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ポジション別日本代表の優先順位(1)ハリルホジッチの選手起用を検証。守備の要はなぜ呼ばれなくなったか

杉山茂樹スポーツライター
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

ポジション別ハリルジャパンの優先順位(1)

 ハリルジャパンは2015年3月27日にチュニジアとの親善試合を行なって以来、先日のサウジアラビア戦まで計29試合を戦った。

 その前のアギーレ時代(10試合)を加えた計39試合という数字は、ザックジャパンのこの時期(9月10日)までに比べて5試合、その前のオシム~岡田ジャパン時代に比べて11試合、さらにその前のジーコジャパン時代に比べて18試合少ない。とりわけ親善試合の数は、減少の一途を辿っている。かつて多く存在した国内組だけで戦う親善試合は激減。それは結果的に、ハリルホジッチの欧州組優先策を後押しすることになった。

 そうしたハリルジャパンの現在までの流れを、全29試合に出場した選手のポジションごとの顔ぶれを振り返りながら、いま一度おさらいしてみたい。現在のメンバーに、どのような経緯で辿り着いたのか。問題点、改善の余地はどこにあるのか。検証していく。

●GK編

起用された選手=西川周作、川島永嗣、東口順昭、権田修一

招集されたが出場機会のなかった選手=六反勇治、林彰洋、中村航輔

 アギーレ時代の優先順位は川島、西川、東口だったが、ハリルホジッチが初戦(チュニジア戦)でスタメンに選んだのは3人より若い権田だった。2014年ブラジルW杯のメンバーに、川島、西川と並んで名を連ねたザックジャパン時代の第3GKだ。

 新時代を迎えるかと思ったが、権田のスタメンはこの1試合限りに終わる。その後、体調を崩したこともあって、4試合目(W杯アジア2次予選初戦のシンガポール戦)以降、招集されなくなった。

 スタメン復帰を果たしたのは川島。だが、2015年にスタンダール・リエージュを退団した後、所属クラブを見出せずにいたため、やはりシンガポール戦以降、代表メンバーから外れることになる。

 正GKには西川が躍り出た。以降19試合のうち、スタメンを外れたのはわずか3試合。東口に2試合、川島に1試合、その座を譲ったが、正GKの座が揺らぐことはなかった。だが今年3月、サウジアラビアとのホーム戦で川島にスタメンの座を奪われると、その2試合後には招集メンバーからも外れた。

 西川に物足りなさを感じたことは確かにあった。例えば、W杯アジア最終予選UAE戦(ホーム)で決められた直接FKのシーンだ。西川の反応は弱々しく映った。欧州の一線で活躍するGKならセーブ可能だったと言いたくなるが、それでも決定的なミスを犯したというわけではない。

 一方の川島は、フランスのメスに第3GKとして入団しながら、徐々に出場機会を増やし、評価を上げていた。フランスリーグで采配を振るった経験があるハリルホジッチには、その姿がより好ましく映ったのだろう。海外組>国内組を象徴する交代劇と言ってもいい。

 しかし、だとすれば、川島と西川の関係を入れ替え、西川を第2GKにすればいいだけだ。招集外、つまり4番手以降の選手に格下げする理由はどこにあったのか。

 川島、東口、中村。これが現在のプライオリティだが、この中に全29試合中、16試合でスタメン出場した西川の名前がないのはなぜか。スタメンをいきなり4番手以降に追いやってしまったハリルホジッチ。その筋の通らない采配に、不可解な基準で動く監督の怖さを見る気がする。

 これまで日本を代表するGKといえば、川口能活(98年大会、06年大会のスタメン)と楢崎正剛(02年W杯のスタメン)の名前が浮かぶが、川島がこのままの状態を維持し、2018年W杯に3大会連続スタメンとして臨むことになれば、彼こそが一番のGKになる。今季、所属のメスでどれほど出場機会を得られるか、注目だ。新戦力の台頭はないと見る。

●CB編

起用された選手=吉田麻也、森重真人、槙野智章、昌子源、水本裕貴、丸山祐市(※)

招集されたが出場機会のなかった選手=丹羽大輝、塩谷司、植田直通、遠藤航(※)、谷口彰悟(※)

(※は他のポジションで出場)

 吉田と森重で終わったアギーレジャパン。ハリルジャパンは、吉田と槙野で始まった。ほぼ国内組で戦った東アジア杯(2015年8月)は槙野と森重。その後はアギーレジャパンと同じ、吉田、森重のコンビに戻った。

 吉田・森重=14試合、槙野・吉田=6試合、吉田・昌子=4試合、森重・槙野=3試合、その他=2試合。テストされた選手の絶対数は少なめだが、明らかに入れるべき選手が入っていないというわけでもない。率直に言って、CBは人材難のポジションである。

 中心に位置するのは吉田。出場可能な状態にある場合は、ほぼすべて招集されている。W杯アジア最終予選でも10試合すべて出場。途中交代もなく、ピッチ上で900分以上プレーした。

 長谷部誠の不在時にはキャプテンも務めるが、全幅の信頼が置けるプレーヤーかといえば、長谷部と同様にノーだ。直近の試合では、W杯アジア最終予選対イラク戦(アウェー)。イラクに許した同点ゴールは、吉田が一瞬、クリアを躊躇したために生まれた失点だった。

 それでいながら、2011年のアジアカップ(カタール)で正式に代表入りして以来、第一人者の座を守っている。現在サウサンプトンでプレーする海外組。CBでは唯一の海外組なので、ライバルさえいない状況だ。そこで出場機会を失わない限り、代表スタメンは安泰。日本のレベルアップにそれがどれほど貢献するかは別にして、だ。

 国内組の筆頭格は森重だった。2017年3月28日に行なわれたタイ戦まで、全25試合中19試合に先発。交代出場も1試合ある。ところが、25試合目に当たるタイ戦を最後に、スタメンはおろか、招集メンバーからも外れている。

 GKの西川と同じ外され方だ。3番手、4番手に下がるのなら分かる。スタメンで調子が出なければ、サブに下がる。これが常識だが、森重は一気に圏外へと葬り去られた。森重の所属クラブであるFC東京が、よくないサッカーをしていることも理由のひとつなのかもしれないが、何がハリルホジッチの逆鱗に触れたのか。独裁色の強い激情采配を感じさせる。

 森重に代わりスタメンの座を掴んだのは24歳の昌子源。総合力の高いバランスの取れたプレーヤーで、とりわけフィード能力という点では吉田、森重を上回る。

 また槙野は、当初CBとして選ばれていたが、最近ではSBのサブとして、23人の枠内に入っている。所属の浦和レッズでは3バックの左サイド。4バックの左SBとは似て非なるポジションだ。ユーティリティ性に富んだ選手という感じではない。4バックの布陣を採用する代表に入ると、居場所を見いだしにくい選手になる。(つづく)

(集英社 Sportiva web 9月15日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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