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ヨンサンサン(4−3−3)は攻撃的ではなく現実的。マンC、バルサ、チェルシーから学びたい常識

杉山茂樹スポーツライター
「ミスター4−3−3」こと、ジョゼップ・グアルディオラ監督(マンC)(写真:ロイター/アフロ)

 横浜Fマリノス対マンチェスター・シティ。先週末に行われたこの一戦は見応えのある好試合となった。力が劣る弱者に対して強者が手加減するのが、親善試合の習わしだが、マンCは正面から向かってきた。横浜も横浜で怯むことなく撃ち返した。それがマンCのやる気にいっそう火を点けたという印象だ。横浜がマンCの攻撃力に恐れおののき、前から行かず、後方に下がって構えれば、マンCもそれに呼応するように攻撃の手を緩めていたに違いない。試合の娯楽度もそれにともない低下しただろう。

 横浜のアンジェ・ポステコグルー監督は、Jリーグにあっては攻撃的な監督として知られる。使用する布陣にそれは表れている。最近でこそ4-2-3-1の使用頻度が増しているが、割合では4-3-3が多い。

 マンCのジョゼップ・グアルディオラ監督しかり。4-3-3を好む監督であることは明白だ。ミスター4-3-3とまで言いたくなる監督である。

 この横浜対マンCは4-3-3対4-2-3-1の戦いだったわけだ。Jリーグでは遭遇する確率が低い一戦である。

 Jリーグの18チームが使用する布陣は主に次の5種類だ。最も見かける布陣は4-4-2(東京、鹿島、C大阪、名古屋、仙台、鳥栖)と3-4-2-1(大分、札幌、広島、湘南、松本、磐田)で、その数は各6チーム。他では4-2-3-1が3チーム(川崎、神戸、清水)、3-3-2-2が2チーム(浦和、G大阪)、そして4-3-3が1チーム(横浜)と続く(それぞれ使用頻度が一番高そうな布陣)。

 4-2-3-1対4-3-3に遭遇する確率は、ほんの数パーセントしかない。4-3-3対4-3-3に至っては限りなくゼロに近い。

 4バックと3バックの構成比率は10チーム対8チームだ。Jリーグで流行っている3バックは、4バック系より概念的に攻撃的とは言いにくいので、攻撃的なチームと守備的なチームの占める割合も同様に10対8の関係になる。欧州の各国リーグに照らすと、守備的サッカーが幅を利かせていることがよく分かる。

 3バックより攻撃的と言われる4バックも、攻撃的な色は一般論では4-4-2<4-2-3-1<4-3-3になるので、Jリーグにおける攻撃的サッカーの色は薄いと言われても仕方がない。概念として最も攻撃的と言われる4-3-3も、繰り返すが横浜のみだ。その横浜にしても最近では4-2-3-1がメインなので、4-3-3は絶滅に近い状態にある。

 日本代表の森保監督は、4-2-3-1を基本に据えながら3-4-2-1をオプションとして模索している。Jリーグの現実に照らせばそれは妥当な選択になるが、世界のスタンダードではない。

 この日本のサッカー界の現状を、世界的に見て特殊だと認識している人はどれほどいるだろうか。

 この7月下旬はマンCに加え、チェルシー、バルサも来日。日本各地で計4試合、プレシーズンマッチを戦った。チェルシーは昨季のプレミアをほぼ4-3-3で戦い抜いたチームであり、バルサの場合は監督以上にクラブが4-3-3を嗜好する伝統がある。

 奇しくもこの時期に、4-3-3系のチームが揃って来日したわけだ。

 昨季(18-19シーズン)の国内リーグでマンCと争い、チャンピオンズリーグ(CL)では見事、通算6度目の欧州一に輝いたリバプールも4-3-3で戦うチームだ。

 かつては守備的な3バックを定番にしたイタリアの雄、ユベントスも変身。最も使用頻度が高い布陣を4-3-3にしている。

 4-3-3の元祖と言えばオランダで、クラブで言うならアヤックスになるが、そのアヤックスが昨季のCLで20数年ぶりに旋風を巻き起こしたことと、昨今の4-3-3の興隆には因果を覚えずにはいられない。

 さらにバルサの永遠のライバル、レアル・マドリーも4-3-3だ。CL3連覇(15-16、16-17、17-18シーズン)も、この布陣をベースに達成している。久保建英の名前は連日のように見出しを飾っているが、彼がプレーしたインサイドハーフが、日本ではほぼ存在していないポジションであることを語る人は少ない。

