大谷翔平がサッカー選手だったら、ズラタン・イブラヒモビッチになれただろうか

195センチのストライカー、ズラタン・イブラヒモビッチ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 大谷翔平選手が帰国。記者会見を行う姿をテレビで眺めながら思った。もし野球ではなくてサッカーを選択していたら、どれほどの選手になっていただろうか。日本のズラタン・イブラヒモビッチになれただろうか、と。日本代表でプレーする姿を想像してみた。

 193センチ。盗塁も10記録している。身長も高ければ、足も速い。抜群の身体能力、運動能力の持ち主であることは言うまでもない。日本のサッカー界に決定的に不足している素材に見えてしまう。

 197センチのダルビッシュ有。191センチの田中将大。186センチの平野佳寿も羨ましく見える。本格派という感じではないが190センチの岩隈久志も、無い物ねだりをしたくなる選手と言えるが、野球にはなぜ彼らのような優秀な大型選手が多く存在するのか。サッカーには不足しているのか。

 サッカーと野球。運動能力の高い子供は概して野球を目指す。どちらがプロ選手として魅力的か。どちらの世界がお金を稼ぐことができるかを判断の基準にすれば断然、野球だ。プロ野球選手の平均年俸はJ1リーガーの倍を優に超える。プロ野球の方が金銭的に魅力的に見えるからーーとは以前からの通説だが、そうだろうか。スポーツを始める時、プロとして大成するか全く分からない段階で、プロ選手としての金銭的な可能性を基準に進路を決断する子供はそういない。サッカー好きの少年が野球の道を選ぶ場合、それぞれの実態を知っている親の関与が不可欠になる。

 一番の理由は、野球には投手という特殊なポジションがあるからではないか。分かりやすい場所なので優秀な素材、規格外の素材が集まりやすい。

 エースでしかも4番を打ちそうな大物感漂う選手が集まりそうな場所。サッカーではセンターフォワード(CF)かもしれない。しかし、サッカーでCFがエースポジションかといえば微妙だ。最近、変わりつつあるとはいえ10番、トップ下、司令塔への憧憬は、依然として根強く残る。とすれば、求められる能力もまずはテクニック。長身でなくてもオッケーだ。身体能力も絶対的な要素にはならない。

 現在の日本代表で190センチ台の選手はGKのシュミット・ダニエル(197センチ)ただ一人。フィールドプレーヤーでは189センチの吉田麻也が一番の長身で、これに同じくセンターバック(CB)の富安健洋(188センチ)が続く。長身選手を欲しているポジションは1にGK、2にCB。3番目にCFだ。守備的MFも、1人しか置かない布陣なら大型の方がいいが、絶対に必要とされているわけではない。

 4ポジションないし5ポジション。190センチ台の長身選手がいて欲しい場所は限られている。その他の6ないし7ポジションは、逆に190センチ台の長身選手でない方がいい。そこに大型選手がいると全体のバランスが乱れる恐れがある。収まりが悪いのだ。

 大谷が、なにより成功しそうなポジションはGKかもしれない。イメージしやすいのだ。野球はチームプレーとはいえ、個人種目の趣もある。投手はその最たるポジションになるが、サッカーではGKがこれに一番近い。

 次にCB。守備的MFにはサッカー独特のセンスが求められる上に、CFにも多様なテクニックが求められる。背の高さは大きな武器になるが絶対ではない。それ以外の要素を備えていれば、ストライカーとして多様な道を選択することが可能になる。リオネル・メッシ、同じく元バルサのロマーリオのように高度な技術と球技センスがあれば、上背がなくても世界的なストライカーとして十分にやっていける。

 運動能力、身体能力が高い選手。運動神経に優れた選手。最近ではフィジカル的に優れた選手等々、言い方は様々だが、野球の投手の成績がそれらと関係しやすいと思われるのに対し、サッカー選手は必ずしもそうではない。状況を読む力や球技センスなど、あらゆる要素が問われる。よい選手の条件が難解なのだ。先述のようにポジション毎でも求められる資質に大きな違いがある。

 不可欠な要素として全体に共通するのは、俊敏さであり巧緻性だ。最近の日本代表はこの魅力が増している。中島翔哉(163センチ)、堂安律(171センチ)。ロシアW杯では乾貴士(169センチ)が、左SB長友佑都(170センチ)とのコンビネーションを活かして活躍した。日本サッカーの進むべき道を示した気がする。プロ野球でいうならば、彼らは菊池涼介(171センチ・広島)という感じだが、サッカーは対敵動作の連続で、つまり柔よく剛を制す機会に恵まれているので、小ささが輝く可能性を秘めている。小柄な選手の魅力は野球より際立ちやすい。

 まだ代表チームには未招集ながら、162センチの金子翔太(清水)は面白い存在だ。外国人の大型選手が、日本人の小さな選手の俊敏な動きを嫌がっていることはロシアW杯でも確認できている。

 ロシアW杯でも活躍した大迫勇也は、その182センチという上背と技量のバランスを考えたとき、日本サッカー界で最も優れた素材になる。彼以上に巧くて高い選手は見当たらない。歴代の選手を含めれば釜本邦茂さんを忘れるわけにはいかないが、彼とて179センチだった。

 しかし、その大迫も所属のヴェルダー・ブレーメンでは右サイドでプレーする機会が目立つ。チームの欧州内におけるランキングも50位に入るかどうか、だ。残念ながらチャンピオンズリーグ(CL)レベルではない。いまの技量に加えて少なくともあと3センチ、185センチ以上でないとそのレベルには到達しない。イブラヒモビッチ(195センチ)レベル、すなわちバロンドール級を目指すなら、もう10センチの上背が必要になる。

 大谷ならばどうなのか。大迫を見ていると、さらに大きくて巧い選手を待望したくなる。

 だが、現実に目を凝らせば、ロシアW杯本大会を戦った西野ジャパンの平均身長は178.8センチで、前回ブラジル大会に続き32チーム中30番目だった。日本人の成人男子の平均身長は171.5センチなので、それを7.3センチ分しか上回っていない計算になる。ところが、その小ささは致命傷にならなかった。弱々しく感じられる瞬間があったことは確かだった。セネガル戦、ポーランド戦は、ボクシングで言うところのフライ級、バンタム級の集団がミドル級の集団と戦っている感じであり、決勝トーナメント1回戦を戦い惜敗したベルギーに至ってはヘビー級に近い集団だった。

 そのベルギーに日本は最後の段で思い切りパンチを浴び敗れたが、やってやれないことはないとの印象を得たことも事実。「大谷」は不足している要素ではあったが、その不在が、決定的なハンディになったとは言えない。

 もう13センチ高い大迫が見たいと、ないものねだりを続けるより、巧緻性に富んだ小さな選手を各所に散りばめることを考えた方が対外的には効果的。ロシアでの戦いを観戦しながら感じたことはそれだった。

 それから数か月後、その想いは促進している。大型選手に恋い焦がれる前に長所を伸ばせ、である。その配備を最低限に止め、小型に徹して戦ってみた方が面白いのではないか。

 記者会見で明瞭な受け答えをする大谷に改めて感心しながらも、この選手をサッカーに落とし込むことの難しさを再認識した次第だ。少々足が長すぎるし、サッカーユニフォームを着た姿をイメージすることができないのだ。サッカーの難しさ、特殊性を見る気がする。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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