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長谷部誠に次ぐのは誰か。ハリルJの 守備的MF「最終選考」を考える

杉山茂樹スポーツライター
成長著しい鹿島のMF・三竿健斗(写真:築田 純/アフロスポーツ)

 ロシアW杯に挑む日本代表。今回は守備的MFの人選について検証してみたい。

◆代表入りの可能性(3~4枠)

70%=井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ/スペイン)

70%=山口 蛍(セレッソ大阪)

60%=長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)

60%=大島僚太(川崎フロンターレ)

45%=三竿健斗(鹿島アントラーズ)

20%=田口泰士(ジュビロ磐田)

10%=今野泰幸(ガンバ大阪)

15%=その他

 守備的MFが”脇役”だったのは、もはや過去の話だ。この10年間、「背番号10」に力点を置くサッカーが衰退する一方、アンカー、ピボーテ、ボランチなど、バルサ的に言うところの「4番の選手」の重要性が急激に上昇。布陣のヘソとして位置づけられる、まさにチーム浮沈のカギを握るポジションになった。

 長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)は、そうした時代背景の中でキャリアを重ねてきた選手だ。10番全盛だったジーコジャパン時代に代表に初選出され、以降、オシム、岡田武史、ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチの各ジャパンに、守備的MFとして選ばれ続けてきた。

 しかしその分、年を重ねることになった。現在34歳。選手の寿命は伸びたとはいえ、微妙な年齢を迎えていることは確かだ。昨年は大きなケガも負った。代表を離れる機会も多く、「限界説」も囁かれた。

 そんな状況から一転、所属のフランクフルトではいま、コンスタントに出場を果たしている。好調なチームを支える存在として活躍している。ただし、ポジションは日本代表ではプレーしたことがないセンターバック(3バックの真ん中)だ。

 クラブでは守備的MFから離れて久しい。昨年、日本代表として出場した2試合(W杯アジア最終予選のオーストラリア戦。国際親善試合のブラジル戦)では、危なっかしいプレーを露呈している。

 最終ラインと中盤とでは、選手の密集度が違う。ボールさばきにもより高度な足技が要求される。かつて、岡田元日本代表監督は、長谷部を使う理由について「密集地帯でのボールさばきが、他の選手より安定しているからだ」と述べたが、いまやそれも過去の話のように聞こえる。

 頭脳的および精神的、かつ経験値的には問題ない。心配されるのは年齢的な問題とポジションの適性だ。別のポジションで長くプレーしている間に、感覚が鈍ってしまったとすれば心配だ。

 昨年、長谷部が代表チームを離れている間に台頭したのが、井手口陽介(クルトゥラル・レオネサ/スペイン)だ。敗れれば、大陸間プレーオフに回る可能性が濃厚だったW杯アジア最終予選vsオーストラリアでゴールをマーク。一躍、株を上げた。

 最大の武器は身体能力。ボールを奪取する力に長けているが、一方で守備的MFの選手としてはミスが多い。

 ハリルジャパンは昨年、メインの布陣を4-2-3-1から4-3-3に変更。井手口は、そのインサイドハーフとして起用されるケースが増えている。しかし、今年の1月に移籍したクルトゥラル・レオネサでは、現在まで、満足な出場機会を得られていない。若干足踏み状態にある。

 メインの布陣が4-3-3になると、そのインサイドハーフは攻撃的MFという位置づけになる。自ずと守備的MFの枠は減り、高め(攻撃的MF)の枠は増える。それぞれの関係は微妙に変化する。

 守備的MFの選考には、以下の点がポイントになる。各々バランスが求められ、複数に適応できれば、優位であることは間違いない。

(1)4-2-3-1の「2」が適役な選手

(2)4-3-3のアンカーが適役な選手

(3)4-3-3のインサイドハーフもできそうな選手

 長谷部は、(1)と(2)のタイプだ。

 一方、4-2-3-1時代に長谷部とコンビを組むことが最も多かった山口蛍(セレッソ大阪)は、(1)に限られる。4-3-3のアンカー、バルサ的に言うところの4番のポジションを任せるには中心選手としての気質に欠ける。

 Jリーグ第2節、C大阪が3-3で引き分けたホームのコンサドーレ札幌戦(3月2日)でもそうだった。山口は、試合の状況が2-0から2-1になると、積極的にボールを受けにいかなくなった。

