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R・マドリー、ヴォルクスブルクに完敗。CL優勝争いを混沌とさせた「邪心」

杉山茂樹スポーツライター

本命はチャンピオンズリーグ(CL)史上初の2連覇を狙うバルセロナ。対抗は僅差でバイエルン。レアル・マドリードが3番手で、パリSG、アトレティコ・マドリードがそれを追う――準々決勝を迎えた段階で、欧州サッカー界にはこのような順列が描かれていた。それが準々決勝第1戦を終えたいま、大きく乱れた不確かな状況に激変した。

レアル・マドリードは、国内リーグのクラシコで、本命バルサを討ち、3番手から一躍、主役の座に躍り出たかに見えた。ところがその4日後、伏兵ヴォルフスブルクとのアウェー戦に0−2で完敗する。

ヴォルフスブルクがよいサッカーをしたことは間違いないが、レアル・マドリードがよくないサッカーをしたことは、それ以上に確かな事実だった。バルサホームのクラシコで退場者を出し、10人になりながら2−1で勝利したお祭りムードは即、収束。CL敗退の可能性が少なく見積もっても50%ある、「4日天下」と言われかねない大ピンチに見舞われることになった。

だが、こうした混沌を招いた最大の原因は、バルサにあると僕は見ている。本命の足元がグラついたことに起因する展開だ、と。クラシコについてもこう見る。レアル・マドリードがよかったというより、バルサがダメすぎた、のだと。

バルサはその3日後、同じくカンプノウで、CL準々決勝第1戦のアトレティコ・マドリードと対戦。2−1で勝利した。しかし前半35分、フェルナンド・トーレスが赤紙退場になるまでスコアは0−1で、内容も完全にアトレティコのペースだった。

数的優位(11対10)になってからも、圧倒することができなかった。ビセンテ・カルデロンで行なわれる第2戦。今のままでは危ない。バルサの突破確率もレアル・マドリードと同様、50%に届くかどうかといった感じだ。

前半35分までのアトレティコは、特段守るわけでもなく、堂々と普段通りのサッカーをした。それでバルサを圧倒した。レアル・マドリードは反対に、普段とは異なるサッカーをした。クリスティアーノ・ロナウド、ガレス・ベイルが、文字通り両ウイングとして、バルサのサイドバックの攻撃参加に完璧に対峙した。

バルサはそのどちらに対しても後手を踏んだ。88~90年、チャンピオンズカップ時代のミラン以来、2連覇を達成したチームが出現していない理由を見る気がする。1年目の謙虚な姿勢を貫けずにいるのだ。

アトレティコのサッカーはもともと謙虚だ。相手のボールをいかに奪うかを始点に、試合に臨んでいる。R・マドリードは本来、謙虚さゼロ、厚かましいマイボール重視のサッカーながら、クラシコではアトレティコ的な姿勢で臨み、勝利を収めた。

バルサも昨季は謙虚だった。相手ボールの奪い方、マイボールの奪われ方、それぞれに工夫があった。言い換えれば、昨季はピッチをくまなくカバーできていたが、現在は、それができていない。エリアを支配できていないのだ。特に右サイド。リオネル・メッシのポジションはどこなのか。4−3−3の右ウイングのはずだが、彼はそこにほとんどいない。今季、シーズンが深まるにつれ、その傾向を強めている。

これまでにも、そうしたシーンはたびたびあったが、ルイス・スアレスとイヴァン・ラキティッチの気が利いたポジション移動で解決できた問題だった。メッシの奔走なプレーを彼らのカバーリングの精神で補ってきたわけだが、現在のようにメッシにほぼ常時、真ん中にいられると、それは無理な注文になる。2連覇を狙うチームの、これこそがまさに邪心だ。

バルサの右サイドは、右サイドバック、ダニ・アウベス1人になる。その前方(右の奥)にボールが運ばれる機会は減る。右を有効に使えないために、ボールを奪われる位置は真ん中に偏る。

クラシコでバルサに向かってきたレアル・マドリードは、エリアを支配できていた。C・ロナウド、ベイルは、自由奔走に流動的に動き回らず、なにより与えられたエリアをカバーすることを心がけていた。R・マドリードに“メッシ”はいなかった。

バルサの邪心はクラシコに続き、3日後のアトレティコ戦も健在だった。本来メッシが構えるべき右サイドの状況が変わらぬなら、敗退の可能性はいっそう高まるものと考えられる。

ところがクラシコの4日後、ヴォルフスブルクと対戦したR・マドリードは、すっかり元のチームに戻っていた。バルサ的なサッカーをしてしまった。C・ロナウドは、メッシと化していた。そこを邪心ゼロのヴォルフスブルクにつけ込まれた。逆に、ヴォルフスブルクの4−3−3の両ウイング、ユリアン・ドラクスラー(左)、ブルーノ・エンリケ(右)に有効なサイド攻撃を浴びる結果になった。

チーム力は高いのに邪心が低いチーム。その代表格はシメオネ率いるアトレティコになるが、さらにその上を行くのは、グアルディオラ率いるバイエルンだろう。知名度の高い選手で固められているのに、変な我を持つ選手は皆無。フランク・リベリーしかり。彼はメッシでも、C・ロナウドでもない。本命と言いたくなるが、心配は、ドイツ国内に敵らしい敵がいないことだ。バルサ、R・マドリード、アトレティコの3者が絡み合うスペインの状況とは異なる。最大の敵は平和ボケと言うべきだろう。

欧州に漂うこの混沌。準々決勝第2戦を経てどう変化するか。急変必至だと僕は思う。楽しみだ。

(集英社 Web Sportiva 4月7日 掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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