Jリーグ外国人枠5人でもまだ少ない。サッカー=スポーツと国籍の窮屈な関係

写真:杉山茂樹/SHIGEKI SUGIYAMA

欧州の外国人枠撤廃で下落したJリーグの市場価値

 チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝で難敵ユベントスを倒し準決勝でトッテナム・ホットスパー(スパーズ)と戦うことが決まったアヤックス。最後に優勝したのはミランと決勝を争った1994-95シーズンなので24年前の話になる。

 その翌シーズン(95-96)もアヤックスは決勝に進出。しかし、ユベントスに延長PKで敗れ、連覇を逃した。翌96-97シーズンはベスト4。準決勝で敗れた相手は前シーズン同様ユベントスだったが、1、2戦の通算スコアは2-6で、大接戦だった前シーズンとは異なる大敗だった。

 理由は、このシーズンから欧州内における職業選択の自由(移籍の自由)を主に謳ったボスマン判決の内容が施行されたことにある。有能な若手選手たちが次々とビッグクラブへ引き抜かれていったことで、アヤックスの戦力は大幅にダウンした。

 外国人枠は事実上撤廃された。これは欧州サッカーの近代史を語る時、外せない要素になる。しかし、それが日本の平成サッカー史にも大きな影響を及ぼしたことはあまり語られていない。それまで世界で4、5番手と言われたJリーグの市場価値は、これを機に大きく下落。Jリーグから上質な外国人選手が減っていく原因になった。

外国人枠を撤廃してもなぜ欧州は大丈夫だったのか

 Jリーグの外国人枠は今季、3人+アルファだったこれまでから5人に拡大された。その市場価値は今後、漸次的に回復していくものと思われるが、興隆を極める現在の欧州に照らし合わせれば、増枠への対応が遅かったという気がしてならない。

 外国人枠増は、プレーのレベル向上を促す一方で、その分だけ自国の選手の活躍の場を奪うことを意味する。微妙な問題ではある。プロスポーツならば魅せることに一番の重きを置くべきとの声もあれば、それでは自国の選手が育たないという声もある。

 では外国人枠を撤廃しても欧州サッカーはなぜ混乱をきたさず発展したか。それは選手が国をまたいで行き来する習慣が潜在的にあったこと。そして、その環境がボスマン判決の施行後、さらに促進されたことにある。

 自分のレベルに応じた落ち着き先が複数ある。欧州域内に職業選択の自由がある。一方、日本の周辺=アジアにはそうした環境がない。中国Cリーグ、韓国Kリーグでプレーしろと言われても選手は困るはずだ。とはいっても、欧州のメジャー国でプレーできる選手はごく僅か。CL級の強豪となると、可能性はほぼなくなる。日本人選手が出ていく先を見いだせないまま外国人枠を撤廃すれば、循環サイクルは成立しない。

 現在、日本人の海外組が多くプレーするベルギーリーグは、行き場に困った選手たちの一時的な回避地に見えなくもないが、それはともかく、これは平成から令和に掛けて日本のサッカー界が抱える課題といっても言いすぎではない。

 Jリーグの外国人枠も本来あるべき姿はフリーだ。いずれ外国人枠は撤廃されるべきだと思う。サッカーらしさとは何かといえば国際色だ。いろんな国の選手が入り交じってプレーする姿は壮観で、無数の多国籍軍で溢れるところが欧州サッカーの魅力そのものと言っていい。単一国籍軍=代表チームの戦いの中だけにサッカーの魅力を求めるのは、あまりにももったいない。

無国籍状態と化すCL決勝の現場

 欧州の5つ星スタジアムで順繰りに開催されるCL決勝の舞台は、W杯決勝より断然カラフルだ。両軍のサブを含むメンバーの国籍は毎回優に10を超える。

 昨季の決勝レアル・マドリー(スペイン)対リバプール(イングランド)の一戦で言えば、ベンチ入りした選手の国籍の総数は15。出場選手に限れば13ヶ国となる。出場選手27人中、自国の選手(スペイン、イングランドの選手)はその3分の1に当たる9人(スペイン人5人、イングランド人4人)に過ぎなかった。舞台となったキエフのオリンピアスキ・スタジアム(ウクライナ)には、その数だけ各国国旗が打ち振られることになった。

 このCL決勝戦のスタンドに日本の国旗が靡く日は訪れるのか。日本代表がW杯決勝を戦う日が訪れることを願う声はよく耳にするが、CL決勝を戦う日本人への期待があまり聞こえてこないのは気のせいか。

 ちなみに日本人選手のCL最高位はベスト4。10-11シーズン、内田篤人がシャルケの一員としてマンチェスター・ユナイテッド(マンU)と戦った準決勝だ(91-92シーズン以前のチャンピオンズカップ時代に遡れば、ケルン時代の奥寺康彦さんにも準決勝を戦った経験がある)。

 韓国人選手にはファイナリストがいる。08-09シーズン、ローマのオリンピコでバルセロナと対戦したマンUのパク・チソンだ。そして今季もファイナリストを目前にしている選手がいる。スパーズのソン・フンミンである。次戦、準決勝のアヤックス戦は、そうした意味でも注目すべき一戦になる。10-11シーズンのファイナリスト、パク・チソンが“好選手”だったのに対し、ソン・フンミンは攻撃の柱。スケールの大きな選手だ。

スポーツに国境はある? なし?

 多国籍軍であればあるほど、関心の幅は世界的になる。その一方で、クラブとしてのアイデンティティが失われる恐れもある。自国選手の割合は先述の通り、レアル・マドリーが出場選手14人に対して5人で、リバプールは13人中4人だったが、Jリーグもこの外国人選手の割合は、各クラブに任せていいのではないか。その多い少ないは、すなわち各クラブの色になる。

 バスクの名門、アスレティック・ビルバオは純血主義にこだわるクラブとして知られる。スペイン人か否かではなくバスク人であるか否か。局地的な郷土愛によって支えられているクラブだが、このご時世、逆にそれが強烈な個性として目を引く存在に見えたりする。

 先進的に見えるのはラグビーだ。日本代表なのに外国人選手で溢れている。国籍で線引きされるサッカーとは代表チームの概念が違う。その色をさらに濃くしたのがサンウルブズで、日本のスポーツ界にとって異文化とも言える貴重な役割をはたしている。だが、勝ち負けを論じるだけではもったいない集団であるにもかかわらず、本質的な魅力についてあまり語られていないのが現実だ。来年スーパーラグビーから除外されるとのことだが、この件についても、手をこまねいているばかり。残念がる人の声はあまり聞こえてこない。

 スポーツと国籍の関係が窮屈になっている気がしてならない。来年に東京五輪の開催を控える日本だが、国籍を第一に掲げる五輪的な視点ばかりでスポーツを語ることはナンセンスだ。スポーツに国境はない。無国籍感漂うCL決勝の現場に立ち会うと思わずそう言いたくなるが、そこにたとえばチラッと韓国の国旗が目に入ったりすると、妙に羨ましくなったりする。スポーツに国籍はあると言いたくなる瞬間とはこのことだ。

 スポーツに国境はあるのか、ないのか。問われているのはこのさじ加減だ。さらに国籍で線引きすることが妥当でない選手が次々に現れている実情を踏まえれば、無国籍化及び多国籍化はもっと促進されるべきだと思う。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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