 チームの苦境を自らの力で跳ね返そうとする、精神的な逞しさが見られなかった。長谷部の後釜は山口で決まり! とは言いにくいプレー内容だった。

 井手口が登場する以前は、今野泰幸(ガンバ大阪)が長谷部の代役をこなした。W杯アジア最終予選vsUAE(アウェー)では、とりわけその真価を発揮。ゴールまで奪う活躍で日本を救った。

 今野は、(1)(2)(3)ともにプレー可能なユーティリティ選手。センターバックでのプレー経験も豊富だ。代表監督にとってこれほど使いやすい選手も珍しい。

 とはいえ、現在35歳。長谷部と今野を同時に選ぶことは、チームの構成上難しい。さらに、今野は現在ケガで戦線離脱中だ。選出される可能性は低いと言わざるを得ない。

“うまさ”では大島僚太(川崎フロンターレ)がピカイチだ。昨年末に開催された東アジアE-1選手権で久々に代表復帰を果たした。

 第2戦の中国戦でスタメン出場。負傷のために前半30分でピッチを後にしたが、日本の戦いぶりは大島がピッチを去る前と後とでは、断然に前のほうがよかった。中国戦は、その存在の必要性を再認識させられた一戦だった。

 川崎Fでは4-2-3-1の「2」を務めるが、4-3-3のインサイドハーフでも十分にいける。上のタイプに当てはめれば、(1)と(3)だ。今季はプレーに積極性が増している様子で、より攻撃的になった。4-3-3の使用頻度が増した代表チームを意識したプレーのように見える。

 問題は、川崎F的なサッカーを好まない(縦に速いサッカーを好む)ハリルホジッチとの相性だ。川崎Fらしさの象徴と言っても過言ではない大島にとって、このハードルはけっして低くない。

 いまだ選出されたことが1度もない選手に、どれほど可能性があるか定かではないが、ジュビロ磐田でプレーする代表経験のある2人の中盤選手も、本来なら選出されてもおかしくない実力派だ。

 ひとりは、山田大記。現在は4-2-3-1の1トップ下でプレーするが、4-3-3ならインサイドハーフも可能だ。

 もうひとりは、4-2-3-1の「2」でプレーする田口泰士。彼には4-3-3のアンカーでもいけそうなプレーの幅がある。磐田がよほどの快進撃を見せない限り、「惜しい選手」で終わってしまう可能性もあるが、気にとめておきたい選手だ。

 磐田の2人以上の可能性を感じるのは、鹿島アントラーズの三竿健斗だ。昨季途中、監督交代を機に出場機会を増やし、シーズン終盤ではチームに欠かせぬ選手に成長。12月に行なわれた東アジアE-1選手権に臨む日本代表にも選出された。

 出場は、1-4で大敗を喫した第3戦の韓国戦のみ。それも、後半21分から同学年である井手口との交代出場にとどまったが、プレーは井手口よりよかった。代表デビュー戦にもかかわらず、落ち着いたプレーを見せた。

 世界的に見て、このポジションの選手は大型化している。例外はフランス代表のエンゴロ・カンテ(身長168cm。チェルシー/イングランド)くらいではないだろうか。

 大きくて、うまい選手がこのポジションの主流を占める世の中で、171cmの井手口、173cmの山口は、あまりにも小さい。その点、三竿は181cm。彼が魅力的に見える大きな理由だ。彼には高さに加えて幅もある。

 そして、何よりクレバーだ。慌てたプレーが少ないという点でも井手口に勝る。パス能力も高い。視野が広いのでロングフィードも期待できる。言うならば好選手だ。

 鹿島では、中盤フラット型4-2-2の、半分ボランチ系のセンターバックをレオ・シルバとともに務めるが、現在のプライオリティは、三竿のほうが高い。チーム内においても、外せない選手の地位を確立しつつある。

 この1年で最も化けた選手。日本サッカー界期待の若手といっても言いすぎではない。ハリルホジッチが三竿をどう扱うか、見ものだ。

(集英社 webSportiva 3月7日掲載)

第2回・攻撃的(高めの)MF編はこちら>>

第1回・センターバック編はこちら>>

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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