川崎フロンターレ・鬼木監督は、森保監督より日本代表監督に適している。その理由とは

(写真:ロイター/アフロ)

 日本代表がメキシコに0-2で完敗したのは、日本時間の18日(水曜日)早朝。そのおよそ12時間後には、Jリーグのナイトゲームが3試合行われたので、同日はサッカーファンにとって慌ただしい1日となった。

 Jリーグ3試合の中で一番の注目カードは、等々力陸上競技場で行われた川崎フロンターレ対横浜Fマリノスの一戦だった。

 スコアは3-1で川崎。その結果、川崎のJ1リーグ優勝は、早ければ21日の大分トリニータ戦で決まることになった。

 川崎と日本代表。両者が対戦すればどちらが勝つか。不毛な議論と知りつつも、つい思いを巡らした人は少なくないはずだ。どちらが模範的なサッカーか。どちらが魅力的なサッカーかという視点に立っても、川崎に軍配が上がる。さらに両者の関係は、森保一監督と鬼木達監督の関係に置き換えることもできる。

 だがその見解は、あくまで個人の感覚によるものだ。両者が実際に対戦することはないハズなので、好みに基づく意見になる。説得力に欠ける。そう言ってしまうと、サッカーの話はなにもできなくなると突っ込まれそうだが、筆者がここでいつになく謙虚になれる理由は、両者の違いを浮き彫りにする、別の物差しを持ち合わせているからだ。

 メキシコ戦はメンバー交代6人制で行われた試合だった。メキシコのヘラルド・マルティーノ監督は、その枠をしっかりとフルに使い切った。レアル・ベティスに所属するチーム最年少(20歳)の若手、ディエゴ・ライネスを後半43分、6人目の交代選手としてピッチに送り込んだアルゼンチン人の元バルセロナ監督(2013-14シーズン)に対し、森保監督は5人目の交代選手として後半40分、三好康児を投入したのが最後となった。枠を1人分余したまま試合を終えた。2点差で敗れていたにもかかわらず。

 さらに言うならば、その時、前戦のパナマ戦とメキシコ戦を通して、招集したフィールドプレーヤーの中で、菅原由勢が一度もピッチに立っていなかったにもかかわらず、だ。マルティーノ監督が日本代表監督なら、日本のチーム最年少・菅原(20歳)は、ピッチに立つことができていたに違いない。

 10月に行われた2試合(カメルーン戦、コートジボワール戦)でも、同様の問題は起きていた。森保監督は板倉滉に出番を与えなかったのだ。

 10月、11月に行われた4試合は、コロナ禍に行われた特別な試合。選手たちは、日本代表の活動のために、移動のリスクを抱えながら、都市封鎖の状態にある欧州各地から集まってきた。自己責任において。

 だが、日本代表選手たちに支払われるギャラは、まさに薄謝程度だ。吃驚するほど安い。仕事というより、選手たちは名誉のために代表チームの合宿や試合に参加している。億を大幅に超える高年俸で契約している森保監督とは、立ち位置が根本的に違うのだ。

 日本代表の活動に参加している間に感染でもしたら、所属クラブにおけるその後の活動に大きな支障が出る。仕事場を失う可能性もある。選手たちは代表監督より数段、厳しい状況に置かれている、いわば弱者だ。

 代表監督には選手に対し、最大限の配慮が求められている。招集したら使う。これはマナーだ。代表監督として身につけておかなければならない嗜みである。そうした基本的な姿勢が、森保監督には決定的に欠けている。

 森保監督が枠を使い切らないことは、今回に限らずよくある話で、交代のタイミングも概して遅い。代表監督としての評価は、低くならざるを得ない。

 川崎の鬼木監督には、その心配が要らない。代表監督の素養を十分に備えた監督に見える。

 今季のJリーグは、コロナ禍のシーズンということで、通常(交代枠3人)とは異なる交代枠5人制で行われている。多くの選手に出場機会が与えられるような配慮が施されている。

 その規定に、J1監督の中で最も忠実に従っているのが鬼木監督だ。これまで28試合を戦い、交代枠の使用を1人余したまま、4人で終えてしまった試合はわずかに2度。10月14日の広島戦と、10月31日のFC東京戦のみだ。

 出場枠を選手に最大限開放しながら、現在2位のガンバ大阪に17ポイントの差をつけ、首位を独走する。鬼木監督が備える公平さ、および民主的な精神が、独走の原動力になっている印象だ。

 目の前に勝利がちらつくと、身動きが取れず固まりがちな森保監督とは対照的だ。鬼木監督が日本代表監督なら、メキシコ戦のように、交代枠を余しながら敗れるようなことはないだろう。マルティーノ監督同様、20歳の若手まで、綺麗に使い切っていたに違いない。

 振り返れば、2018年ロシアW杯の日本は、交代枠を余しながらの敗戦だった。ロストフで行われたベルギー戦(決勝トーナメント1回戦)。西野朗監督は、3人目のカードを切らず、手をこまねいている間に逆転弾を許した。もし3人目の交代を行ない、それなりに時間を使っていれば、最後のワンプレーはなかったものと思われる。2-2のまま延長戦に突入していた可能性は高い。試合の行方はどうなっていたかわからない。

 西野監督のメンバーのやりくりについて、もう少し言えば、1戦から4戦までの選手の回し方にも問題があった。あのやりくりの仕方では、森保監督が目標に定める「W杯ベスト8以上」は望めない。W杯本大会で5試合以上戦うことは難しいのだ。だが森保采配は、西野采配と同種の問題を抱えたままだ。

 今年1月に開催されたU-23アジア選手権対サウジアラビア戦(1ー2)などは、その典型的な試合だった。森保監督は、自らコーチとして参加していた西野ジャパンの失敗を、教訓として活かすことができなかった。森保監督は西野監督と同じ穴の狢になった。今回のメキシコ戦しかり。同じ傾向を引き摺っている。代表監督としての資質に問題ありと言いたくなる。

 片や川崎の鬼木監督にその癖はない。選手交代をけれんみなく実行することができる。W杯本大会で5試合以上戦えそうな采配に見える。

 川崎と日本代表、両者の間に潜む決定的な差を見逃すわけにはいかないのだ。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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