サッカー日本代表監督が、批判されなければならない理由

イビチャ・オシム元日本代表監督(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 柔道、アメフト、レスリング、ボクシング、体操と各競技団体で連続的に発生している不祥事。世間が知ることになったのは、内部告発や週刊誌の報道などだ。各競技をそれなりに長く取材しているスポーツ系メディアは、業界のその悪しき慣例を見過してきたという感じだ。

 各競技団体のお偉いさんや有名監督など、取材対象者に近づこうとすれば、その分、書きにくいことは増える。同業者というライバルがいる手前、距離を置くわけにもいかず、気がつけば適正な距離感を誤り、中立性を担保しにくい領域に身を委ねがちだ。変に親しくなりすぎると、書くべきことは書けない。業界の輪の中に取り込まれることになる。

 レスリング、そしていま話題の女子の体操では、選手選考の不透明さに疑念が向けられている。塚原光男副会長と塚原千恵子女子強化本部長に権力が集中していることに原因があるとされる。

 体操は団体種目もあるが基本的には個人競技だ。競泳、陸上、冬で言えばジャンプやスピードスケート、注目のフィギュアスケートもしかり。

 かつて競泳には、シドニー五輪の選考会で、女子自由形の実力者、千葉すずが標準記録を突破しながら、代表メンバーから漏れるという事件があった。

 陸上ではマラソンの選考が毎度、問題になる。個人競技は基本的に、チーム競技に比べて選手の優劣を順位化しやすい傾向があるにもかかわらず。

 チーム競技は、データの類が多く存在する競技ほど丸く収まる。バスケ、バレー、ハンド、極めつけは野球になるが、数字を示されると選手はそれに従わざるを得ない。防御率1位の選手は外せない。本塁打王や首位打者しかり。監督のこだわりが入り込む余地は残されているが、動かせないデータがあるので、誰の目にも常識的な線が見えている。そうした意味で透明性は担保されている。

 選考が最も不透明な競技は何か。塚原夫妻が権力を掌握しているとされる体操女子のニュースを眺めながら、サッカー選手について思わずにはいられなかった。もちろん、サッカー界に同種の問題が起きているわけではない。日本サッカー協会もこう言ってはなんだが、他の競技団体より圧倒的に普通だ。

 それでもなぜ俺ではなく、あいつが日本代表に選ばれるのかと、真剣に不満を抱いている選手が多くいる。代表チームに限らない。Jリーグの各クラブに所属する選手はもちろん大学生、高校生、中学生も例外ではない。

 それがサッカーという競技の特性なのだ。選手選考の基準がサッカーほど曖昧なスポーツはない。監督の胸三寸。これが現実だ。サッカーも負けてはいないのである。その結果、選手は自分を評価してくれる監督を求めてチームを移る。監督も成績がでなければその任を解かれる。

 監督交代のスピードはサッカーが一番だろう。バランスはそれで保たれている。そのバランスの維持に貢献することがメディアに課せられた使命だ。監督という権力者に対して批評することは、怠ってはいけない最低限の義務になる。

 なぜその選手を選んだのか。メディアは突っ込み、監督は可能な限り丁寧に答える。とはいえデータが少ない競技なので、誰もが納得する答えが返ってくるわけではない。大袈裟に言えば基準は好き嫌いだ。

 イビチャ・オシムは「趣味の問題だ」と言った。その一方で、「キミたち日本人はなぜ私の趣味について侮辱しないのか」と問いかけてきた。「いくら侮辱されても私はまったく構わないが、趣味を変えるつもりもまったくない」とも述べた。サッカー監督という権力者の王道はこれだ。

 バランスは、メディアが突っ込みを入れなければ保たれない仕組みになっている。選手選択は監督にとっては趣味の問題になるが、選手にとって死活問題だ。代表に選ばれるか否かでその後の人生は大きく変わる。だが、選手は監督を批判しにくい立場にいる。監督と選手の関係はまさに強者対弱者。メディアが突っ込む順序はハッキリしている。

 まず監督。しかし、テレビ解説者、評論家で監督批判を繰り広げる人はどれほどいるだろうか。精神論を振りかざし、選手の尻を叩こうとする人が大半だ。

 辛口とは言わない。弱いものイジメ。サッカーらしからぬ批評方法だ。これでは、この世界の健全性は保たれない。各競技団体で露呈した不祥事も、こうした弱腰がその温床になっている。

 日本代表の森保新監督は穏やかそうな顔をしているが、選手選考に絶大な権力を持つ強者だ。自分の趣味を前面に押し出せる立場にある。採用が予想される3-4-2-1なる布陣はその象徴。従来のスタイルではなく、この布陣を選択する理由は何か。監督は説明する義務がある。メディアにも追及する義務がある。

 従来の布陣(4-2-3-1や4-3-3)にはあって、3-4-2-1にはないポジションがある。センターバックは2人から3人に増えたが、サイドアタッカーは4人から2人に減った。サイドバックが消え、何年かぶりにウイングバックが復活した。選ばれる選手の顔ぶれは、これだけで大きく変わる。布陣の変更は、選手選考の基準に大きな影響を与えるのだ。

 監督の交代は権力者の趣味、哲学が変わることを意味する。選手選考の基準も変わる。それは何か。具体的に明らかにされなければ透明性は保たれない。健全さも保たれない。

 森保監督がこれまで述べた言葉の中で、それらしきものを挙げるならば柔軟性になるが、錦の御旗に掲げるフレーズとして、あまりに抽象的だ。弱い。ハイそうですかと簡単に納得するなら、監督という権力者へのチェックは甘いと言わざるを得ない。

 とはいっても、日本にサッカーの特殊性が浸透しているとはいえないので、チェックが甘くても世間から批判を受けることはない。厳しいチェックは過激に映るので、むしろ浮いて見える。監督批判はしにくい環境にある。監督を選んだ協会の会長、技術委員長に対しても同様だ。追及の手は緩い。とすれば、体操女子をはじめとする他の競技団体が露呈させた不祥事を、サッカー界は違いますからと、高みの見物する余裕などないはずだ。

 サッカー界はメディアの批判精神なしに、程よいバランスを保つことはできない。日本の風土との相性は悪いと見る。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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