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コパアメリカにベストメンバーを送れない日本代表の混沌を楽しめ

杉山茂樹スポーツライター
コパアメリカ1999日本対ボリビア@ペドロ・フアン・カバジェーロ MF望月重良(写真:ロイター/アフロ)

 いま一番注目されているのは、来る今月24日に発表されるコパアメリカ(6月14日〜7月7日・ブラジル)遠征の顔ぶれではないだろうか。

 日本サッカー協会には今回、国際的な取り決めで海外組を拘束する力がない。招集が適っても数名だ。国内でプレーする選手もJリーグやアジアチャンピオンズリーグ(ACL)と日程が重なるため、1チームから招集できる人数は限られる。主体はU−22になると言われるが、こちらにも同じ制約が付いて回る。U−20W杯(5月23日〜)のメンバーから久保建英、安部裕葵、大迫敬介の主力級3人が外れた理由は、コパアメリカの日本代表メンバーに名を連ねるからだとされる。

 いずれにせよそれは、各世代の選手が入り乱れる、ベストメンバーにはほど遠い陣容になることは間違いない。

 コパアメリカは、れっきとした南米大陸の代表チームNo.1決定戦だ。大真面目な公式戦に強国とは言えない日本が招かれたなら、ベストに近いメンバーで臨むのが筋というもの。日本と同じ招待国の立場で参加するカタールは、それが可能だと言われる。大会の権威を汚すようなボロ負けは避けたい。0-1、0-2ぐらいなら許されるが、グループリーグの3試合すべて大敗となると格好はつかない。だが、そうはいっても、メンバーの選定には大きな制約がある。ない袖は振れない。

 即席チームになることは必至だ。戦力もさることながらそれ以上に、コンビネーションに大きな問題を抱えることになる。それで世界に向けて胸を張れるサッカーを披露できるのか。

 選ばれた選手もリスクを抱えることになる。よいパフォーマンスが発揮できる環境にはない。下手をすれば戦犯になる。代表選手としてすでに一定の評価を得ている常連選手ほど不安に駆られるに違いない。

 選手選考において、これほど難しい事態に陥ったのは日本代表史上初めてではないだろうか。こちらもこれと言った妙案が浮かばないので、意見さえできない状態だ。参加すべきではなかったと批判するのも、強化の本筋から外れる気がする。

 親善第一でいいのではないかと思う。これまで日本代表について我々は他国、とりわけ欧州諸国に比べ、大真面目に考えすぎる嫌いがあった。

 かつて、「日本代表は常にベストメンバーで臨むもの」と言ったのは、代表監督当時の加茂周氏だが、日本代表はその頃から絶対に負けられない戦いを繰り返してきた。ハリルホジッチが指揮を執った前回ロシアW杯予選でも、最初のラウンド(2次予選)から弱小国相手にベストメンバーで戦った。欧州組を可能な限り呼び寄せ、目一杯戦った。独り相撲を取っているかのようだった。

 しかし、本大会出場国は次回2022年カタールW杯から32から48に増え、アジア枠も4.5枠から8.5に拡大される見込みだ。4.5枠でも予選突破の可能性は75%ぐらいあったが、8.5枠となると100%とは言わないが限りなく大丈夫な状態に近づく。ハードルが大幅に下がるので、予選が予選の意味を果たさなくなる可能性がある。絶対に負けられない戦いというより、少々の負けは許される戦いになる。

 ベストメンバーで戦う必要性のある試合は減る。おのずと若手を試す機会は増える。丸ごとU−22チームで臨んでも問題ない場合も出てくるだろう。強化の概念に変化が生じているのだ。今回のコパアメリカの招集にまつわる一件は、そうした新しい時代の到来を暗示しているように見える。

 Jリーグには、昨季までベストメンバーで試合に臨むことを謳った「ベストメンバー規定」なるものが存在した。J1の場合、その基準は2014年から「スタメンにA契約選手と外国籍選手以上を計6人含まなければならない」となっていたが、これが事実上撤廃されたのだ。

 各クラブはJリーグの他にACL、ルヴァンカップ、天皇杯を戦う。選手を上手に使い回していかないとチームとしての体力を維持することはできない。最もグレードが高いACLに出場するチームは、もしその前後にJの下位チームとの対戦を控えていれば、メンバーを大幅に入れ替えて臨もうとする。ACLには10の力を10ぶつけるが、前後の試合にはメンバーを調整し8とか9のレベルで臨もうとする。それで何とかしようとする。

 いわゆるターンオーバー制を敷きながら過密スケジュールをこなす。選手を上手に使い回し、チームとしての疲労を軽減しながら、総合力の維持に務める。これも重要なベンチワークになっている。

 その昔(2007年)、ACLを戦った川崎フロンターレが、中3日で行われたJリーグの試合にメンバーを大幅に入れ替えて臨み、大敗したことがあった。時の会長、犬飼基昭氏は、川崎Fが当時のベストメンバーの基準を満たしていたにもかかわらず、その姿勢を「ファンに対する裏切り行為だ」と批判した。ところが川崎Fサポーターは次の試合に「犬飼さん、我々は裏切られていません」と皮肉るメッセージを掲げ、チームの戦い方を支持。文字通り犬飼会長に反旗を翻した。

 それから12年後。Jリーグのクラブレベルではすっかり定着したこの概念が、代表チームに適用されようとしている。

 今年1月に行われたアジア杯は、1ヶ月弱の間に7試合を行う強行スケジュールの中で行われた短期集中トーナメントだった。そこで主力として6試合に出場した吉田麻也は大会終了後、所属クラブ(サウサンプトン)に戻っても、出場機会を得ることができなかった。不在の間に出場した選手にそのままポジションを奪われてしまったのだ。森保ジャパンではキャプテンを任されている日本を代表するセンターバック。その彼が所属チームで出場機会を失えばどうなるか。当然、招集されにくくなる。日本代表に選ばれるためには、所属チームでコンスタントに出場していることが前提になる。

 日本代表に長期間参加するあまり、所属チームで干されてしまえば元も子もない。本末転倒とはこのことだ。吉田はなんとか1ヶ月ほどでスタメンの地位を回復したが、それができなければ、笑えない話になっていた。

 大迫勇也の場合はもう少し深刻だった。アジアカップ期間中に負傷。ベンチは治りきらないうちに復帰させ、大会後、怪我人の状態でチーム(ブレーメン)に戻すことになった。復帰まで費やした期間は2ヶ月強。そのコパアメリカへの出場を認めるわけにはいかないとクラブ側が早々に言い出したのは当然の帰結と言えた。

 選手にとって最も大切な場所は代表チームではない。所属クラブだ。報酬を支払っているのはクラブ。協会から代表選手に支払われる報酬はほんとうに微々たるものなので、それで食べていくことは難しい。

 代表チームにとって選手は、所属クラブから一時的に拝借している大切な商品のようなものだ。乱暴な使い方をして怪我を負わせることはできない。

 目先の勝利に惑わされてはならない。代表チームを管理する上で最も大切なことは、本当に重要な試合は何かという見極めだ。少なくともコパアメリカではない。アジアカップでもない。W杯本大会だ。そこを始点に様々な優先順位を逆算し、正しいステップが踏めているか。ブレはないか。その都度、検証する姿勢が不可欠になる。

 U−20W杯、コパアメリカ、さらにはトゥーロン国際大会やキリンチャレンジカップなど、様々な大会を経て、誰がベストメンバーなのか判然としない混沌としたムードに支配されていることを期待したい。ベストメンバーが誰なのか、最後まで分からない方がおもしろい。僕はそう思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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