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首位で決勝T進出のフランス。「特殊なサッカー」は強豪国に通用するか

杉山茂樹スポーツライター

フランス2勝、スイス1勝1分。フランスは突破を決め、スイスもほぼ大丈夫という設定の中で行なわれたA組の3戦目。

結果は0−0で、フランスに続き、スイスも2位で通過を決めた。きわめて常識的な結果に終わったが、お互いが空気を察し、気の抜けた戦いを繰り広げたわけではない。それなりに面白い試合だった。目に新鮮な試合と言ってもいい。

この0−0を、あえて独自の判断で数値化すれば53対47になる。フランスやや優勢。だがその差は僅かで、実際のスコア(0−0)は、妥当な結果になる。

開催国で優勝候補の本命であるフランスに対し、スイスの人気は10番手以下。フランスは、この試合に余裕をもって臨める立場にあったとはいえ、それを差し引いても「53対47的な0−0」に満足することはできないだろう。前戦アルバニア戦に続く苦戦。ホームではなくアウェーなら、やられていた可能性さえ感じる。

ところで、フランスは美食の国だ。食に対して並々ならぬこだわりがある。食の水準の高さは欧州随一。食への高いこだわりを持つ日本人が、シンパシーを抱きやすい国だ。日本人には80年代、そのフランスのサッカーに心酔した過去があるが、理由はサッカーが美味に見えたから。コク、うま味成分満載の食事を口にした時に抱く、なんとも言えぬ満足感。それに近い感じが、当時のフランスサッカーには満載されていた。

フランスは、82年スペインW杯、86年メキシコW杯ともに準決勝で西ドイツに敗れている。しかし、フィジカルに優れた勝者を悪役にする魅力的な技巧を備えていた。柔よく剛を制することはできなかったが、ドイツではなく、フランスのサッカーに傾倒する日本人は多くいた。

それから30年経った現在のフランスに、当時の面影はもはやない。コクやうま味成分を感じないサッカーに変貌を遂げている。スイス戦を見てつくづくそう思った。ひたすら硬い肉を食わされている感じ。むしろスイスのサッカーの方に食指は動かされた。

フランスのサッカーは、ともかくフィジカルだ。よく言えばダイナミックだが、悪く言えば非論理的。展開力ゼロ。体力で圧倒し、その勢いを最大の拠りどころに、攻めきってしまおうとする強引な方法論だ。その軸になるのがポール・ポグバだ。相手GKをアタフタさせたり、バー直撃弾を放ったり、この日も大暴れ。こちらの目を釘付けにした。

同じくインサイドハーフ役で先発を飾ったムサ・シソコもポグバ系。つまり彼らがゲームメイクを担当したわけだが、これでは豪快さは演出できても細工はきかなくなる。

フランスの攻撃陣の中で唯一、技巧を備えている選手はアントワーヌ・グリーズマンだ。彼にボールが収まると瞬間、うま味成分を感じることになるが、彼はゲームメーカーではない。4−3−3の右ウイングだ。にもかかわらず、真ん中に入り込み中盤選手のようにプレーする。そうした時間が圧倒的に長い。

自分がその役をこなさなければ、攻撃は単調になる――とは、グリーズマンの言い分だろうが、彼が真ん中に入れば、相手ボールに転じた瞬間を、バランスを崩した中で迎えることになる。したがってそのボール奪取に、時間を費やすことになる。

1回攻めたら、1回攻められるサッカー。フランスは連続攻撃がきかないサッカーに陥っていた。ボール支配率に至ってはスイス59対フランス41の関係に持ち込まれた。

つまり、スイスの方がパスがよく繋がった。展開力でも上回った。マイボールを失う危険性では、スイスはフランスを下回っていた。この日のスイスは、これまで見た中で一番と言いたくなるいいサッカーをした。かつてのフランス的な匂いを感じた。

後半31分、右サイドでボールを受けたシソコが、187センチの巨体を揺らしながら大外をドリブルで豪快に進む。そしてゴールライン際まで走りきり、逆サイドまで届く、マイナスの深々としたセンタリングを折り返した。待ち受けていたのは初戦(対ルーマニア戦)でMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に輝いたディミトリ・パイエ。その左足から放たれたインステップも豪快だった。ゴールは決まらなかったが、バーを直撃。スタンドを埋めた自国のファンまでも、目を丸くさせてしまうド迫力の一撃だった。

これまでに見たこともない特殊なタイプのチームである。パワフルでフィジカルな攻撃を武器に、どこまで上り詰めることができるか。さすがに優勝は難しいのではないかとの思いが7、8割方を占めるが、新鮮な存在であることも確か。ドイツ、スペインなど強豪国とどんな戦いの模様を描くのか。フランスのサッカーから、サッカーらしい妙味を味わうことができるのか。未体験ゾーンに突入しようとしている。

(初出 集英社Web Sportiva 6月20日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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