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1トップ下も行ける。大迫勇也を日本代表として長期間、有効活用する方法

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

 決勝戦をUAE(アラブ首長国連邦)ではなく、カタールと戦うことになった日本。苦手意識があるのは、この4年間で1勝1敗1PK負けと分が悪いUAEになるが、現在の戦力はカタールの方が上だ。準々決勝で韓国を破ったゲームを観戦したが、カタールの勝利には必然性があった。VAR判定によるラッキーな勝利ではなかった。

 とはいえだ。日本対カタールの決勝で、カタールが勝利し優勝すれば、それは番狂わせだ。事件というべき大問題かもしれない。戦前、分が悪いと予想された準決勝のイラン戦とは対照的な試合になる。

 準決勝は相手がうまくハマってくれた試合だった。イランを空転させることに成功したが、決勝のカタール戦は日本が主導権を握ることになる試合だ。受けて立たなくてはならない。カタールの注文にハマらないことだ。具体的にはカウンターになる。

 日本にとって心強いのは大迫勇也の復帰だ。準決勝のイラン戦にしても、相手の空転を誘った原因は大迫にあった。高い位置でのボール回しが、大迫が絡むことで格段に滑らかになった。イランはこれに面食らった。日本のパス回しに焦り、平常心を失った。イランがマイペースで試合が運べなかった原因の何割かは大迫が握っていた。

 身長182センチ。スポーツ選手として特段、大柄ではないが、サッカー選手となると話は変わる。貴重な存在だ。特に前線の選手には高い技術に加え巧緻性や俊敏性が求められるが、低身長国の日本では、180センチを越えてくるとそれらの要素は鈍る。ストライカーに求められる身体的な特徴と動作的な特徴との両方を兼ね備えた選手が出現しないことが日本サッカー最大の弱みだった。

 この問題を解決したのが大迫だ。従来の182センチの選手の中で最も巧い選手。細かい技が効く選手。簡単にまとめればそうなる。彼が登場したことで、ボールが高い位置で収まるようになり、パスワークに多彩と安定感がもたらされることになった。

 しかし、その大迫も代表で活躍するようになってまだ2年と少しだ。スタメンを飾るようになったのは2016年の秋。ハリルジャパンの中期以降だ。

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 当初、ハリルホジッチはストライカーとして物足りなさを感じるというような意見を吐いていた。下がらずに高い位置で構えていろ、と。トップの選手と言うより、その下で構える選手のようだ、と。

 縦に速いハリルホジッチのサッカーと、巧さを兼ね備えた大迫のプレースタイルとはけっしてよい関係になかった。故障がちなこともあったが、26歳まで代表で目立った活躍できなかった理由だ。

 ロシアW杯での活躍を経て、いまや日本サッカー界に欠かせぬ選手となった大迫だが、時間が経つのは速いもので、その年齢は現在28歳だ。カタールW杯本大会が始まる2022年11月には32歳になる。選手の寿命は人それぞれ。32歳でも問題ない選手もいる一方で、30歳の声を聞くと急に衰え始める選手もいる。中盤から後ろの選手の方が寿命は長いように思うが、いずれにせよ、ストライカーの32歳は微妙な年齢だ。大迫の後継者探しは早くから行われるべきだが、今回のアジアカップはそうした意味で収穫の少ない大会だった。

 北川航也、武藤嘉紀はそこにパーツとして上手くハマらなかった。さらに言えば、期待の第2列、堂安律、原口元気、南野拓実にも物足りなさを感じた。さすが大迫。「大迫半端ない」が結論では、循環することが宿命づけられている代表チームにとって、好ましい話ではない。話は少しも前に進んでいないことになる。

 日本代表は2022年11月を32歳で迎えるエースとどう向き合うべきか。たとえば将来を見越し、一列下げて使ってみる手もある。具体的に言えば1トップ下だ。今大会では南野拓実が務めたポジションである。

 森保監督はグループリーグ3戦目のウズベキスタン戦を除き、南野を使い続けた。南野がベンチに下がる場合は柴崎岳をそこに充てた。しかしハリルホジッチの言葉ではないが、このポジションは大迫のハマり役に見える。

 そして北川、武藤を大迫の上で使ってみる。こう言ってはなんだが、彼らにとっても、南野よりアタッカーとしての総合力が高い大迫の方が頼りになる存在になるはずだ。

 そしてなにより、日本代表としての戦い方に幅が出る。

 大迫にとっても、ポジションの選択肢が複数あることは、歓迎すべき状況ではないか。1つしかなければ、そこでポジションを失えば、代表チームから去らなければならないが、2つあればその心配は半分に減る。多機能的な選手として重宝される。メンバー交代も多彩になる。

 日本のエース大迫を、どうしたら息の長い選手として代表チームで活躍させるかという話である。

 大迫を超える大型で、巧緻性、俊敏性に富む巧いストライカーが次々育ってくる環境があるなら問題はないが、その可能性が低いなら、大迫のプレーが老成化した瞬間、日本の右肩下がりが始まることにならないように、代表監督はいまから手を打つ必要がある。

 背番号9番も似合うが10も似合う。大迫には9番と10番の二刀流が適している。アジアカップ決勝を前にしたいま改めて、そう思わずにはいられないのである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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