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NZ戦のイマイチな香川真司に見る、「迷路にはまり込んだ」ハリルJ

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

 ニュージーランド戦は親善試合。メンバー交代は6人枠で行なわれた。いつもの倍だ。ハリルホジッチも試合前、6人すべてを使うと言っていた。メンバー交代が始まった段階でテスト色は強まっていく。その分を差し引いて考える必要がある。

 最初に交代のカードを切ったのは日本。後半15分だった。香川真司(out)と小林祐希(in)、大迫勇也(out)と杉本健勇(in)の交代を機に、フレンドリー色(テスト色)は増していった。

 それ以降よりそれ以前。真実が潜むとすれば後半15分までの戦いだ。後半15分のスコアは1-1。後半42分に倉田秋がマークした得点は、親善試合という環境で生まれた価値の低いゴールと言うべきである。試合後、反省点を挙げながらも、「勝利してよかった」と、倉田のゴールに救いを求めたハリルホジッチだが、それは楽観的過ぎるというべきだろう。

 日本を格上とリスペクトしすぎたのか、ニュージーランドは立ち上がりから引いて構えた。先日の、メンバー発表記者会見で「日本のサッカー教育はボール支配率をベースに作られているようだ」と切り出し、それに対して否定的な言葉を並べたハリルホジッチだが、この試合で日本の支配率は上昇。チャンスを多く作り出し、シュートを連続して放った。

 8分、香川がゴール正面からポスト直撃弾を放つと、攻める日本、守るニュージーランドの構図は、より鮮明になった。後半15分のスコア(1-1)を、この時点で予想した人は少なかったに違いない。

 しかし、この香川のシュートは、むしろ現在の日本が抱える問題点が集約されたシーンだった。惜しいと言ってはいけないシュートなのだ。仕留めなければならない決定機を香川は外した。そう捉えた方がいい。ここで香川が決めなかったので、後半15分まで1-1で推移した。そう言ってもいい。

 香川は23分にも正面から放ったシュートを吹かしている。シュートに持ち込む動き、そしてなによりインステップキックそのものがうまくないのだ。代表試合出場数89試合を数える香川だが、ドルトムント、マンUでのプレーを含めても、この手のシュートを決めたケースは滅多にない。決定力不足というより得意ではないのだ。

 28分、左サイドから武藤嘉紀が折り返したグラウンダーのボールが、香川の足下に届く寸前にカットされたシーンがあった。相手のディフェンダーも楽々止めたのではない。ギリギリ足を伸ばしたので、ややもたついた。ただちに次の動作に移れる体勢ではなかった。

 カットされた側は、そこで頭を切りかえ、奪い返しにいくのが常識だ。奪えなくても、プレッシャーをかければ、相手のミスを誘発できる。にもかかわらず香川は、そこで粘りのない淡泊な動きを見せた。惜しかった余韻に浸るかのようなポーズを取り、ボールへの反応を怠った。

 想起するのはブラジルW杯対コートジボワール戦だ。奪われた後、がっかりしたポーズを取る間に10メートルほど相手においていかれたシーンである。応援精神を削ぐようなこのようなアクションを、香川は時々しでかす。

 長い間、香川とともに中心選手の座に就いていた本田圭佑が選外に漏れたいま、香川の役割は増している。ところがその香川も、この日が4試合ぶりの出場だ。香川も評価を落としている。もし彼が一介の選手なら、すでに外されていた可能性さえある。中心選手不在に陥る危機を日本は迎えているのだ。

 後半15分、その香川は交代の1番手としてベンチに下がった。同じタイミングでピッチを後にした大迫勇也とは、別の意味を感じる交代だった。

 日本の失点シーンはその1分前。後半14分だった。ピンチは相手ボールの右サイドでのスローインから始まった。そして、相手の11番、マルコス・ロハスが、ドリブルで前進する。状況は2対1だった。井手口陽介と長友佑都が、そのアクションに対応していたハズだった。

 だがこの2人は、この時なぜかパニクっていた。この混乱に乗じてロハスは前進。タッチライン際からマイナスの浮き球を中央に折り返した。これをクリス・ウッドがヘッドで叩き込み、日本は同点とされた。これはあってはならないプレーだ。2対1なのに縦突破を許しては、お話にならない。

 最後に対峙した長友の、球際の弱さもさることながら、カバーに入るべき井手口のポジショニングの悪さも目についた。頭の中が整理されていないという感じだった。

 ここ何試合かで急に株を上げた井手口だが、この試合のデキはイマイチだった。身体能力は確かに高い。競り合いにも強い。だが、ゲームをコントロールする力、目は、まだ備わっていない。

 井手口とコンビを組む山口蛍もソツなくこなすが、全体に影響力を持つメッセージ性の高いプレーヤーではない。出場試合数を増やしているが、中心選手という感じはしない。ボランチという操縦桿を握る役目がこの2人にはできていないのだ。

 いわゆる中盤は、これに前述の香川の3人で構成されるが、香川も構成力に乏しい選手だ。これまでの文脈に従えば、後半15分以下の話を引き合いに出すのはためらわれるが、香川に代わって出場した小林祐希と比較すると、それは一目瞭然だ。動きの幅の広さが違う。積極的に絡もうとする姿勢、さらには「やってやるぞ!」という前向きさが伝わってくる、やる気に違いがあるのだ。

 香川の話に戻れば、ならば、シュートぐらいはビシッと決めてくれなくては存在意義がなくなる。中盤としてもFWとしても物足りない1トップ下。さらに加えるならば、サイドでプレーができないポジション的な弱みも抱えている。

 香川には頑張ってもらわなければマズいのだが、限界が見えてきている。その下で構える2人にも本当の意味での信頼は寄せられない。ゲームをコントロールする能力が、いまの日本代表には決定的に欠けている。

 なにより監督が、ゲームをコントロールするサッカーを追究してこなかった。この試合で日本のボール支配率は61%対39%を示したが、率が高い割に試合は暴れていた。パニックに陥るシーンがあった。縦への速さを追究するのはいいが、その分、抑揚の効いたプレーがなくなった。見映えも悪くなり、奥ゆかしさも失われた。それに中心選手不在が加わる。

 日本は迷路にはまり込んでしまったという印象だ。予選は突破したけれど。

(集英社『Web Sportiva』10月7日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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