 なぜ4-3-3は、攻撃的な布陣だと位置づけられるか。理由は様々だが、相手ボール時の対応に絞って考えれば、それは両ウイングと相手サイドバック(SB)との関係に見て取ることができる。

 4-3-3の両ウイングは高い位置で張って構えるので、相手SBにプレスを掛けやすい態勢にある。しかし、相手のSBが攻撃参加したとき、SBと一緒に下がろうとせず、高い位置に留まり、FWらしさを貫こうとすることもある(C・ロナウドのように)。4-3-3側は、両ウイングが下がらなければ、相手ボールになるや自軍サイドで数的不利に陥る。相手のSBが脅威になる。しかし、相手SBが攻め上がっている間に攻守が入れ替われば瞬間、4-3-3側の両ウイングは逆にノーマークの状態だ。チャンス到来である。もし相手がその状況を危険だと恐れればSBは攻撃参加を控える。4-3-3側からすれば、抑止力を利かせることに成功したという話になる。

 この両ウイングと相手のSBの駆け引きは、試合の大きな見どころなのである。その流れで4-2-3-1を説明すれば、それは4-3-3の両ウイングに当たる選手(4-2-3-1の3)に、中盤的な役割を課した布陣になる。彼らは相手のSBが攻撃参加をすれば一緒に下がる。これを基本線にする。4-3-3より現実的というか、悪く言えば守備的だ。

 両ウイングが帰陣しないかもしれない4-3-3。帰陣する4-2-3-1。そしてそれをもっと現実的(守備的)にしたのが4-4-2だ。4-2-3-1の3の両サイドを、さらに中盤的にした布陣。対峙する相手SBの攻撃参加にプレッシャーを掛けると言うより、ある位置で待ち構えている感じだ。

 もちろん起用する選手のキャラによって、意味合いは多少変わる。4-4-2を2-4-4的にして戦えば、4-3-3より攻撃的になる可能性もあるが、プレッシャーを高い位置からフルに掛けようとすれば、昨季CLを制したリバプールではないけれど、4-3-3が常識的かつ最適な選択になる。

 直近の日本代表で4-3-3を採用したのはアギーレジャパン。マイボール時になるとアンカー(長谷部誠)が、2人のセンターバックの間に降りてきて3バック(3-4-3)的になる、それは可変式の4-3-3だった。

 アギーレ監督は就任記者会見の際、すでに4-3-3で戦うことを表明。記者から質問を受けたわけでもないのに、監督としてのカラーを挨拶代わりに打ち出した。

 その前は2010年南アW杯を戦った岡田ジャパンだ。就任以来、守備的な3-4-1-2で戦ったり、4バックでも4-4-2よりさらに守備的な布陣で戦ったり、攻撃的とは言えなかった岡田采配だったが、本番で突如4-3-3に変更。本田圭佑を0トップに据えて戦ったことは記憶に新しい。世界広しといえど一夜のうちに、ここまで考え方を激変させた監督も珍しい。土壇場で一か八かの作戦に出たと考えるのが自然だ。

 4-3-3は4-2-3-1や4-4-2に比べ、採用することにそれなりの覚悟がいる布陣だ。4-2-3-1は4-3-3と4-4-2を足して二で割ったような特徴があるので、いずれの布陣にも移行しやすいが、4-3-3は4-2-3-1はともかく4-4-2には移行しにくい。変更にはちょっとした手術が必要になる。

 言い換えるならば4-3-3の採用は、これで行くぞ! と、強い決意表明をしたようなものだ。攻撃的サッカーから後戻りできない状態に自ら追い込むことになる。監督に覚悟が求められる布陣だ。そこから守備的な3バックに移行すれば恥を掻く。保険が用意されていない分、監督にカリスマ性は宿る。

 日本人監督でこうした気質を備えた人はどれほどいるだろうか。採用する布陣の傾向や、試合後のコメントを見聞きする限り、保険を必要とする監督の方が断然、多数派である気がする。現実的な選択と言えば聞こえはいいが、欧州と日本とではその現実的サッカーのレベルが違う。

 4-3-3は攻撃的というより現実的。バルサ、マンC、チェルシーから日本サッカーが学ぶ一番のモノはこれになるーーと言いたいが、現実的サッカーのハードルが低すぎるのが日本だ。

 たとえば、「4-3-3はアンカーの脇が空きがちだ」と、監督や、監督予備軍と言うべき解説者の多くが、その弱点を指摘したがる癖がある。4-3-3の難しさだけでなく、使用する意義について疑問視する人さえいる。このままでは日本は欧州とは異なる、独自の方向に進んでいく。心配だ。 

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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