監督が目標に掲げる「金メダル」を獲得するためには、全部で6試合を戦うことになる。17日間に中2日で、だ。選手の数は通常より5人少ない18人。GKを除いたフィールドプレーヤーに限れば16人だ。W杯やユーロよりはるかに厳しい設定で行われる。

 問われるのは、中2日で計6試合戦ってもレベルダウンしないチームとしての総合力だ。フィールドプレーヤー16人の出場時間を、ベンチがコントロールし、均等にシェアしながら、チーム全体のコンディションを高水準に保つことができるか。そのためには、全員が戦力でなければならない。

 複数ポジションをこなす多機能型選手の存在も、当然のことながら不可欠になる。その数が多いほど、ベンチに下げる選手と異なる選手をピッチに送り込む“戦術的交代”を、大胆に展開することができる。

 東京五輪の交代枠は5人。通常(3人)より2人多い。昨季および今季のJリーグと同じレギュレーションだ。多機能型選手の存在と、監督の交代カードを切るセンスが、いつも以上に問われている。

 誰を選ぶか。選考はオーバーエイジ枠を含め、難航しそうだが、複数ポジションをこなすことができる選手は有利になる。

 多機能型選手の貴重さと、戦術的交代の有効性をW杯という舞台で最初に示したのは、日本が初出場を果たした1998年フランスW杯でベスト4入りしたオランダ代表だ。大会後、欧州各国のメディアは、監督のフース・ヒディンクを、最もよいサッカーをしたと賞賛したが、それと戦術的交代を鮮やかに決めた采配とは、大きな関係があった。

 ヒディンクは大会後、筆者に選手選考の基準について、こう語ったものだ。

「実力が互角なら、ユーティリティ性の高い選手を選ぶ」

 オランダは実際、戦術的交代が行われるたびに、フィリップ・コクーやロナルト&フランクのデブール兄弟などの多機能選手が、ピッチ上を玉突きされるように移動した。日本人ライターの目には、複数ポジションを苦もなくこなす彼らが、ひどく新鮮に映った。フランスW杯予選を戦った加茂ジャパン、本大会を戦った岡田ジャパンには、全く存在しない魅力だった。

 このフランス大会が、それまでの2人制から3人制に選手交代が変更された、最初のW杯だったことも輪をかけた。それまで、監督采配の中で、選手交代は、世界的にもさほど重要視されていなかったのだ。2人目の交代は、現在で言うところの5人目の交代と同じ意味を持っていた。怪我人が出ることに備えたカード。どんなに早くても使われるのは後半30分以降だった。

 23年前の話だが、メンバー交代5人制で行われる初めての五輪を前にした現在の状況と似ている。

 森保監督はヒディンクになれるか。なるためには「実力が互角なら、ユーティリティ性の高い選手を選ぶ」必要がある。前置きが長くなったが、では、外せない選手=複数のポジションをこなすことができる多機能型選手は誰なのか。

 多機能性の高い順に並べてみた。

【Aランク】

・旗手怜央(川崎)=左SB、インサイドハーフ、両ウイング、1トップ下

【Bランク】

・富安健洋(ボローニャ)=CB、右SB、守備的MF

・中山雄太(ズヴォレ)=CB、左SB、守備的MF

・菅原由勢(AZ)=左右SB、左右ウイング

【Cランク】

・板倉滉(フローニンゲン)=CB、守備的MF

・田中駿汰(北海道コンサドーレ札幌)=CB、守備的MF

・久保建英(ヘタフェ)=1トップ下、左ウイング、右ウイング

・相馬勇紀(名古屋グランパス)=左右ウイング

【Dランク】

・町田浩樹(鹿島アントラーズ)=CB、左SB

・原輝綺(清水エスパルス)=左右SB、CB

【Eランク】

・田中碧(川崎)=守備的MF、インサイドハーフ

・渡辺皓太(横浜F・マリノス)=守備的MF、インサイドハーフ

・田川亨介(FC東京)=トップ、右ウイング

【Fランク】

・瀬古歩夢(セレッソ大阪)=CB

・渡辺剛(FC東京)=CB

・三好康児(アントワープ)=インサイドハーフ、右ウイング

・林大地(サガン鳥栖)=トップ

・三笘薫(川崎)=左ウイング

 Aランク(旗手)、Bランク(富安、中山、菅原)、Cランク(板倉、田中、久保、相馬)は有力候補だ。

菅原由勢
菅原由勢写真:西村尚己/アフロスポーツ

 アルゼンチンとの第1戦では左SB、第2戦では交代出場で2トップの一角に収まった旗手は、昨季の川崎ではインサイドハーフ、左右のウイングもこなしている。4-3-3に落とし込めば5つのポジション、4-2-3-1なら3ポジションというところか。多機能性という視点に立つと、旗手が一番だ。筆者の見立てでは、オーバーエイジ枠の3人を加えても、18人の枠から漏れることはないとみる。

 U-24の資格者ながら今回、ただ1人A代表に加わった富安も多機能型だ。守備的MFもこなせば、サイドバック(SB)もこなす。身体は大きいが器用さをも併せ持つ。鬼に金棒というところか。

 板倉はアルゼンチンU-24と戦った2試合に続けて先発出場。2戦目はCKからヘッドで2発決め、ヒーローに輝いているが、異なるポジション(1試合目はCB、2試合目は守備的MF)で、スタメンを飾った意義は、それ以上に大きい。

 第1戦で右SBとして先発した菅原は、サイドならどこでもできる。つまり4ポジション可能な選手だ。また、守備的MFとして第1戦に先発した中山も、富安同様CBとSB(左)の3ポジションができる。怪我で今回、途中離脱した田中駿汰(北海道コンサドーレ札幌)もCBと守備的MFの2ポジション行ける。

 もちろん、16人のフィールドプレーヤー全員が多機能型である必要はない。大胆な選手交代、戦術的交代はその数が半分程度いれば十分可能だ。問題は監督が実戦可能なパターンをいくつ作れるかだ。

 先述のヒディンクは、フランスW杯前、最後の合宿に入るにあたり、招集した選手たちに、本番で使う可能性がある配置図を、各自の役割を頭に入れて合宿に臨んで欲しいと選手全員に、ファックスで送りつけたという。

 考えられるパターンをすべて事前の合宿で消化して本番に臨んだ。ベンチに座っている選手でも、どのような状況になれば自分に出番が回ってくるか、把握していたので、モチベーションの低いベンチ要員は誰1人いなかったという。チーム一丸で大会に臨むことができたと、ヒディンクは胸を張った。森保監督は23年前のヒディンクになれるか。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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