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レナト・サンチェスは12年前のC・ロナウドより上。ポルトガル4強

杉山茂樹スポーツライター

グループリーグ3分け。決勝トーナメント1回戦(クロアチア戦)も90分間の戦いに限れば0−0。そしてこの準々決勝は延長PK戦だ。90分の試合では、ポルトガルは5試合連続引き分け。1勝もしていないのにベスト4に進出した。前代未聞の珍事と言える。

要するに4試合連続大苦戦。そしてこの試合でも、ポーランドに先制点を奪われた。しかも開始2分に、である。左からカミル・グロシツキにグラウンダーで折り返され、ロベルト・レバンドフスキにインサイドできれいに決められた。

ただ、プロセスにはちょっとした不運もあった。右サイドからポーランドのウカシュ・ピシュチェクが蹴ったサイドチェンジのボールは、ポルトガル右SBセドリック・ソアレスの前で大きくバウンド。頭上を越えてアシスト役となったグロシツキの足もとに収まったのだった。

ポルトガルは早々に、これまでのパターンを想起させる展開に陥った。ただし、この日のポルトガルには、従来と異なる点もあった。

決勝トーナメント1回戦、クロアチア戦の原稿でも触れた18歳のレナト・サンチェスが、スタメンから登場したことだ。これまで、2戦目のアイスランド戦を除く3試合に交代出場。徐々に存在感を発揮し、クロアチア戦では決勝ゴールに繋がる単独ドリブルを披露するなど、株を大幅に上げていた。

その彼を、フェルナンド・サントス監督はこの日、頭から起用した。この決断が奏功した試合。ざっくりひと言で言えばそうなる。

先制点を奪われ、危なっかしい展開に誘い込まれそうなポルトガルに、レナト・サンチェスがこれまでにはない勢いを与えていたのは確かだった。前半33分、レナト・サンチェスは、中盤のアドリアン・シルバから右サイドでボールを受けると、前方を行くナニに縦パス。ヒールでのリターンを受けると、おもむろにボールを右から左に持ち替えた。このワンアクションだけで、シュートコースが生まれた。この日のハイライトシーンとなる、同点ゴールの瞬間だ。

彼を従来通り、後半なかばから投入していたら、ポルトガルがこのタイミングで追いつけていたかどうか怪しい。

延長120分間の戦いを経て1−1。試合はPK戦に委ねられることになった。そしてレナト・サンチェスは、ポルトガルの2番手のキッカーに抜擢された。弱冠18歳に、ベンチは大役を任せたわけだ。

代表選手として120分の戦いは初めてだろうし、大一番におけるPK戦も初体験だったはず。実際、終盤の彼は、体力的にきつそうだった。同点弾を決めた頃の勢いはすっかり失われていた。PK戦。クリスティアーノ・ロナウドの次に登場した18歳に、一抹の不安がよぎった。外してしまうのではないか、と。

しかし、こちらの心配も何のその、レナト・サンチェスは、左上にズドンと決めた。この試合のマン・オブ・ザ・マッチは彼の頭上に輝いたが、このPK成功も評価を高める要因だったに違いない。

すっかりポルトガル代表の中心選手になったレナト・サンチェス。この先、彼がどれほどの選手になるのか。まだ若すぎて予想することは難しいが、細かなステップを経て繰り出される縦への推進力は、すでに一級品だ。他の選手にはない個性、能力を備えている。

C・ロナウドが初めて出場したユーロは、いまから4大会前(12年前)。自国開催の2004年大会。その時、彼は19歳だったが、いまのレナト・サンチェスの域には達していなかったように思う。

そのC・ロナウドにも、この試合のマン・オブ・ザ・マッチに輝くチャンスがあった。後半41分。MFジョアン・モウチーニョが繰り出したふわりとした浮き球パスは、ポーランドDFの頭を越え、C・ロナウドのもとに出た。彼は身体をひねりながらダイレクトのボレーでシュートに及んだのだが、なんと空振り。トラップして態勢を整え、落ち着いてシュートをしても決まっていたのではないかと思えるほど余裕があったが、豪快に空振りをした。

PK戦はポーランドの4人目、ヤコブ・ブワシュチコフスキが失敗。ポルトガルGKルイ・パトリシオにセーブされ、5−3でポルトガルの準決勝進出となった。試合を押していたのはポルトガルなので、このPKの決着には判定勝ちと同じような意味がある。

とはいえ、両者は55対45より接近した関係にあった。ボール支配率に関しては46対54で、ポーランドに上回られていたほどだ。ここにポルトガルの弱みを感じる。ポーランドに技術力で上回るのに支配率で勝れない。

ボールを奪い返すのに時間が必要なサッカーになっている。1回攻めたら、1回守る。攻めた時間以上に攻められる。確実に相手にボールを保持される。技術的に劣る相手に、だ。90分の試合で5試合連続引き分けてしまう理由もそこにある。

ポーランドが好チームであったことも確かだ。おそらくこれまで見たポーランド代表の中で一番だろう。ポーランドを直近で、生観戦したのはウェンブリーで行なわれた2014年W杯予選、対イングランド戦(2013年10月)だ。ポーランドは0−2でおとなしく敗れ、ブラジル行きを逃した。

だがいまイングランドと戦えば、7対3の確率で勝てるだろう。ボールを的確な場所に運び、ゴールを狙う。ゴールへのルートが見えた攻撃か否か、攻撃が論理的か否か、という点で、少なくともイングランドを上回っている。

今大会は、プレー態度が真面目なチームの躍進が目立つ。忠実さと勤勉さをベースに健闘するチームが目立つ。ひとつはウェールズはじめ、イングランドを除く英国系のチーム。技術で劣っても、へこたれることなく黙々とプレーする。パニックに陥りにくいサッカーをする。

もうひとつのグループがドイツ系だ。ハンガリー、そしてポーランドはこのグループに入る。骨太。それでいて論理的。レバンドフスキのようなワールドクラスも存在する。この試合がPK戦に及んだことが、僕にはとても順当な結果に見えたのだ。

(初出 集英社 Web Sportiva 7月1日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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