東京五輪よりCL。久保建英と日本サッカーはローマ時代の中田英寿を教訓とすべし

写真:岸本勉/PICSPORT

 日本代表に選ばれた久保建英は、ポーランドで開催されたU-20W杯に出場する資格を備えていた18歳だ。U-22及び日本代表(A代表)への選出は飛び級に値する。しかし日本代表はともかくU-22は、育成を最大の目的にするアンダーカテゴリーのチームだ。目指す大会は東京五輪。

 そこに飛び級でA代表に昇格した選手が舞い戻ることは道理から外れる。育成本来の目的に反する。久保は卒業生として扱うべきで、それによって空くことになる1枠は、他の選手によって活用されるべきだと、これまでにも再三述べてきた。

 そしてその想いは、久保のレアル・マドリー入りが決定したいま、さらに確固たるものになっている。スペインからわざわざ呼び寄せ、これ以上U-22という育成カテゴリーの行事に参加させる必要はない。ここから先はレアル・マドリーの指導者に委ねるべき。日本のサッカーの育成部門を卒業した選手として扱うべきなのだ。

 東京五輪本大会に参加させる必要もなしだ。五輪に出場することとレアル・マドリーのトップチームの選手として、チャンピオンズリーグ(CL)等のビッグマッチに出場することとどちらが重要か。久保本人にとってどちらが貴重な体験か。日本のサッカー界にとって財産になるか。少しサッカーに詳しい人なら誰にでも分かることだ。

 思い出すのは99-00シーズンの途中、ペルージャからローマへ移籍した中田英寿だ。その時、彼はフランチェスコ・トッティとポジションを争っていて、2000年シドニー五輪への出場には大きなリスクを抱えていた。シーズン初めの重要な時期にチームを長期離れれば、ポジション争いに悪影響が出ることは分かりきっていた。

 実際、その後の彼のサッカー人生を振り返れば、シドニー五輪に出場した影響が大きかったことは明白だ。サッカー選手として伸るか反るかの重大な局面に、主戦場を離れる格好になってしまった。日本国内はそれで盛り上がったが、中田が29歳で現役を引退せざるを得なかった大きな原因のひとつであることは間違いない。

 五輪は、オーバーエイジ枠で出場する選手を含め、いろいろな意味で立場に余裕のある人が出場すべき大会なのだ。

 もっといえば、久保はA代表の試合でも相手次第では招集する必要はないと考える。今年の秋からW杯予選が始まることになっているが、最初のラウンドは敗れる可能性がきわめて低い戦いだ。それこそU-22主体で臨み、五輪強化策としたほうがいいほどである。

 相手のレベルが低ければ低いほど怪我に巻き込まれる危険も増す。小野伸二がその後のサッカー人生に大きなダメージを負うことになった大怪我も、五輪予選の戦いではあるが、ホーム戦アウェー戦の通算スコア26対0で勝利したフィリピン戦だった。久保を客寄せパンダにし、思わぬ怪我に巻き込まれる愚だけは避けなければならない。

 サッカーは集団競技であって個人競技ではない。競技力向上のために重要なカギを握るのは個人より集団の力だ。久保がいてもその使い方を誤れば、集団の力に結びつかない可能性がある。

 リオネル・メッシとアルゼンチン代表との関係がいい例だ。バルセロナのメッシとアルゼンチン代表のメッシは大袈裟に言えば別人だ。バルサでハマるがアルゼンチン代表ではハマらない。W杯の舞台でその魅力が全開になったことはないのだ。先輩、ディエゴ・マラドーナとの違いである。

 クリスティアーノ・ロナウドとポルトガル代表との関係も興味深い。思い出すのはユーロ2016の決勝で、対戦相手はフランスだった。その前半の途中、スーパースターC・ロナウドは怪我で退場してしまう。そのワンマンチームのように見えたポルトガルは、まさに絶体絶命のピンチに陥った。

 しかし勝利を飾ったのはポルトガルだった。本命に推されていた開催国フランスを退け欧州一に輝いた。サッカーとは何か。その本質を考えさせられる試合だった。

 久保が将来、どのレベルの選手になるのか。いまのところなんとも言えないが、レアル・マドリーで活躍し、世界的なスーパースターになったとしても、それが日本代表の成績にストレートに反映されるとは限らない。日本は久保に頼ることなく、キチンとしたサッカーを追究する必要がある。

 日本に問われているのは、久保との距離感の取り方だ。適切な距離感を保てるか。近づきすぎないこと。サッカー選手の評価が確定するのは20歳を過ぎてからだ。メッシが18歳の時、バロンドールを5回も獲得するサッカー史に残る選手になると予測した人はどれほどいるだろうか。そこから大きく伸びた結果が現在の姿になる。久保はここからどれほど伸びるか、だ。

 選手の価値や評価を示すバロメーターに、代表キャップの数(代表試合出場数)がある。100回を超えれば超一流と言われるが、それはあくまでも国内の基準だ。ブラジル代表の100回と日本代表の100回とを同じレベルで語ることはできない。

 世界共通の基準は何か。それはCLの出場試合数になる。CL史において100回を超えた選手は計38人。最高はイケル・カシージャス(177回)で、以下、C・ロナウド(162回)、チャビ・エルナンデス(151回)、ラウール・ゴンサレス(142回)、ライアン・ギグス(141回)、メッシ(135試合)……と続く。

 日本人では最高が香川真司の33試合。以下、内田篤人(29試合)、中村俊輔(17試合)、長友佑都(15試合)、本田圭佑(11試合)、小野伸二(9試合)……と続く。これはある意味で、日本の財産を示した数字になるが、貧しいといわざるを得ない。

 昨季(2018-19)出場を果たした選手は、長友(5試合)、香川(1試合)、西村拓真(1試合・CSKAモスクワ)の3人のみ。その合計出場試合数は計7試合で、出場時間にするとわずか計471分しかない。

 マドリードで行われた今季のCL決勝(リバプール対トッテナム・ホットスパー)で、韓国代表のソン・フンミンが、スパーズのエースとして活躍する姿とは対照的だ。

 ロシアW杯ではベスト8までもう一息に迫った日本代表だが、CLにおける日本人選手はインパクトに欠ける。日本代表という団体戦では及第点を示すも個人戦ではサッパリ。日本代表の更なる好成績は、個人戦の戦いと密接な関係がある。

 というわけで、久保にはCLの出場試合数で歴代の上位にランクされる選手になって欲しい。その足場が築けるまで、我々は距離を置くべき。静かに見つめるべきだと思う。それこそが、レアル・マドリーという世界一のクラブに招かれた選手との向き合い方だと思う。

 結局、中田はCL本大会の舞台を踏むことができなかった。シドニー五輪に加え、翌2001年に開催されたコンフェデレーションズ杯に出場したことも響いた。それはセリエA優勝を目指すローマのリーグ戦終盤の戦いと完全に時期が重なっていた。中田は当初、グループリーグの3試合が終わった段階でローマに戻ることになっていたが、日本が勝ち進んだため準決勝終了時まで延長。ローマのリーグ優勝決定の瞬間になんとか立ち会うことはできたが、翌シーズン、パルマへの移籍を余儀なくされた。

 そして、パルマの一員として臨んだCLの予備予選で、ハリルホジッチ率いるリールに惜敗。その後の中田に待ち受けていたのは、選手として下りの階段だった。

 久保を取り巻く日本サッカー界には、教訓にすべき過去のサンプルがいくつもある。それをこの世界の大人たちは活かすことができるか。舞い上がっている人が多そうに見えるのは気のせいか。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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