ネイマールのパリSG行きが、バルサにもたらしそうなメリットについて

(写真:ロイター/アフロ)

 ネイマールが違約金およそ289億円で、バルセロナを出てパリサンジェルマン(PSG)へ移籍することになりそうだ、とか。

 バルサ対PSG。両クラブの関係で想起するのは、昨季のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦だ。バルサが、第1戦の劣勢(0−4)を、第2戦でひっくり返し、通算スコア6−5でまさかの大逆転勝利を飾った一戦である。

 その第2戦で、通算スコアを3−5から5−5にする2ゴールを挙げ、劇的勝利に貢献したネイマール。移籍が成立すれば、彼にとって昨日の敵は今日の友になる。

 PSGとすれば、少々高額な違約金を支払うことになるとはいえ、屈辱的な敗戦を喫した相手の中心選手を引き抜くことになるわけだ。逆転負けのショックから一転。してやったりの心境だろう。

 バルサにとってはどうだろうか。ネイマールを放出するメリットとデメリットの関係だ。天秤に掛ければ、メリットの方が勝る。手放すにはいいタイミングを迎えている。僕にはそう見える。

 メッシ、スアレス、ネイマール。俗に「MSN」と言われるバルサの3FWは、宿敵レアル・マドリーの3FW、ベイル、ベンゼマ、C・ロナウド(俗称BBC)より数段、関係が良さそうに見える。

 C・ロナウドに、他の2人が気を遣いながらプレイしている(ように見える)BBCに対し、仲よさげにプレイしている。余裕のあるときは、自らのゴールチャンスさえも譲る。打てる状況でも、あえてラストパスを送る、花を持たせるというシーンをしばしば見かける。

 とはいえ、3人の親密度は必ずしも一定ではない。濃厚な関係にあるのはメッシとスアレスだ。少なくともサッカー的には。

 両者は、2人で真ん中と右サイドのエリアを分かち合っている。メッシが真ん中に入れば、スアレスはサッと開き、右サイドに回る。お互いがお互いのポジションを絶えず気にし合う関係にある。2人がネイマールが構える左に入り込んで行くケースは少ない。

 単独でのプレイが多いのはネイマール。コンビネーション上、MSNの中では最も、いなくなって困らない選手だと言える。

 さらに得点力だ。昨季メッシが挙げたゴール数は37。スアレスは29。これに対してネイマールは13だ。メッシ、スアレスの方がネイマールより真ん中でプレイする機会が多いので、当然といえば当然の結果だが、見劣りする数字であることも確かだ。

 あるいは、これについて、ネイマールの方が不満を抱いている可能性がある。真ん中でのプレイ機会が増えなければ、得点数は伸びていかない。FWとしての評価も上がらない。彼がPSGへの移籍を希望する原因かもしれない。バルサにおけるメッシ、レアル・マドリーにおけるC・ロナウドのように、FWの中心としてプレイしたい。ネイマールがそう考えたとしても不思議はない。このままでは、バロンドールへの道は開けない(ネイマールにその実力があるかどうか、少しばかり怪しいが)。

 左ネイマール、真ん中と左がメッシとスアレス。バルサの問題をお復習いすれば、3人のコンビネーションは上々ながら、登場人物が限られている点だ。その固定化された「頭」は、バランス的にとても重たく感じられた。

 メンバー交代に際して、選択肢としてまず考えられるがFWの入れ替えだ。FWは消耗品。動きが落ちたら即、入れ替え。これが交代のセオリーだ。4−3−3の布陣なら、FW3人こそがいちばんの交代候補。

 ところが、バルサのMSNは、簡単に触ることができない選手たちだ。本来、動かしたい場所なのに動かし難い、ともすれば重たい存在になっていた。

 よって、交代の選択肢に広がりが生まれず終い。ベンチに下げる選手と、異なるポジションの選手を投入する戦術的交代など、有機的な交代が行いにくい状態にあるので、バルサの「表情」に変化は起きなかった。頭が重たすぎる弊害に、シーズンを通して悩まされることになった。

 例えば、ベンチに座るスペイン代表FW、パコ・アルカセルに、これだという登場機会は見いだせなかった。

 レアル・マドリーは違った。BBCの中で動かせないのはC・ロナウドのみ。ベイルとベンゼマをベンチに下げることに、大きな支障はなかった。ベイルが故障を抱えたことも幸いした。ルーカス・バスケス、マルコ・アセンシオら、若手にも多くの出場機会が与えられ、そして彼らは期待に応え活躍した。チームに多彩さをもたらした。

 BBCの関係は息苦しくても、フィールドプレイヤー10人の関係は上々。逆にバルサは、MSNの関係は上々でも、フィールドプレイヤー10人の関係に非有機的な問題を抱えていた。

 そうして中で湧いたネイマールの移籍話。バルサにとっては頭が重たすぎる体質に終止符を打つ絶好の機会だと思う。ネイマールの代わりに新しく加わる選手が誰になるのか。コウチーニョ(リバプール)らの名前が挙がっているが、誰が来ても、ネイマールよりずいぶん「軽い」。

 重たい選手が去り、より軽い選手が加入することはバルサにとって悪いことではない。むしろ蘇るチャンス。

 まず監督ありき。サッカーのスタイルにこだわるのがバルサだとすれば、レアル・マドリーは、まず選手ありき。伝統的に監督ではなく、スター選手の力で栄華を築いてきたーーとは、現地の長老記者の両チーム評。その見解に基づけば、グアルディオラ以降のバルサは、監督ありきではなく、選手ありきに陥ってしまった。MSNの存在が大きすぎて、監督の首を締めることになった。気がつけば、レアル・マドリー化したという印象だ。逆に、最近のレアル・マドリーには、従来のバルサ的要素が加わっている。

 ネイマールのPSG行きは、バルサにとって体質を改善するチャンスだと思う。

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、2018年ロシア大会で連続10回現地取材となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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